「お金になるから」重症患者を食い物にする悪徳ホスピス 在宅医療10年の医師・鬼澤信之氏が警鐘
埼玉県狭山市で6月、新たなホスピス「あんずの家」が誕生した。診療報酬改定で訪問看護への世間の風当たりが強くなったタイミングでのオープンだった。この地で10年、在宅医療と向き合ってきた医療法人あんず会の理事長で杏クリニックの院長・鬼澤信之医師は近年社会問題化している「ホスピス型住宅」をめぐる一部事業者の不適切な運営への危機感と譲れない思いを明かした。

2026年6月に国が“メス”
埼玉県狭山市で6月、新たなホスピス「あんずの家」が誕生した。診療報酬改定で訪問看護への世間の風当たりが強くなったタイミングでのオープンだった。この地で10年、在宅医療と向き合ってきた医療法人あんず会の理事長で杏クリニックの院長・鬼澤信之医師は近年社会問題化している「ホスピス型住宅」をめぐる一部事業者の不適切な運営への危機感と譲れない思いを明かした。(取材・文=島田将斗)
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近年、末期がんや難病の患者を主な入居者とする「ホスピス型住宅」と呼ばれる住まいが急速に増えている。緩和ケア病棟の新設が鈍るなかで終末期の受け皿として広がり、民間調査では2022年時点で、その定員数が緩和ケア病棟のベッド数を上回った。一方で、一部の事業者による不適切な運営が社会問題となっている。その背景にあるのは、日本の医療保険制度の“隙間”を突いた歪なビジネスモデルだ。
「訪問看護を医療保険で使える疾患が国の基準で決まっていて、そこに該当する方は回数の制限なく訪問看護を受けられます。しかも指定難病の医療費助成があれば、自己負担は月ごとの上限額で頭打ちになる。上限に達したあとは、どれだけ訪問回数を増やしても患者さん側の負担は増えません。そこに目をつけた一部の事業所が、必要のない訪問まで積み重ねて大きな利益を上げる。そんなビジネスモデルが横行してしまったのです」
国が定める対象疾病に該当すると、通常は週3日までの訪問看護を、毎日、1日に複数回でも受けられるようになる。ALS(筋萎縮性側索硬化症)やパーキンソン病関連疾患、末期の悪性腫瘍などがこれにあたる。多くは指定難病の医療費助成も受けられ、自己負担は所得に応じた月額上限で止まる。訪問を重ねても患者側の負担は変わらず、事業者の収入だけが積み上がる。この構造を悪用し、必要のない訪問まで組み込んで国から多額の診療報酬を受け取っているという実態が指摘されている。
利益至上主義に走る一部の事業者がもたらす弊害は、国の医療費を圧迫することだけではない。最も被害を受けるのは、患者自身だ。
医療依存度の高い重症の患者ほど、一部の“悪徳”事業者にとっては大きな「利益」を生む存在と映る。そのため、適切なケアを提供する実力がないにもかかわらず、患者を囲い込む施設が存在すると鬼澤医師は警鐘を鳴らした。
「受け入れられるスキルがないのに、『お金になるから』と重症患者さんを引き受けてしまう“なんちゃって”の受け入れ施設が結構たくさんあるんです。中途半端なサービスしか提供できず、患者さんの幸せに直結していない。最悪の場合、状態が悪化して再入院になってしまうケースも後を絶ちません」

残された時間が少ないなか、家族が必死の思いで探した終のすみかが、もしそのような悪質施設だったらと考えると、その絶望は計り知れない。こうした事態を重く見た国は、ついにメスを入れた。今年6月の診療報酬改定で、不適切な訪問看護の制限など、厳しい規制が敷かれたのだ。
奇しくも「あんずの家」がオープンしたのは、まさに同じ2026年6月だった。世間からこの業界に対して厳しい目が向けられる中での船出について、鬼澤医師は「そういう星の下に生まれた施設」だと使命感を口にした。
「私たちには、10年間地域密着で在宅医療をやってきたという歴史と強いプライドがあります。業界に対して社会からの厳しい目があることは承知の上です。だからこそ、不正を一切せず、決められた適正な社会制度の中で最善のケアを提供する『モデルケース』を作りたいんです。これは時代に対する挑戦でもあります」
そのうえで「どんな重症の方でも“本当に”診られる医療体制がある」と胸を張る。鬼澤医師の言葉には力がこもっていた。
一部の事業者による不適切な運営が問題となるなか、真っ向から「適正かつ最高のケア」を証明しようとする鬼澤医師ら医療チームの挑戦は、高齢化が加速する社会にとって有意義なものであるに違いない。
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