レスラーに必要な「華と殺気と色気」 すべてを持ち合わせる「エース」棚橋弘至の“人間力”

「エース」棚橋弘至はまだまだ健在。頂点への返り咲きも決して夢ではない。

ドームのメインイベントに帰ってきた棚橋弘至【写真:柴田惣一】
ドームのメインイベントに帰ってきた棚橋弘至【写真:柴田惣一】

毎週金曜午後8時更新「柴田惣一のプロレスワンダーランド」

「エース」棚橋弘至はまだまだ健在。頂点への返り咲きも決して夢ではない。

 新日本プロレスの至宝IWGP世界ヘビー級王座奪取に挑んだ棚橋。王者・鷹木信悟にはね返されたものの戦前の不安説を吹き飛ばすファイトは「さすが」の一言。東京ドーム大会のメインイベンターにふさわしいことを改めて満天下に示した。

 当初は、飯伏幸太の挑戦が決まっていた7・25決戦だが、誤嚥(ごえん)性肺炎で飯伏は前哨戦を欠場。飯伏の状態をにらみながら、棚橋はそのときを待った。7・24名古屋大会でKENTAを下し「準備、できてま~す」とスタンバイOKをアピール。見事にメインイベント出陣をつかみ取ったのは決戦当日の午前10時だった。

 かつてはドームのメインの常連だった棚橋だが、ここ最近はご無沙汰。エースのひのき舞台への復活は歓迎されたものの「大丈夫か?」という声が渦巻いたのも確かだった。現在、絶頂期にある王者・鷹木である。正直、今の棚橋のコンディションでは「勝機は見いだせないのでは」という見方が大半だった。

 ところが、さすが棚橋だ。鷹木のパワーを真っ向から受け止め、捨て身の場外へのハイフライフローで爆撃し、テキサスクローバーホールドで絞り上げた。なおも、おそらく誰よりも悔しい思いで見つめているであろう飯伏の十八番・カミゴェも繰り出し、バリバリの王者を何度も追い込んだ。

 鷹木のラスト・オブ・ザ・ドラゴンに3カウントを奪われたが、37分26秒の激闘は見事の一言。潔く引き揚げると、鷹木の「あんた、やっぱりすごいよ」というマイクが背中に届いた。

 棚橋をたたえる鷹木の素直な言葉だったが、そこに「ねぎらい」のニュアンスを感じ取ったのだろう。スクリーンにリングを振り返った棚橋の顔が一瞬、映し出されたが「オッと、そうはいかんぞ」と言いたげだった。

 実際、棚橋はドームに鳴り響く大拍手にも納得していなかった。負けは負け。ベルト奪取はかなわなかったのだ。悔し涙を浮かべ「もう弱音は吐かない。もう一度、はい上がってみせる。決して諦めない」とまくし立てた。

「もう限界」など、とんでもない。「次は勝てる」と思わせた棚橋。エースの底力に驚かされたが、それは努力と節制のたまもの。コロナ前の中華会食では、麺は少なめ。点心は食べない。サラダはドレッシングなし。杏仁豆腐も「食べたいけどやめとく」とキッパリ。夜は炭水化物なし。徹底した食事管理でコンディションを維持している。

「引退したら甘~いフレンチトーストを食べたい。現役のうちは我慢、我慢」と、深いエクボを見せて笑ったのが忘れられない。逸材は一日にしてならず。日頃の鍛錬あってこそだ。

 ファンサービスも素晴らしく、棚橋に接すると明るく楽しい気分になると大評判。以前に接したファンを覚えていて、その人に即した声をかける。まさに天才的だ。

 そしてオーラもある。街中で偶然、会ったことがあるが、離れた位置から歩いて来た棚橋をすぐ認識できた。服を着ていると、レスラーに見えない選手も多いが、棚橋はパッと華やかで人目を引く。

 レスラーに必要なのは「華と殺気と色気」と言われるが、棚橋はすべてを持ち合わせている。まさにプロレスの申し子だ。

 8月14日(日本時間15日)米ロサンゼルス大会で、IWGP USヘビー級王者ランス・アーチャーへの挑戦も決まった。エース・棚橋はまだまだ輝き続ける。

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