西島秀俊、「少ない情報だけで人を判断すること」の怖さを痛感した理由 新作で探偵役

俳優の西島秀俊が、映画『時には懺悔を』(中島哲也監督、8月28日公開)で、世の中のよどみを見すぎ、心を閉ざした探偵・佐竹を演じている。殺人事件から9年前の新生児誘拐事件へ――。その先で出会うのは、重い障害のある少年と、傷つきながら生きる大人たちだ。西島は、この物語を演じる中で「少ない情報で何かを判断していくこと」の怖さを改めて感じたという。

インタビューに応じた西島秀俊【写真:冨田味我】
インタビューに応じた西島秀俊【写真:冨田味我】

映画『時には懺悔を』で心を閉ざした探偵役

 俳優の西島秀俊が、映画『時には懺悔を』(中島哲也監督、8月28日公開)で、世の中のよどみを見すぎ、心を閉ざした探偵・佐竹を演じている。殺人事件から9年前の新生児誘拐事件へ――。その先で出会うのは、重い障害のある少年と、傷つきながら生きる大人たちだ。西島は、この物語を演じる中で「少ない情報で何かを判断していくこと」の怖さを改めて感じたという。(取材・文=平辻哲也)


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 物語は、一人の探偵の死から始まる。殺された米本は、周囲から「死んだほうがマシ」と思われるような男だった。佐竹は、助手として修業中の聡子(満島ひかり)と調査に乗り出し、9年前に起きた新生児誘拐事件へとたどり着く。その先にいたのは、重い障害のある少年・新と、その父・明野(宮藤官九郎)。逃げ場のない現実を生きる小さな命が、孤独や後悔を抱えた大人たちの心を少しずつ動かしていく。

 西島は脚本を読んだ時、出演を迷わなかった。

「脚本を読んで、これは受けなければならないと感じる脚本がありますが、これがまさにそうでした。そこにはきれい事でない生の声が、描かれていました。スペシャルニーズの子どもたちが出演するというのも、ぜひ参加したいと思った理由のひとつです」

 登場するのは、簡単に「善人」「悪人」と分けることのできない人間たちだ。一見すれば「ろくでもない」と思える人物の素性が次第に明らかになっていく。

「悪人のように見える人物が、実はそれだけではない、ということが描かれていますが、それは真実だと思うんです。僕自身、人間はそんな単純なものではないと思っていながらも、情報が溢れる世の中になったことで、以前はもう少し体感できていたものが、最近は逆に薄くなってきたのではないかと個人的に思っています」

 特に感じているのが、人や出来事を限られた情報だけで判断することへの怖さだ。

「僕も、限られた少ない情報だけで、こういう人だろうと判断してしまうことがあります。でも、人間やこの世界は、もっと複雑で、いろいろな面を持っているということを、改めてこの作品を通して感じました」

 西島が演じる佐竹も、一言では説明できない人物だ。

「過去に取り返しのつかないことをしてしまった人物です。そして、世の中のよどみというものを見すぎたせいで、もうほとんど何も感じない。ただ背負っているものがあるので生きてはいます」

 そこに食べ物があれば食べる。飲み物が転がっていれば飲む。積極的に生きようとしているというより、ただ生きている。

 西島には、佐竹が「灰色で色のない世界」を見ているように感じられた。それでも、人間である以上、完全に心が動かなくなるわけではない。

「何か感じる瞬間というか、心が何か動く瞬間というものはきっとあって。この物語を通して、彼の心の奥底に光のようなものが触れて、それを感じる瞬間があります。そのことで佐竹という人物も救われていきます」

 そのわずかな心の動きを、どう演じるのか。最初のリハーサルで、中島監督から言われた言葉が指針になった、という。

西島秀俊の心を動かしたものとは【写真:冨田味我】
西島秀俊の心を動かしたものとは【写真:冨田味我】

役を通し「心の奥が震えるような瞬間がたくさんあった」

「『映画だから』といって、簡単に現実を飛び越える表現はしないでいきましょう」

 例えば、静かな街中で大きな声で言い合いをする。映画ならば感情を観客に伝えるために、現実では躊躇するような行動をしてしまうこともある。

「映画だから、つい表現としてやってしまうけれど、現実であれば簡単にはそのラインは踏み越えられないですよね、と言われて。映画だからとか、演技だからということでリアルな感覚を捨てずにいられるか、ということを求められていたのではないかと思います」

 佐竹の感情を分かりやすく見せようとはしなかった。むしろ、無理には動かさない。

 そんな西島の心を実際に動かしたのが、共演したスペシャルニーズ(特別な支援や配慮を必要とする人)の子どもたちだった。

「本当に心が動く瞬間というものがありました。僕は無理に心を動かそうとはせずに、ただ目の前で起きることに反応しようと考えていました。佐竹は心を閉ざした人です。何を言われても、人にどう言われようが全く関係ない。そんな心が動かないはずの人間を演じていましたが、それでも自然と動くようなことが実際に目の前で起きるんです」

 本番でふっと手を振ったり、笑ったりする。撮られている自分がどう見えるのか、といった意図的なものとは無関係に、ただそこにいる。西島は、その姿に自らの理想とする芝居を見たという。

「どう見せようとか、これにどういう効果を出そうということとは無関係に、自然に表現をしている。それは僕にとって理想の演技です」

 キャリア30年以上の西島が、スペシャルニーズの子どもたちの姿に、自らの理想の演技を見た。

「何かを削ぎ落とすという意識を持っていたということはないのですが、佐竹は、目の前で起きていることを外から見つめているという人物です。そのことに集中する中で、自然と反応するものがあれば、反応しようと思っていました。ただそこにあるがままでいることで演技が成立するというのが、僕にとって理想の姿です。今回、目の前で自分の理想とする演技を見て、心から感動しました」

 撮影の日々は決して楽ではなかった。スペシャルニーズの子どもたちや、その家族、きょうだい児の思いにも触れた。

「役作りであっても、やはり苦しい毎日にはなっていきます」

 それでも、西島に残ったのは苦しさだけではなかった。

「役を通して、自分自身の心の奥が震えるような瞬間がたくさんありました。この作品が、自分にどう作用したのかはまだ分かりませんが、自分にとって大きな体験でしたし、何らかの形で僕の一部となるような影響を与えただろうと思います」

 少ない情報だけで人を決めつけない。「映画だから」と、リアリティーを簡単に飛び越えない。そして、何かを見せようとするのではなく、ただそこにいる。『時には懺悔を』は、西島にとって人間の複雑さと、自らが目指す演技を改めて見つめる作品になったようだ。

□西島秀俊(にしじま・ひでとし)1971年3月29日 東京都出身。大学在学中より俳優活動を始め、92年に本格デビュー。2021年公開の映画『ドライブ・マイ・カー』では、第45回日本アカデミー賞 最優秀主演男優賞、第56回全米映画批評家協会賞 主演男優賞などを受賞した。ドラマ『きのう何食べた?』シリーズや、映画『首』、『スオミの話をしよう』、『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』、配信『Sunny(サニー)』、『人間標本』など、国内外の映画・テレビドラマ・配信作品に出演。

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