仲代達矢の“秘蔵っ子”井手麻渡が映画初主演で見せた覚悟
名優・仲代達矢が主催する無名塾出身の井手麻渡(いで・あさと=29)が映画『ある町の高い煙突』(6月22日公開)で映画初主演を果たす。インタビューに応じた井手が、初主演映画や10年間背中を見続けてき仲代への思いを語った。
『ある町の高い煙突』で茨城の社会活動家役
名優・仲代達矢が主催する無名塾出身の井手麻渡(いで・あさと=29)が映画『ある町の高い煙突』(6月22日公開)で映画初主演を果たした。映画は、新田次郎の小説が原作。明治時代、茨城・日立鉱山で起きた煙害問題を解決しようと立ち上がる青年たちの姿を描く。井手が演じたのは、茨城の社会運動家、関右馬允(せき・うまのじょう)をモデルにした関根三郎役。初主演映画や10年間背中を見続けてき仲代への思いを語った。
――出演の経緯を教えてください。
「仲代さんが先にこの映画に出演すること(主人公の祖父役)が決まり、監督とプロデューサーが無名塾のけいこを観てくださりまして、声がかかり、主人公のオーディションに参加させていただきました」
――決まった瞬間はいかがでしたか?
「まさか、自分が……とは思っていなかったので、『やった』というより、『どうしよう』っていう気持ちの方が正直、強かったです。後日、監督から聞いた話ですが、稽古場での雰囲気が(主人公の)三郎に似ていたので、オーディションにも呼んでくださったそうです。その時、けいこしていたのはドイツの作家ブレヒトの作品。無名塾で海外ものをやる時は髪を染めるのですが、年末年始の休みの期間で、アルバイトをするために、髪の毛を黒くしていたんです。もし、金髪のままだったら、声をかけていただけなかったかなと思います(笑)。何かの巡り合わせがあったのかなと思います」
――主人公の関根三郎というのは実在の人物がモデルですが、ご存じでしたか?
「原作者の新田次郎さんは『剱岳』を始め、映画になった作品がたくさんあるので、もちろん知ってはいたんですけれど、『ある町の高い煙突』は読んだことがありませんでした。クランクインの前に、日立で資料館を見たりし、この物語や登場人物たちが本当に地元の方々に愛されているなっていうのを実感しました。プレッシャーになるのと同時に、何かエネルギーになった気がします。『あそこは三郎さんの家だから、行った方がいい』とか教えてくださりました。小説の中には三郎と加屋淳平(渡辺大)がよく神峯山に登ってお喋りをするシーンがあるので、神峯山にも登ってみました。小説ではヒョイヒョイ登っているんですが、実際は結構、大変でした」
――その実在の人物を演じるのは、そのご子息もいるので、気遣うところも出てきますよね。
「日立での試写会の際に、関右馬允さんの孫娘の方が見てくださいまして、ロビーで僕を見かけるなり、『おじいちゃん』って、呼ばれました。その方は僕より遥かに年上の女性ですが、喜んでくださったのかと思い、本当に嬉しく思いました。実在の人物の話を映画化するっていうのは、こういうふうに人に喜んでもらったり、幸せにすることもあるんだと実感しました」
――仲代さんからは、どんなアドバイスを?
「塾生の頃のけいこは本当に厳しくて、一つの動きだけでも、1、2時間かけて稽古をつけてくださるんですけども、本公演や映画で共演していただく際は、『共演者』として扱ってくださるので、アドバイスというのは、あまりしないんです。ただ、今回は乗馬のシーンがあり、仲代さん自身が乗馬の達人でもあるので、『ケガだけは気をつけるように』とは言われました」