映画初ヒロイン19歳女優・早瀬憩が難役に葛藤 監督の一言に号泣した舞台裏「単純な言葉ではまとめられない」
俳優の早瀬憩(はやせ・いこい)が、今月28日公開の映画『私はあなたを知らない、』(中野量太監督)で映画初ヒロインを務める。演じたのはかつて実の母を殺して服役中の男性に会いに行き、過去に触れていく少女。CMやドラマでさわやかな姿も見せる19歳が、撮影中に抱いたさまざまな感情を振り返った。

『私はあなたを知らない、』で映画初ヒロイン
俳優の早瀬憩(はやせ・いこい)が、今月28日公開の映画『私はあなたを知らない、』(中野量太監督)で映画初ヒロインを務める。演じたのはかつて実の母を殺して服役中の男性に会いに行き、過去に触れていく少女。CMやドラマでさわやかな姿も見せる19歳が、撮影中に抱いたさまざまな感情を振り返った。(取材・文=大宮高史)
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早瀬が演じた少女・東浜朝子は、5歳の時にシングルマザーの母・紗月(堀田真由)を失っている。それも、当時交際していた西山夕平(坂口健太郎)に殺害されたという。事件の深部を知らずに育った朝子は13年後、祖母から夕平のことを聞き、刑に服している彼のもとを訪ねる。そして、13年前の本当の出来事や沈黙を続ける夕平の思いに向き合っていく。早瀬はオーディション時から、この役に「懸ける思い」は強かった。
「オーディションの時はまだ脚本をいただけていなくて、抜粋のものだけを参考にお芝居を考えました。その少ない情報の中から、どれだけ朝子のことを理解して自分の中に落とし込んでいけるかを一番意識していました。繰り返し受けさせていただいて、自分の中の感覚が少しずつ変わっていったんです」
夕平と向かい合う面会室のシーンや、事件を担当した弁護士の町村善一(滝藤賢一)に当時のことを聞きに行く場面の芝居を試した。その過程で、共感以上の大きな愛着が芽生えた。
「朝子はほぼ同い年ですし、自分と似ているところもあるなと感じました。でも、それ以上に彼女にすごい愛情を持ってしまったんです。やるたびにどんどん『朝子をやりたい』っていう気持ちが強くなるほど、大きな存在になっていって。決まった時は大喜びでした」
早瀬は一昨年公開の初ダブル主演映画『違国日記』でも、親を失った少女の田汲朝を演じていた。同作では、朝が人見知りな叔母の槙生と暮らすことになり、不器用だが着実にお互いを理解していく設定。言葉にできない悲しさを抱える芝居の経験が、今作にも生きたという。
「朝と朝子で、大人への感情は似ています。親を亡くした喪失感であるとか、肉親がいない悲しさに見て見ぬふりをしていたり。そういった心の動きを『違国日記』で経験していて良かったです。こんなに早く役としてでも死を実感する経験があったのは大きかったと思います」
それでも、母を殺したかもしれない人に会いにいく彼女の心理は、台本を一読しただけではのみ込めなかったという。そこで、役の感情を追体験すべく祖母の道代役の原田美枝子に手紙を書いた。
「朝子は13年間育ててくれたおばあちゃんもがんで亡くしてしまうので、『おばあちゃんの余命を知った彼女なら、どんなことを書くんだろう』と想像しました。そして、書いていくうちに朝子が両親の分まで、どれだけの愛情をおばあちゃんからもらってきたのか。それを想像できるようになったんです。クランクインしてからも、坂口さんや皆さんと話すことで、台本では分からなかったことがストンと腑に落ちることが多くて。『現場での発見の方が多かったな』って感じます」
現場では、肉親を亡くした少女の気持ちへの理解を極限まで高めた。そうして感じた痛みを芝居にぶつけていくプロセスを繰り返した。
「監督も出演者の皆さんも一切妥協がなくて、私の最善以上のお芝居を引き出してくれました。例えば骨を拾ったおばあちゃんの遺骨を持って家に帰った朝子が、牛乳をパックから直で飲み干すシーンです。(牛乳を)口からこぼした姿で何回も撮り直しました(笑)。その格好でおばあちゃんの骨つぼに『(パックから)飲んじゃってごめんなさい』って泣いて謝るんです。13年間育ててくれた人が骨になってすぐそこにいる彼女の喪失感……。リテイクするうちに、それがクリアに理解できて後悔なくできました」
キャパシティーを超えんばかりの芝居を重ねてクランクアップした時は、感情を抑えられなかったという。
「中野監督が『よく頑張ったね』と言ってくれたことで、さまざまな思いが込み上げてきて号泣しました。撮影期間中は四六時中、朝子のことを考えながら生きていたし、お芝居をしながら苦しくなる時もありました。うれしいとか悲しいとか、単純な言葉ではまとめられない感情でしたね。とにかくやりきった気持ちが、あふれたんだと思います」

さまざまな役を経験「振り幅も大きく」
少し陰のある役柄を好演してきた早瀬だが、今年は表現の幅を急速に広げている。4月期のフジテレビ系連続ドラマ『サバ缶、宇宙へ行く』では、宇宙食のサバ缶作りに没頭する高校生の宮井恵、6月に公開された映画『モブ子の恋』では底抜けに明るい大学生のあべちゃんを演じた。昨今はCMでも、JR東日本のSuica『たみちゃんの上京』篇で等身大の10代を演じ、森永製菓の『inゼリーエネルギー』では緊張する受験生とその分身を“1人6役”で感情たっぷりに演じた。
「同い年の高校生役ではしゃいでみたりして、とても元気で明るい女の子を演じることができました。そうしたら、見てくださった方から、『すごい新鮮!』って言ってもらえるようになったので、新しい印象でも覚えてもらったのかなと実感します。いろんな私のお芝居を見てほしいですし、振り幅も大きくなったのかな」
そんな経験を経て、ベテラン俳優たちと向かい合った今作。平凡とは程遠い、演じる上での負荷が大きそうな役柄ほど、彼女はより強く燃えるタイプなのだろうか。本音を聞いた。
「難しそうな役ほど燃えるという訳でもないですね。でも、私なりに考え抜かないと『いい作品には絶対ならない』と思っています。今回は特に難しくて、人を許すこととか、家族の愛の形について考えさせられました。そういうことを考えていっぱいもがいた作品だったので、朝子と一緒に葛藤して、同じ感情を味わってこられたと思います」
悲しい過去を背負ったヒロインと同じ歩幅で歩んだ時間は、確かに血肉となって早瀬の中に息づいている。
□早瀬憩(はやせ・いこい) 2007(平成19)年6月6日、千葉県生まれ。2021年、日本テレビ系連続ドラマ『恋です!~ヤンキー君と白杖ガール』でドラマデビュー。24年の『違国日記』では映画初出演で初主演。同作と『あのコはだぁれ?』でブルーリボン賞新人賞、TAMA映画賞最優秀新人女優賞を受賞。今年はフジテレビ系連続ドラマ『サバ缶、宇宙へ行く』、映画『モブ子の恋』『だぁれかさんとアソぼ?』などに出演。11月13日には、主演映画『呪いのスマホ』の公開を控える。160センチ。
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