米出身漫画家が「鬼滅の刃」を徹底分析 マンガ学会で研究発表「炭治郎の中にモンスター」

鬼舞辻無惨に感じる「嫌悪」と「魅力」の同時性

――「鬼滅」に登場する鬼に関しては謎が多いように思います。人を食わないと上に認められないとなると鬼も努力が必要。十二鬼月の上に君臨する人食い鬼の首魁・鬼舞辻無惨は強大な存在です。

「無惨を理解するのに役立つのが『7つのテーゼ』の中の一つである『モンスターはカテゴリークライシスの兆し』という理論です。これはシンプルに言うと、一つの枠にはめられない、ということです。無惨は複数の性別や複数の年齢を行き来する。こうした流動性はカテゴリーを超えているので分類ができなくなり、行動が読めなくなる。さらに強大な力を持っているので『鬼は退治するもの』という現状維持への脅威となる。だから人間側の恐怖心が高まるのです。次いで『モンスターに対する恐怖心は実は好奇心』という理論。モンスターの文化的人気が継続する理由は、モンスターの構成の中心にある『嫌悪』と『魅力』の同時性です。人はタブーに興味がありますから、モンスターの力や自由に憧れるのです」

――邪悪なキャラなのに思い通りに変身できる無惨に読者は自由を感じているのかもしれませんね。自由といえば、地下の世界に自在に出入りできる鬼も登場します。

「人間が入りにくい隙間などに隠れる、姿も自由に変えられるからこそ逃げられる。ここは『モンスターは必ず逃亡する』という理論に合致します。消したくても消せない存在として終わりなき復帰を果たします。鬼退治という儀式を成立させるためには当然ながら鬼の存在が必要であり、従って逃亡は繰り返され、文明の進化と同時にモンスターは変わっていくのです。『鬼滅』でも主人公・炭治郎の成長とともに鬼はより複雑化していきます」

次のページへ (4/5) 「外」の世界に踏み出すことの大切さを描写
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