稲川淳二が障がい者アーティストを支援する理由 育成プロジェクト「稲川芸術祭」がスタート

最優秀作品に贈られる特製の「グリーンちゃんちゃんこ」マネキン【写真提供:(C)稲川芸術祭】
最優秀作品に贈られる特製の「グリーンちゃんちゃんこ」マネキン【写真提供:(C)稲川芸術祭】

こんな時代だからこそ懐かしさと優しさのある怪談を

 稲川の次男・由輝(ゆうき)さんは、生まれつき障がいがあり、8年前に26歳の若さで旅立った。

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「家庭の事情やなんやらいろいろあって女房が面倒を見ていたんですけど、私も合間を見ては会いに行ってましたね。ある時、息子が工作を私にくれましてね。今でも大事に取ってありますけど、たまにそれを見るんですけどね。……泣いちゃうんですよ。だからこういう作品を見るとすごくうれしくてね。今でも息子が私の側にいてくれているような気がしますよね。

 我々は、才能がない部分をテクニックでごまかしているけど、こうやって送ってくれた絵を見ているとどれも素直に心を見て描かれていてますよね。和みますよ。こんなに楽しいお化けが出てきたら、たまんないですよ。私はいつも言ってるんだけど、怖いと思うのはこっちの一方的な感情なんですよね」

 作品の締め切りは9月1日まで。9月23日に受賞者の発表、および表彰式を実施する予定だ。取材した会場では「稲川芸術祭」最優秀作品の受賞者に贈られる記念品の除幕式も行われた。司会者の合図で稲川が幕を下ろすと、ゴルフの松山英樹選手が着たマスターズの「グリーンジャケット」ならぬ、特製の「グリーンちゃんちゃんこ」を羽織った“ピクトグラム風”のキャンペーン・マネキンが現れた。

「私と言えばやっぱり“ちゃんちゃんこ”ですからね(笑)。色がまた良いでしょ? 今回一番輝いた方。もちろん皆さん輝いているんだけれど、特に優れた作品を送っていただいた方にこれを着ていただこうと思っています」とニヤリ。

 最後に夏の風物詩「MYSTERY NIGHT TOUR 2021 稲川淳二の怪談ナイト」の話も聞いた。回を重ねること今年で29年目となるが、例年以上に恐怖を感じる怪談話やなぜかほっこり笑える心霊写真コーナーの2本立てと今年も昭和の懐かしい匂いがする、ゆったりとした時間が流れた。

「今年の怪談は、『そういえば昔こんなことをおじいちゃんが言ってたな?』といった懐かしい話と、穏やかで優しい話を用意しました。きっと皆さんも怖いだけじゃなくて心に中にある優しさを思い出したりするんじゃないかな。今はなかなか自由になれない窮屈な時代ですからね。そんな時こそ目の前にあるものだけじゃなくて、心の中にあるものを振り返ってみるのもいいんじゃないですかね」

 昨年に続いて新型コロナウイルスの影響を受けつつも、万全の感染対策を施して全国ツアーを開催している。稲川も8月21日で74歳を迎えるが、今年も公演期間中はストイックな生活を送り、感染対策を徹底して舞台に立つ。

「感染対策だけは幽霊に助けてもらっているなんて言いませんから(笑)。間違いなくファンの皆さんの力ですよね。昨年もそうでしたが、規制退場だって場所によっては30分以上待たされるところだってあるのに、お客さんは誰1人文句を言わないで待ってくれるんです。そういう人たちに助けられて公演ができているんですよね。本当に感謝の気持ちでいっぱいです」

「怪談ナイト」は10月31日、沖縄・ナムラホールまで全国50公演を予定している。

□稲川淳二(いながわ・じゅんじ)1947年8月21日、東京都渋谷区恵比寿生まれ。桑沢デザイン研究所を経て工業デザイナーとして活動し、過去には専門学校や短期大学にて立体構造の講師として教べんをとる。96年度には、個人でデザインを手がけた「車どめ」が、当時の通産省選定のグッドデザイン賞を受賞。元祖リアクション芸人と怖い話で茶の間をにぎわせていたが、45歳の年に怪談ライブを始め、その反響の大きさに感銘を受け、残りの人生を怪談家として没頭することを決意。55歳の全盛期に周囲の反対を押し切り、あらゆるレギュラー番組やドラマ出演から降板した。2012年、「MYSTERY NIGHT TOUR 稲川淳二の怪談ナイト」の20年連続公演の偉業が認められ、8月13日が「怪談の日」として制定された。また、 昨今は怪談家としての活動のみならず、障がいのある子の親の見地からバリアフリーや人権がテーマの講演会にも精力的に参加する。

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