【RIZIN】査定試合で失神敗戦→GPに異例抜擢、後輩は心配「死に急いでるんですか?」 39歳酒井リョウが挑む人生最大の大舞台

大ベテランが人生最大の大勝負に出陣する。格闘家の酒井リョウ(39=レンジャージム)は、「RIZIN.54」(13日・東京・TOYOTA ARENA TOKYO)で開幕する「RIZINヘビー級JAPANグランプリ」に出場が決まった。これまでスター街道とは無縁だった男の前に、突然出現したチャンピオンロード。1回戦を間近に控えた公開練習後に、心境を直撃した。

インタビューに応じた酒井リョウ【写真:ENCOUNT編集部】
インタビューに応じた酒井リョウ【写真:ENCOUNT編集部】

直前に届いたオファー「可能性は10%ぐらいだって思ってた」

 大ベテランが人生最大の大勝負に出陣する。格闘家の酒井リョウ(39=レンジャージム)は、「RIZIN.54」(13日・東京・TOYOTA ARENA TOKYO)で開幕する「RIZINヘビー級JAPANグランプリ」に出場が決まった。これまでスター街道とは無縁だった男の前に、突然出現したチャンピオンロード。1回戦を間近に控えた公開練習後に、心境を直撃した。(取材・文=浜村祐仁)

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 狭い控え室で対峙するヘビー級戦士は迫力がある。開幕まで1か月を切っても埋まらなかったGP最後の椅子をつかんだ男は、引き締まった表情で語り始めた。

「オファーは発表の1週間前ぐらいでした。チラホラ怪しい雲行きは聞いてたんですが、可能性は10%ぐらいだって思ってたんですよ。やっぱり勝った方が正義じゃないですか。だから僕もちょっと複雑な気持ちはありますね」

 6月の仙台大会で元幕内力士の貴賢神に1R・TKOで敗戦。前日計量で契約体重を大幅オーバーした相手に、通常ルールでの実施を志願して臨んだ査定試合だったが、重たい拳に打ち砕かれた。

「(相手の)計量オーバーで始まっちゃったすね笑。なんか『酒井いけー!」みたいな雰囲気になってて。向こうは逆に冷静で、見切られてストレート打たれたんで。でも実際よく見たらパウンドで(意識)飛んでたんすね」

 その後、敗者となった酒井がGPにノミネートされる異例の展開。最大の要因は“人柄”と“格闘技への思い”だった。GPをプロデュースするマッチメイカーの柏木信吾氏は、長文のリリースの中で決断理由を説明。「感傷的になったっすね。熱いメッセージには」と遠い目をしながら振り返る。

「僕とかはPRIDE世代で、ミルコ(クロコップ)が優勝したのも19歳の時。3万ぐらいのチケットを買って現場で見てるんで、あの時の興奮を今の若いやつらに伝えたいなって思うんですよね」

 かつては自衛隊員として国を守っていた。「僕がどうしようもなくて、親に迷惑をかけないように自衛隊行ったんすよ。航空自衛隊で最後には松島基地にいたんです」。しかし、格闘技への道をあきらめられず、除隊した。

 親にはその事実を話せなかった。嘘を突き通して、時間だけが流れた。「(辞めて格闘技やるのも)父ちゃん、母ちゃんには内緒にしてて。でもこの前初めて試合に呼んで、その十字架は消えましたね」

「格闘技、こんな面白いものないよなと思って続けて来れた。生意気なんですけど、最近になって青木(真也)さんの言っていることが分かりつつあって、『この人すごいなって』。自分も年齢が39歳でいつまでできるか。でも、同級生の扇久保(博正)とかも『1日2回練習ができなくなった』とか言いながら頑張ってる。自分も頑張りたいですね」

1回戦でスダリオ剛(左)と激突する【写真:ENCOUNT編集部】
1回戦でスダリオ剛(左)と激突する【写真:ENCOUNT編集部】

後輩は『酒井さんって死に急いでるんですか?』

 先月24日に決定したGPへの参戦。酒井の参戦コメントには「判定勝ちなら決勝戦は辞退します」と覚悟が記されていた。真意について問うと返ってきたのは意外な答えだった。

「あれ僕が書いたわけじゃなくて笑。佐伯さん(DEEP代表)がやってくれたんです笑。でも普通にやっても判定にはならないと思います。だから別にいいやって思って。僕らしい感じっすよね。(仮に判定勝ちしたら?)それは、決勝に行きます。正直に行きます。どんなことがあっても仕事としてやり遂げたいっすね」

 勝ち進まなければならない理由がある。愛する家族の存在だ。仙台大会では、試合前後の会見で家族について問うと人目もはばからず号泣。この日もその尊さを口にした。

「嫁さんがいなかったらここにいないっすね。あげまんって言ったらあれですけど、食べ物とかも『おいデブ、何それ食ってんだ』って発破かけてくれるんすよ。嫁と二人の時はリングで死んでもいいと思ってたんすけど、子供がいると責任を感じる部分もあります。死ぬわけにはいかないですからね笑」

 下馬評は不利とする声も多い。それでも、全てをひっくり返す強力な一発を武器に生き抜いてきた。

「もし勝ったら年間5試合? 地獄すぎる笑。後輩も飲みの席で言うんですよ。『酒井さんって死に急いでるんですか』って。でも、良い勝ち方すれば『酒井、行っちゃうじゃないか』。そんな声もきっと出てくると思うんです」

 誰よりも格闘技を愛してきた。だからこそ、プロとして戦うことに意外な葛藤も生まれているという。

「最近は寂しさもあるんです。好きで始めたのに仕事になっていることに。ロック歌手で言ったら『自分が作りたい音楽をやりたいのに、納期に追われて一生懸命作ってる』みたいな。でも、去年の秋元選手と萩原選手の試合は懐かしかったです。久しぶりにドキドキした。ああいう試合をやりたいですよね」

「どうせやるんだったら一番になりたいです。強いやつ倒して、最後決めたいです。そうしたらもう、ほんとに辞めれるっすね(笑)」

 家族を思って涙を流し、リングでは血を流して殴り合う。そのピュアな生き方は39歳になっても何一つ変わらない。別れ際に酒井が差し出してきた分厚い手を握り返すと、確かなプライドと覚悟が伝わってきた。

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