“原点回帰”の『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』 作中世界まで3年…新作が示すもの
TVアニメ『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』の放送が、7月7日よりスタートした。アニメーション制作を手がけるのは、『犬王』『映像研には手を出すな!』『ダンダダン』などで知られるサイエンスSARU。監督はモコちゃん氏、脚本にはSF作家の円城塔氏が名を連ねている。

『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』の放送が7月7日にスタート
TVアニメ『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』の放送が、7月7日よりスタートした。アニメーション制作を手がけるのは、『犬王』『映像研には手を出すな!』『ダンダダン』などで知られるサイエンスSARU。監督はモコちゃん氏、脚本にはSF作家の円城塔氏が名を連ねている。
『攻殻機動隊』は、さまざまな“派生”とともに歩んできた作品だ。1989年に士郎正宗氏が発表した原作漫画を起点に、押井守氏による1995年の劇場版『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』、神山健治氏による『STAND ALONE COMPLEX』シリーズ、黄瀬和哉氏による『ARISE』、3DCGで描かれた『SAC_2045』、そしてハリウッド実写版まで。それぞれの作り手が「攻殻とは何か」を解釈し直しながら、シリーズは37年間、姿を変え続けてきた。
だからこそ「攻殻の新作」と聞いたとき、多くのファンの頭に浮かぶのは「今度はどんな攻殻なのか」という問いなのではないだろうか。
今回の新作でまず注目したいのは、『THE GHOST IN THE SHELL』というタイトルだ。原作コミック第1巻と同じく、“THE”を冠していること。そして公式の説明でも、本作は押井版や『S.A.C.』の延長線上にあるものではなく、士郎正宗氏の漫画そのものへ立ち返る方向性が示されている。
キービジュアルからも、その姿勢はうかがえる。青い髪の草薙素子。そして、彼女の傍らに描かれたAI搭載型の多脚戦車・フチコマ。フチコマは原作漫画で公安9課とともに活動する思考戦車であり、『S.A.C.』シリーズに登場するタチコマは、同シリーズのために新たにデザインされた後発の存在だ。どちらを登場させるかという点にも、本作の立ち位置が表れているように思う。
もう一つ、今回のアニメで話題を呼んでいるのが素子のデザインだ。押井版の寡黙で硬派な少佐や、『S.A.C.』のクールな指揮官像とは異なり、漫画のページからそのまま立ち上がってきたような軽やかさ、どこかコミカルな気配をまとったものに見える。そう言った点でも、今回の新作は原点である士郎正宗氏の漫画に根ざした原作回帰の一作と捉えることができるだろう。
押井版の劇場公開から約30年。ネットの海で発生した情報生命体の物語は、当時はまだ遠い未来の思考実験だった。しかし現在では、生成AIが絵を描き文章を書き、いまや仕事上で使われることもそう珍しくない。フィクションが現実を予見したというより、現実のほうが『攻殻機動隊』の問いに近づいてきたと言ったほうがいいのかもしれない。作中の舞台である2029年は、もう3年後に迫っている。
また、今回のアニメ化を考えるうえでは、シリーズ構成・脚本を円城塔氏が担うことも重要な要素だ。
円城氏は、『道化師の蝶』で芥川賞を受賞した純文学の書き手だ。同時に、『Self-Reference ENGINE』や日本SF大賞を受賞した『文字渦』など、言語や情報、自己言及をテーマに小説の形式そのものを実験してきたSF作家でもある。アニメの分野では『ゴジラ S.P<シンギュラポイント>』のシリーズ構成・脚本を担当。さらに、「攻殻機動隊」の小説アンソロジーに「Shadow.net」という一編を寄せた経歴も持つ。
情報の海で発生した生命、記憶と自我、身体と意識のずれ。原作『攻殻機動隊』が扱ってきた主題は、円城氏が小説で繰り返し向き合ってきたものとも重なる。円城氏は本作へのコメントの中で、士郎正宗作品を、読む時代によって立ち現れる姿が変わる「鏡」のようなものだと評した。人間についての理解が進むほど、作品の読解も進む。その見立ては、現実が作品に近づいてきたようにも見える今回のアニメ化とも響き合っているのではないだろうか。
士郎正宗氏の漫画は、本編の外側に膨大な欄外注釈が書き込まれていることでも知られる、情報密度の高い作品だ。その原作を、円城氏がどのように21世紀のテレビシリーズとして構成し直すのか。昨今はアニメにも“タイパ”が求められがちななかで、難解になるのではという声も含め、放送前から関心を集める座組と言っていい。
一方で、本作が見据えているのは既存のファンだけではなさそうだ。King Gnuがオープニングテーマを、MILLENNIUM PARADEがエンディングテーマを担当し、両者が同一作品のテーマ曲を担うのは史上初の試みだという。さらにPrime Videoでは、240以上の国と地域での独占配信も決定している。
原作漫画の発表から37年。派生の歴史が長いシリーズだからこそ、それぞれの世代に、ファンそれぞれの「自分の攻殻」がある。一方で過去のアニメ版の文脈を前提にしない原作ベースの作りが予想される本作は、長年のファンへ向けたものであると同時に、新しい観客、特に若年層のファンを掴む入口となる一作になりうるだろう。
かつて、「電脳化された未来」を観客に想像させる作品だった『攻殻機動隊』。いま、ネットに常時接続され、AIと日常的に言葉を交わす私たちは、同じ問いをどう受け取るのか。押井版から始まった解釈の連鎖がひと巡りし、もう一度原点から新しい系譜が始まるのか。この夏、その答えを確かめてみたい。
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