コロナ禍でも「ここに限って客離れはない」 渋谷・のんべい横丁の今とこれから

東京都に出されていた3度目の緊急事態宣言が解除され1週間あまり。都が定めた酒類提供の要件のもと、街にも少しずつ活気が戻りつつある。1店舗10席にも満たない小さい店が軒を連ねる渋谷・のんべい横丁。前回の東京五輪が開催された1964年創業の居酒屋「会津」の現オーナー・御厨浩一郎さんは、のんべい横丁の「広報担当」という一風変わった肩書きを持つ。

1964年創業の居酒屋「会津」の現オーナー・御厨浩一郎さん【写真:ENCOUNT編集部】
1964年創業の居酒屋「会津」の現オーナー・御厨浩一郎さん【写真:ENCOUNT編集部】

前回東京五輪の年に創業した老舗を98歳で亡くなった先代ママから引き継ぐ

 東京都に出されていた3度目の緊急事態宣言が解除され1週間あまり。都が定めた酒類提供の要件のもと、街にも少しずつ活気が戻りつつある。1店舗10席にも満たない小さい店が軒を連ねる渋谷・のんべい横丁。前回の東京五輪が開催された1964年創業の居酒屋「会津」の現オーナー・御厨浩一郎さんは、のんべい横丁の「広報担当」という一風変わった肩書きを持つ。(取材・文=佐藤佑輔)

「広報としか表現しようがなかっただけですよ(笑)。横丁の取材や撮影、ロケの依頼は多いけど、共通の窓口やルールがなくて、テレビなんかだとこの狭い店内に10人くらいクルーが押しかけることもあった。それなら自分が引き受けようと。正直めちゃくちゃ大変ですけどね」

 昨年4月、1度目の緊急事態宣言に合わせ、39店全店で休業を決定した。先の見えない状況の中、青山学院大学の卒業生と協力し有志でクラウドファンディングを立ち上げ。1か月余りで目標額の400万円を上回る約450万円が集まった。高齢で手続きが分からないママの代わりに協力金を申請するなど「広報・渉外」の枠に収まらない仕事も引き受ける。

「緊急事態宣言で閉めてるって言ってるのに、毎日やってないかのぞきに来るような常連さんがついてるところ。クラウドファンディングの手応えはあった。ほとんど顔の浮かぶ方からの募金の中、『いつかのんべい横丁で飲むのが夢です! 私が行くまでつぶれないでください』というメッセージもあった。営業再開するとすぐに満席。ここに限っては客離れの心配はないです」

 常連同士が膝を突き合せて飲む“密”な空間が売りの一帯。高齢の店主や常連も多く、コロナ禍に不安がないわけではない。協力金も小さな店舗の経営維持には十分な額だが、それでも休業中は「みんなウジウジしていた」と語る。

「ここもこの10年くらいでずいぶん変わった。昔は20代30代じゃ若造扱いされて入りづらかったのが、今じゃ若い人が年寄りの話を求めてやってくる。コロナの前には横丁のルールを知らない外国人が増えてゲンナリしたこともあったけど、ガイドブックに細かいルールやマナーまで載せてもらうようしつこく頼んだら、そのうちカタコトの日本語で『スイマセン』と言って入ってくるようになった。世代交代の波もある。98歳で亡くなった先代ママに限らず、今までたくさんのばあちゃんを見送ってきた。ビルばかり建って渋谷の文化が失われていくなか、ここに残っているものくらいは伝えていきたい」

 渋谷・のんべい横丁の“広報”は、コロナ禍にもめげずにこの街の文化を発信している。

トップページに戻る

あなたの“気になる”を教えてください