トラウマ級の名作をあえて現代版に 清水崇監督が『八つ墓村』で若い世代へ突きつける陰湿な恐怖

「できればやりたくない。荷が重すぎますよ」。Jホラーを代表する清水崇監督(54)が、横溝正史の名作ミステリーを新たに映画化する『八つ墓村』(9月18日公開)のオファーを受けた時の率直な感想だった。尾上松也(41)を金田一耕助役に迎え、原作の時代設定を現代へ移した意欲作。清水監督が描こうとしたのは、たたりや呪い以上に恐ろしい人間の心だった。

インタビューに応じた清水崇監督【写真:ENCOUNT編集部】
インタビューに応じた清水崇監督【写真:ENCOUNT編集部】

オファー受けた際の感想は「できればやりたくない。荷が重すぎますよ」

「できればやりたくない。荷が重すぎますよ」。Jホラーを代表する清水崇監督(54)が、横溝正史の名作ミステリーを新たに映画化する『八つ墓村』(9月18日公開)のオファーを受けた時の率直な感想だった。尾上松也(41)を金田一耕助役に迎え、原作の時代設定を現代へ移した意欲作。清水監督が描こうとしたのは、たたりや呪い以上に恐ろしい人間の心だった。(取材・文=平辻哲也)


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 清水監督にとって、『八つ墓村』といえば、まず野村芳太郎監督、渥美清主演の『八つ墓村』(1977年)だった。しかも、オファーを受ける前年、新文芸坐のスクリーンで見直していた。

「野村版の当時のトラウマと印象が強すぎて、『なんで俺がわざわざもう一回?』というのはありました。何か新しさを見いだせないと、ちょっとどうしようかなって」

『八つ墓村』は映画、テレビドラマを通して繰り返し映像化されてきた。野村版だけではない。市川崑監督の『八つ墓村』(1996年)をはじめ、多くの金田一耕助が誕生している。名作への敬意があるからこそ、「清水版」を作る意味が必要だった。

 答えの一つが、舞台を現代に移すことだった。ただ、そこには大きな難題があった。

「現代に組み入れると成立しないんですよね。法律も改正されているし、探偵業もプロファイリングやインターネットがある。いろんな機器を使いこなす金田一を、みんなが求めているのかというと、ちょっと違う。そのバランスをどう取るかはありました」

 脚本作りは難航した。原作には人物、事件、過去の因縁が幾重にも盛り込まれている。その全てを映画の尺に収めるのは難しい。

「ある1箇所を調整すると、別の箇所が破綻する……原作は、それだけ上手く絡み合って成立しているからですが。あまりにも情報量が多いんですよね。2時間、3時間で到底描けるものではない。いろいろな映像化作品を観直して、なるほど……忠実にやるのは多分無理だなと思ったんです」

 そこで発想を切り替えた。原作の再現ではなく、自分が『八つ墓村』から受け取ったものを次の世代に渡す。

「何も知らない若い人に『これが八つ墓村です。どうぞ』って見せられるものにしたい。原作を読んで『全然違うじゃん』となってもいい。僕も野村版を観た後に原作を読んで、そうだった。でも、どっちも好きだったので。そういうものにできたらなって」

 現代に置き換えたことで、逆にはっきり見えてきたものもある。それが、人が集団になった時の怖さだった。世の中で一番怖いものは?と聞くと、「人の集団心理ですかね」と即答した。

悪意よりも怖いものとは

「自分の顔も隠したまま、好き勝手言えるじゃないですか、SNSで。昭和の当時よりも、それが顕著に出ているのは怖いなと思いますね」

 怖いのは悪意だけではない。むしろ、本人が「自分は正しい」と信じ切っている時だという。

「自分が正義だって信じている人の偏った暴走は止めようがなく恐ろしい。僕も身近で目の当たりにしてきています。たとえ、『それが違いました』ってなっても、今度は『実は違いました』と訂正や謝罪は、なかなか全部には広まらないし、修正が効かないじゃないですか」

 閉ざされた村で疑念や偏見が膨らんでいく横溝作品の世界。それは、SNSで誰もが情報の送り手になった現代にも通じる。清水監督は「現代の方が、陰湿な怖さを表現できる」と感じたという。

 その現代版『八つ墓村』で金田一を演じるのが尾上松也だ。金田一は石坂浩二、古谷一行、渥美清、豊川悦司ら、多くの俳優が演じてきた。それぞれにファンがいるからこそ、清水監督は「みんな違っていい」と考えた。原作では意外にも金田一の登場場面は多くない。野村版の渥美も、清水監督の言葉を借りれば「最後に全部解説しに来てくれる人」に近い。そこから石坂らによって、映像作品ならではの金田一像が作られてきた歴史がある。

「世間的認知は、おそらく石坂浩二さん。でも横溝先生のイメージは三枚目で、渥美さんの金田一には頷いていたらしいんですよ。最初の片岡千恵蔵金田一はスーツだし、高倉健金田一はオープンカーに美人秘書……実は様々な金田一が描かれてきたんです」

 一方、清水監督が「一番プレッシャーなのは、多分要蔵」と話すのが、滝藤賢一(49)だ。田治見久弥と要蔵の一人二役を演じる。

 要蔵といえば、『八つ墓村』(1977年)で山崎努が演じた姿があまりにも有名だ。頭に2本の懐中電灯をくくり付け、日本刀と猟銃を手に村人を襲う。映画を見ていない人にも知られるほどの強烈なビジュアルである。

「野村版の印象が強すぎるし、僕も好きだったから意識はしてしまう。なので、未見の俳優陣には『観なくていいです……我々で新しいのを作りましょう』と話しました。滝藤さんはすごくストイックな方で、『久弥が病人に見えるか』『要蔵として走れるか?』と凄く気にされていて 」

 撮影場所にも妥協しなかった。岡山県高梁市の広兼邸は『八つ墓村』(1977年)でも使われた建物で、今回も田治見家として登場する。現在は観光地として整備され、手すりや駐車場も設けられている。そのため現代の設備はCGで消した。一方で、何でもCGで済ませたわけではない。

 その象徴が、要蔵が桜の中を走る場面だった。問題は桜の開花時期だった。満開になれば観光客も集まる。雨が降れば一気に散る可能性もある。

「野村芳太郎さんの時には、背景にでかい桜が1本だけだったんですよ、実は。だから、もう両側から並木にしたくて。チーフ助監督が毎日のように開花タイミングをチェックしました。桜吹雪もCGにできるんだけど、いや、それだけじゃないという思いで取り組んでいたので、大変だけど楽しかったです」

「僕の中では恐怖と笑いはあまり変わらないんで」

 完成した作品は、ミステリーを軸にしながら、後半になるほど清水監督らしい恐怖演出が加速する。

「特に最後の方は、僕もう振り切ってしまったんで。そのバランスは難しかったですね。あんまり最初からホラーに行きすぎたら、謎解きも何もない。そもそも金田一必要ないじゃんってなっちゃうし」

 もっとも、清水監督自身は、子どもの頃からホラー一筋だったわけではない。13、14歳ごろまでは、むしろ苦手だったという。

「最初はもうビクビクしながら、『なんでこれ観たいわけ?』って、目を背けながらだったのが、だんだん楽しみ方が分かってきて、自分からも観るようになったっていう感じでした。だから、(ホラー映画の監督になるとは)思いもしなかったし、今でも『なんで俺が?』って時々、思います。ずっとコメディー撮りたいのに……僕の中では恐怖と笑いはあまり変わらないんで」

 ホラー以外の仕事もある。角野栄子の児童文学を実写映画化した『魔女の宅急便』(2014年)を手掛けたほか、テレビドラマ「東京少女 桜庭ななみ」第4話「小さな恋」(2008年)では、恋愛ものも演出している。9月末に終映を迎えるプラネタリウム作品「9次元からきた男」では、難しい超弦理論を可視化し、誰でも楽しめる娯楽要素を交えて描いた。

「ホラーってエッジが効いているから、目立っちゃうんですね。実はテレビの恋愛ものとかも撮ってるんですけど、誰も知らない」と笑う。

 近年はホラー作品が続き、今夏は『口に関するアンケート』(2026年)、『だぁれかさんとアソぼ?』(2026年)、そして『八つ墓村』(2026年)と作品が重なった。夏になれば清水作品。そんなイメージまで定着しつつあるが、本人には複雑な思いもある。

「『どういうペースでやってんですか』って言われます。楽しいですけど、もう少し時間が欲しいですね。自分が作った作品が公開されて、良くも悪くもお客さんの反応とか数字とかも見て、プロデューサーやスタッフ仲間と語り合うとか、自分の中でそしゃくする時間が、今ないので」

 それでもSNSで反応をのぞくことはある。

「ちょこちょこエゴサはしますけど。神保町のそば屋で『清水発見』とか、そんなことはどうでもいいんだよ、映画の感想書いてくれよと」

 ホラー映画より人間の方が怖い。冗談交じりの話も、最後には『八つ墓村』の核心につながった。

 閉ざされた村の噂が人を追い詰めた時代から、誰もが発信者になり、一瞬で情報が拡散する時代へ。舞台は変わっても、人間が集団になった時の危うさは消えていない。清水監督は約半世紀前に観客を震え上がらせた『八つ墓村』(1977年)の恐怖をコピーするのではなく、2026年の観客が足元に感じられる恐怖へと置き換えた。

■清水崇(しみず・たかし)1972年生まれ、群馬県出身。大学で演劇を学び、助監督を経て1998年に監督デビュー。「呪怨」シリーズ(1999~2006年)はVシネマ、劇場版を経てハリウッドでリメークも手掛け(2004年)、日本人監督として初の全米興行収入1位を記録した。近年は『犬鳴村』(2020年)に始まる「恐怖の村」シリーズ、『ホムンクルス』(2021年)、『忌怪島/きかいじま』、『ミンナのウタ』(共に2023年)、『あのコはだぁれ?』(2024年)、『口に関するアンケート』『だぁれかさんとアソぼ?』(共に2026年)などを手掛ける。

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