「勝とうとする作業は苦しい」青木真也が吐露した本音 終わった後は「プロレス村に戻りたい」
総合格闘家の青木真也(43)は、「ANGEL CHAMPAGNE presents 超RIZIN.5 浪速の超復活祭り」(10日、大阪・京セラドーム大阪)で朝倉未来(34=JAPAN TOP TEAM)と対戦する。近年はどこか達観した姿を見せていた青木だが、決戦を目前に控えて吐露したのは、勝負に向き合う「精神の摩耗」だった。本人が「2019年以来」と語るほど深く苦しい思考の海で、試合が迫ったいま、青木は何を考えているのか。

晴れやかな表情の理由「久々に楽しくやれてる」
総合格闘家の青木真也(43)は、「ANGEL CHAMPAGNE presents 超RIZIN.5 浪速の超復活祭り」(10日、大阪・京セラドーム大阪)で朝倉未来(34=JAPAN TOP TEAM)と対戦する。近年はどこか達観した姿を見せていた青木だが、決戦を目前に控えて吐露したのは、勝負に向き合う「精神の摩耗」だった。本人が「2019年以来」と語るほど深く苦しい思考の海で、試合が迫ったいま、青木は何を考えているのか。(取材・文=島田将斗)
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「勝とうとする作業は苦しい」。こう発したとき、青木は見たことないほど険しい表情をしていた。
朝倉未来と戦うことを初めて聞いたとき、筆者はPRIDE、DREAMの時代を生で見られていないことへの後悔や、当時を知る者への憧れを話した。これに対し、青木は「間に合ってよかったじゃん」と一言。そのときはピンとこなかったが、今回の取材とこの言葉で、ようやくその意味が理解できた気がした。
昨年11月の試合前とは180度違う。あのときは、どこか陰りを感じるような顔をしていたが、今回に関してはSNSでの姿を見ても明るい。とても楽しそうに見える。「コンディションも悪くないし、久々に楽しくやれてるんじゃないですか」と、青木は晴れやかな表情で語り始めた。
「ストレスはないかな。それは先がないから。これは発見なんだけど、人って先を見るから、人間関係も練習も、苦しかったり考えるわけです。先がなかったら、別に付き合いたくない奴と付き合わなくていいし、次のことだけをやればいい。よく『今を一生懸命やりなさい』とか『今を楽しみなさい』とか言うけど、そんなの先を見たらできないっすよね。人間関係を作らなきゃいけないから」
「先を見ない」は、今回の練習環境にも如実に表れている。必要な相手から、必要な時間だけをもらうを徹底してきた。
「海飛くんは週1回お願いしてるけど、チームみたいにがっつり抱えてないし、バイト感覚でやってもらっている。例えば週3回の練習に一緒の時間に行ってパートナーになってっていうと、やっぱり相手の時間を取りますよね。若い人の時間って、俺の20分、30分の何倍も価値があるから。単純に『いつも来てる練習後の20分だけ俺に頂戴』。打撃のマススパーリングを3分やって、グラウンドをやって、それだけ。他は何もいらないからって」
練習後の付き合い方についても、極めて現代的だ。
「一緒に飯食う方が俺は嫌なのよ。何か菓子折り持って『ありがとう』みたいなのが気持ち悪くて。練習終わって、『請求書頂戴』って。『自分が今足りない金額言って』って。別に荷物になるもんじゃないからって払ったんだけど、そういう感じでポップに、ライトに付き合ってる。こちらが重くならないように。毒されない方が楽っていうか、仰々しいのはいいから、さっさとやろうみたいな感じにしてます」
昔の自分に「苦しい思い出の方が多い。『あの時代が良かった』とはならない」
今回を「楽しい」「ストレスはない」と話すのは、苦しかった時期の打ち返しでもある。ONEチャンピオンシップでの5~6年は「マッチメイクしかり、扱いしかり、ただ金のためだけにやる」という状況だったといい「すごいストレスだった」と振り返った。RIZINで試合をするいまはキャリアに対しても全く執着がない。
「自分の過去には何にも思わねえ。マジでどうでもいいっす。昔の俺が動いてるなとか、勢いがあるなとは思うけど、別にだから何だとは思わない。あの時倒しておけば、みたいなことも思わない。やりきってるから、後悔が一ミリもねえもん。むしろ昔の自分は見たくない。苦しい思い出の方が多いから。『あの時代が良かった』とはならないですよね」
だからこそ、今回の試合が決まったことについての同世代のファイターたちの反応には驚かされた。
「みんな青木が出ていることに嫉妬するよ? でも一人だけ嫉妬してないのが川尻(達也)。あいつはやっぱりやりきってるもん。他の同年代は全員一物あるんだと思ってて。そういう風になりたくねぇなと思っちゃった。だから、なんか言われても『俺に言うな、うるせえよ』っていう気持ちが強いっすね」
ゼロからイチを生み出すクリエーティブを好む青木は今回に関しては「仕事としての面白みはない」という。それは「これまでの自分のレガシーを焼き直している」という状態だからだ。
そう達観している一方で、“勝負”の2文字は、深く息苦しい思考の海へと引きずり込んだ。
「やっぱりとても苦しい作業ですよね、勝とうとする作業は。精神の摩耗はとても激しくて、40歳過ぎてやるもんじゃないとは思ってます。こういう時だなぁ、こう困るな、勝つな。でもこうすると負けるな、みたいな。そのずっと両方を思考してますよね。どうなったらどう転がるのか」
ここ数年の試合前インタビューはこういった闘争心よりも「試合が怖い」が前面に出てきていた。もちろんいまも恐怖はあるだろうが、「勝ち」を考えている。これは明らかに違っていた。
「サラリーマンが今後の人生どうやって食わしてく、会社はどうなって、家のローンが、金利が上がってどうなるんだろう、みたいなことを考え続ける海と似てますよね。人はどこかでいいやって言って、思考することを辞めるんでしょう。でも、それを辞めずに、もう一回やるっていうのも楽じゃないですよ」
青木がこんな感情になるのは、2019年3月のエドゥアルド・フォラヤン(フィリピン)とのONE世界ライト級タイトルマッチ以来。青木は1R・一本勝ちし、ベルト獲得。「35歳になって、好きなことやって―」の有名なマイクを残したあの日だ。
この息苦しい練習の先に、青木は何を求めているのか。試合後は「プロレス村に戻りたい」と吐露し、本当の“リターン”について明かした。
「結局、喜ぶ時間、悲しむ時間を、今この社会で生きていくと取るのが難しいと思うんすよ。でも、9月に大きい試合をするので、それのリターンがあるとすれば、喜怒哀楽を感じる時間を取れるっていうのは、とてもいいことなんじゃないかなと」
そして、最後にこう結んだ。
「試合が終わって、俺はその試合を喜ぶのか、悔しいと思うのか、悲しいと思うのか分からんが、自分の感情を感じる時間を取りたいっすよね。それがとても大事なこと。人間らしくあるために」
◇ ◇ ◇
試合が決まれば、一気に引き締まり、当日に向かっていく。ここ数戦も筆者から見ればそうだった。しかし、今回は緊張感が一段階違う。それは、膝の絆創膏、拳についた傷、詰まっているスケジュール、メッセージの文面を取っても伝わってくる。「間に合った」――。今回の姿は、自分にとって初めて見る姿だった。「焼き直し」だなんてとんでもない。青木さんには、これまで取材を通して、さまざまなことを教えてもらった。しっかりと目に焼き付けなければいけない、伝えなければならないと強く感じた。
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