フィリピンのスラムから『ストリートファイター6』楽曲へ 「ヤスミン」実装が示す“文化的な厚み”とは

対戦型格闘ゲーム『ストリートファイター(以下、スト6)』にYear 4の第1弾キャラクターとして、ヤスミンが8月3日に登場した。彼女のテーマ曲「SIGLA↑↑UP!!!」は、単なる新キャラBGM以上の意味を持つ1曲だ。それを理解するには、まず『ストリートファイター』シリーズがオルタナティブなサブカルチャーとどう歩みを共にしてきたかを端的に振り返る必要がある。

『ストリートファイター6』で実装されたヤスミン【画像:(C) CAPCOM】
『ストリートファイター6』で実装されたヤスミン【画像:(C) CAPCOM】

ストリートファイターとローカルカルチャーの結びつき

 対戦型格闘ゲーム『ストリートファイター(以下、スト6)』にYear 4の第1弾キャラクターとして、ヤスミンが8月3日に登場した。彼女のテーマ曲「SIGLA↑↑UP!!!」は、単なる新キャラBGM以上の意味を持つ1曲だ。それを理解するには、まず『ストリートファイター』シリーズがオルタナティブなサブカルチャーとどう歩みを共にしてきたかを端的に振り返る必要がある。

『ストリートファイターIII 3rd STRIKE』(1999年)のサウンドトラックは、ダンスミュージックのアルバムとして極めて完成度が高い。エレナのステージ曲「Elena Stage -BEATS IN MY HEAD [TRIBAL DANCE]-」は、UKガラージライクなベースライン、ソウルフルな女性ヴォーカル、レイヴィーなシンセサウンド、裏でひたすら鳴るトライバルなパーカッションを破綻なく同居させている。

 ケンとアレックスのステージトラック「Alex & Ken Stage -JAZZY NYC ’99-」はその名の通り90年代イーストコーストの空気をまとい、さながらピート・ロックやDJプレミアなどの東海岸のビートを想起させる。豪鬼のステージ曲「Gouki Stage -KILLING MOON-」ではアーメンブレイク(ザ・ウィンストンズの「アーメン、ブラザー」に由来するドラムソロ)と尺八を出会わせるなど、当時から「その国・地域の音楽文化」を格闘ゲームのステージと結びつける手つきが光っていた。

『ストリートファイターIII 3rd STRIKE』のサウンドトラック【画像:(C) CAPCOM】
『ストリートファイターIII 3rd STRIKE』のサウンドトラック【画像:(C) CAPCOM】

 前作『ストリートファイターV』でも土着性は顕著で、「Skies of Honor -UAE Stage」や「Flamenco Tavern – Spain Stage-」でもそれぞれの国を表現するような音階や楽器使いが耳を引く。

 この文脈は最新作にも継承されている。『スト6』でケニア出身のエレナが再登場した際、ディレクターの中山貴之氏はコンポーザーにジャイルス・ピーターソンのレーベル『Talkin’ Loud』の楽曲を参考として送り、ファンクやソウルの基礎を持ちながら現代的な要素も入ったアシッド・ジャズがキャラクターに合うと考えていたことを明かしている。

 ピーターソンはまさにアシッド・ジャズにおけるキープレーヤーだが、近年の功績は音楽フェスティバル『We Out Here』に著しい。かつての海賊ラジオ時代から古今東西の音楽を紹介してきたピーターソンだが、最近は“フェス”という、よりリアルな空間にベクトルが向いている。自身のレーベル『Brownswood Recordings』からリリースされたコンピレーションアルバム『We Out Here』に端を発する同イベントは、世界中のアーティストに焦点を当てており、中でもアフリカルーツのミュージシャンの存在感が大きい。

 8月20日から行われる2026年の『We Out Here』でも、エレナと同じくケニアにルーツを持つデイヴ・オクムがディアンジェロ(2025年10月逝去)のトリビュートパフォーマンスを披露する予定だ。中山氏が『Talkin’ Loud』周辺にヒントを求めるのは、なかば必然めいたものがある。

 そしてゲームの発売と同時に実装されていたジェイミーのキャラクターBGM「Mr. Top Player」は、今なお作品を彩る名曲だ。中国の伝統楽器「二胡」(と思われる)の音色をホーンセクションにあわせ、煌びやかなファンクに仕上げた。全く名前負けしない楽曲は、カナダメディア『TheGamer』が2023年6月に公開した「Best Character Themes In Street Fighter 6」でも堂々の1位に輝いている。先のアップデートでジェイミーの性能が大きく向上したこともあり、改めてこの楽曲についても強調しておく。

『ストリートファイター6』のジェイミー【画像:(C) CAPCOM】
『ストリートファイター6』のジェイミー【画像:(C) CAPCOM】

 つまり『ストリートファイター』は、キャラクターの出自やルーツと呼応する音楽のサブジャンルを選び取り、それを楽曲に翻訳するという作業を意識的に行ってきたシリーズなのだ。そしていずれもまさしく「ストリート」を匂わせる文脈的な深みがあった。

 日本ではJAM Projectによる「GO!ALEX!~希望誕生~」の影に隠れている感は否めないが、アレックスのテーマはこの曲とは別にもうひとつある。それが「Jazzy NYC SF6 Arrange」。先述の「Jazzy NYC ’99」が“いなたい(垢抜けない)”ニュアンスをはらんでいた一方、SF6版もとい2026年Ver.は生楽器の響きが洗練され、より都会的でムーディーな印象を受ける。ニューヨーク生まれニューヨーク育ちのヒールレスラーに似合う、カリスマ性溢れる仕上がりだ。

『ストリートファイター6』のヤスミン【画像:(C) CAPCOM】
『ストリートファイター6』のヤスミン【画像:(C) CAPCOM】

ヤスミンと「SIGLA↑↑UP!!!」

 その系譜の延長線上に置いたとき、「SIGLA↑↑UP!!!」の企てが見えてくる。フィリピン出身という設定を持つヤスミンのテーマとして、この曲が参照しているのはおそらく「Budots(ブドッツ)」だ。YouTubeで楽曲が公開された当初から、同ジャンルの要素が指摘されていた。

 Budotsは、フィリピン南部ミンダナオ島のダバオ市で発展した、音楽とダンスの双方を指すストリート系のダンスカルチャー/ジャンルである。ダンスや地域のコミュニティ活動が先行し、2000年代半ば以降、ダバオ出身のプロデューサーDJ LoveことSherwin Calumpang Tunaが、Camus Streetのコイン式PCを置いたインターネットショップで現行の形に発展させた。テンポはおよそ140 BPMとされ、反復的で中毒性のあるビート、特徴的なホイッスルやシンセ、厚いパーカッションなどを備える。

 クラブカルチャー専門誌『Mixmag Asia』は2024年9月にBudotsの特集を組み、ロンドン拠点のレーベル『Eastern Margins』の創設者David Zhouにインタビューを実施。アジアのポップカルチャーに詳しい同氏はダバオ発祥のサウンドに対し、「フィリピンの精神とエネルギーを象徴する音楽として、地域の教会から大統領選挙運動まで幅広く使われてきた」と説明している。

『ワシントン・ポスト』も2025年に特集記事を組み、Budotsについて「ダバオ市南部のスラム街に根を持つダンスミュージックのジャンルであり、その街の喧騒・歓喜、そして暴力によって形作られたサウンドが、いま世界中の人々を魅了している」と評した。同紙が強調するのは、この音楽が単なる「陽気なローカルカルチャー」ではなく、ダバオという都市が抱える「生々しい生活実感そのもの」を音に変換したものだという点だ。

 ひたすらに路上。スト6楽曲の中でも特に土着的なストリートへの憧憬とリスペクトを感じられる。ヤスミンは本作から登場する純然たる新キャラクターだが、発表当初「次回作以降の主人公では?」という声も囁かれた。音楽から辿ると、その可能性も十分あり得るのではないだろうか。文化的な厚みがこの1曲の中で十二分に汲み取れ、大規模アップデートがあった中でも制作陣がこのキャラクターに大きくリソースを割いていたことが分かる。

 4年目のグローバルコンテンツ。国内外へのさらなる波及を目指す上でも、極めて重要な一手と言える今回の「SIGLA↑↑UP!!!」。あらゆる角度から考えて、「Mr. Top Player」級のクリティカルヒットだ。

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