市ノ瀬加那、全力投球から広がった演技の幅 “強キャラ感”演出に試行錯誤「全部が挑戦だった」

異なる世界観を持つ3つの物語で構成されるオリジナルアニメーション映画『GROTESQQQUE-グロテスク-』。ポップでカラフルな世界観が広がる一編『エリィアンズ』で、地球のカルチャーに憧れる宇宙人の主人公・エリーを演じるのが、声優の市ノ瀬加那だ。彼女にとって、本作を手がける錦織敦史監督は、キャリア初期に出演した『ダーリン・イン・ザ・フランキス』の監督として出会った特別な存在。今回、再びタッグを組むと知った際には、監督の名前を見て「速攻で『やります』と伝えた」という。久しぶりに同じ現場に立って改めて感じたことや、エリー役への向き合い方、國蔵謙人役・星野源との掛け合いなどについて話を聞いた。

『エリィアンズ』で主人公・エリーを演じた市ノ瀬加那【写真:増田美咲】
『エリィアンズ』で主人公・エリーを演じた市ノ瀬加那【写真:増田美咲】

オリジナルアニメーション映画『GROTESQQQUE-グロテスク-』の中の1作、『エリィアンズ』で、主人公・エリーを演じる

 異なる世界観を持つ3つの物語で構成されるオリジナルアニメーション映画『GROTESQQQUE-グロテスク-』。ポップでカラフルな世界観が広がる一編『エリィアンズ』で、地球のカルチャーに憧れる宇宙人の主人公・エリーを演じるのが、声優の市ノ瀬加那だ。彼女にとって、本作を手がける錦織敦史監督は、キャリア初期に出演した『ダーリン・イン・ザ・フランキス』の監督として出会った特別な存在。今回、再びタッグを組むと知った際には、監督の名前を見て「速攻で『やります』と伝えた」という。久しぶりに同じ現場に立って改めて感じたことや、エリー役への向き合い方、國蔵謙人役・星野源との掛け合いなどについて話を聞いた。(取材・文=すなくじら)

――錦織監督とは、監督を務められた『ダーリン・イン・ザ・フランキス』(以下『ダリフラ』)以来ですが、出演のお話を聞いた時のお気持ちから教えてください。

「本当にうれしかったです。監督を務められていた『ダリフラ』は私が初めてメインでやらせていただいた作品で。だからこそ、錦織監督は自分の中における本当に特別な作品を作ってくださった方なんです。その監督と改めて一緒に作品を作れることが、すごく楽しみでした。

 いつか劇場作品でメインキャラクターをやってみたいという気持ちもあったので、楽しみしかありませんでした。どういう作品になるのかは、最初は全然分からなかったんですけど、お話をいただいた時にまず監督のお名前を見て、速攻で『やりたいです!』と事務所に伝えました」

――市ノ瀬さんから見て、錦織監督はどんな方なのでしょう。

「役者の気持ちに寄り添ってくださる方だと思います。『ダリフラ』でイチゴちゃんを演じていた時、女の子に告白されるシーンで何度もやり直して、本当に分からなくなってしまったことがあったんです。『どうしたらもっと良く演じられるんだろう?』と悩んでいたら、錦織監督が『市ノ瀬さんが迷っていたら、イチゴがかわいそうだから、まずは自分が思ったお芝居をぶつけてみて、違ったら違ったで録りなおせばいいから』と、すごく優しく言ってくださって。

 そこから一気に気持ちが楽になりました。1人で背負い込まなくていいんだ、と気づけたんです。まず自分が思ったお芝居をぶつけてみる。ダメならダメで、監督からリアクションをいただける。そのことは、今でも自分の中に残っています」

――台本を読んだ時と、完成した作品を見た時。それぞれの印象も聞かせてください。

「台本の第一印象は『何が起こるか分からない』でした。それが最後まで続いて、プレゼントを開ける前のような高揚感がずっと続く作品だなと思いました。

 完成した映像を見ると、『こういうものが見たかった』というものがぎゅっと詰め込まれていて。3つのエピソードはそれぞれ方向性が違うのに、どれも色彩豊かですし、カメラワークや演出ひとつ取っても“いいとこ取り”が詰まっているといいますか……。本当に最後までワクワクしっぱなしでした」

――錦織監督と最初にご一緒してから年月もたちました。今回、改めて現場に参加して感じたことを教えてください。

「錦織監督はずっと錦織監督なんです(笑)。最初にお会いしてからかなり年月がたちましたけど、私も当時の気持ちがすごくよみがえってきました。自然体でいられるといいますか……。とにかくあたたかい方なので、私も何かお返ししたいなとずっと思っていました」

――ここからはエリーについて伺います。最初に台本を読んだ時、どんなキャラクターに映りましたか。

「どことなく読めないキャラクターだな、というのが最初の印象でした。地球を純粋に楽しんではいるけれど、本当の感情はどこにあるんだろう、と。アフレコ前に監督とお話したときも、宇宙人ならではの大物感があったり、地球人の真似をしてあえて笑っている部分があったり、自分の感情とは少し違うところで、“あえてそうする”行動もあるのかもしれない、と。

 どこまでが本心なのか、最初はなかなかつかめませんでした。感情は結構表に出しているように見えるんですけど、本当にどこまでが本心なんだろう、とすごく考えて。友達について語るシーンではそれなりに落ち込んでもいるように見えるのですが、それもどこまでが本心なのか……。ぜひ皆さんの目で感じ取っていただきたいです」

――収録を重ねるうちに、その“つかみどころのなさ”を表現するための塩梅も見えてきたのでしょうか。

「そうですね。徐々に見つけていきました。どこか読めない感じを出すために、全部に感情を乗せないようにする。100%乗せてしまうと、その感情そのものに聞こえてしまうので、6割くらい楽しそうにしているけれど少し抑える……みたいな塩梅の切り替えを意識していました。

 物語が進むにつれて、序盤よりも謙人さんとの仲が深まっていくので、より等身大のエリーの感情にも近づいていったと思います。ずっとつかみどころがないままではなく、少しずつ変化していったんじゃないかな、と」

――エリーはとても純粋に見える一方で、自分の行動が良いことなのか悪いことなのか、あまり意識していないようにも見えます。市ノ瀬さんは、その危うさも含めてエリーをどう捉えていましたか。

「エリーは、善悪をあまり分かっていないんじゃないかなと思います。無意識にやらかしていることはめちゃくちゃ多そうですけど(笑)。謙人さんに『これは悪いことですか?』と聞くシーンもありますし、良いか悪いかよりも、『自分がこうしたいからこうする』という気持ちが強いキャラクターなのかなと。良かれと思ってやったことが、実は周りからしたら迷惑だった、ということもありそうですよね。

 謙人さんが良いことと悪いことの基準をちゃんと伝えて、エリーに寄り添ってくれたからこそ、今のエリーがあると思います。逆に、謙人さんではなく悪い人がそばにいたら、そっちが当たり前だと思ってやっていたかもしれません。周りにいる人によっても変わるんだろうなと思います」

エリーと一緒に地球の文化を楽しむなら「遊園地に行ってみたい」と語った【写真:増田美咲】
エリーと一緒に地球の文化を楽しむなら「遊園地に行ってみたい」と語った【写真:増田美咲】

「アニメ好きな方にはきっと刺さる」作品に

――その謙人を演じた星野源さんと、初めて掛け合った時の感触を教えてください。

「実際に掛け合ってみると、すごく不思議な居心地の良さがありました。星野さんが声のお芝居もされていることは聞いていましたし、もちろん歌手としても知っていたので、最初は謙人さんはどんなお芝居で来られるんだろうと思っていたんです。でも、初めての掛け合いなのに安心感があるといいますか、謙人さんとずっと一緒にいたかのような心地よさがあって。謙人さんはエリーを見守る立場でもあるので、星野さんのお芝居だからこそ、自分もエリーとして『友達になりたい』という気持ちや、心を開くきっかけをもらえた気がします」

――エリーと謙人の関係性は、収録の中で自然に作られていった部分も大きかったのでしょうか。

「そうですね。『ここはこうしよう』という話は特にせず、お芝居の中で感じたものをそのまま受け取らせていただきました。謙人さん自身も結構面倒見がいいキャラクターで、そこが星野さんのお人柄ともすごくマッチしていて。私もエリーとして、自然と星野さんが演じる謙人さんに心を開いていった感覚でした」

――『ダリフラ』から年月を重ねた今、ご自身のお芝居やキャラクターとの向き合い方に感じている変化も聞かせてください。

「当時は本当に体当たりというか、全力投球でした。役作りも、キャラクターの裏にある感情をどこまで考えればいいのかも分からなくて、右も左も分からない状態から始まったので。成長したかどうかを自分で言うのは難しいですけど、作品の感じ方やキャラクターの捉え方は変わってきたと思います。当時は自分の持っている生っぽいお芝居しかできなかったところから、少しずつキャラクター性のあるお芝居もできるようになってきた、という感じでしょうか」

――もし『ダリフラ』当時の市ノ瀬さんがエリーを演じていたら、今とはかなり違ったアプローチになりそうですね。

「全然違っていたと思います。たぶん当時のお芝居だと、逆に元気すぎるエリーになっていたんじゃないかな(笑)」

――ちなみに、エリーと一緒に地球の文化を楽しむなら、何をしてみたいですか。

「一緒に遊園地に行ってみたいです。絶対喜びそうですよね(笑)。エリーなら、何もかも『わー!』って楽しんで、ジェットコースターとかも全然怖がってはいなさそう。リボンの代わりにカチューシャとか何か別のものをつけてあげたり、遊園地のご飯を一緒に食べて『おいしいね!』って言い合ったりしたいです」

――最後に『GROTESQQQUE-グロテスク-』をこれから見る方へメッセージをお願いします。

「とにかく、アニメ好きな方にはきっと刺さる作品だと思います。色彩が本当に豊かで、観ているだけでも楽しいので、お子さんにもぜひ観てほしいですね。年齢や性別を問わず楽しめる作品だと思うので、まずは一度、劇場で観ていただきたいです。観てもらえたら、この作品の面白さは絶対に伝わると思います!」

□市ノ瀬加那(いちのせ・かな) 12月20日、北海道生まれ。「第6回 シグマ・セブン声優オーディション2015」に合格し、2016年4月に事務所に入所。18年1月放送のテレビアニメ『ダーリン・イン・ザ・フランキス』のイチゴ役で初のメインキャストを務め、19年4月のテレビアニメ『Fairy gone フェアリーゴーン』のマーリヤ・ノエル役で初主演。第15回声優アワードで新人女優賞、第18回声優アワードで主演声優賞を受賞。オリジナルアニメーション映画『GROTESQQQUE-グロテスク-』の『エリィアンズ』では主人公・エリーを演じる。

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