クマが市街地で“異常繁殖”、人の生活圏を包囲・占領…地方都市の現状に専門家警鐘「全頭駆除しないと」
今年も全国各地でクマの出没が相次いでいる。環境省のまとめによると、昨年度の全国の被害者数は238人、死者は13人で共に過去最多を更新。今年度は4月、5月の2か月間ですでに4人が亡くなっており、過去最悪の被害となった昨年を上回るペースとなっている。今後、我々の生活はどうなってしまうのか。現在の状況を3年前から予言していた日本ツキノワグマ研究所の米田一彦所長は、クマが山から下りてくるのではなく、人の生活圏で繁殖を行う新たなフェーズに入ったと見ている。

4月、5月ですでに4人が亡くなっており、過去最悪の被害となった昨年を上回るペースに
今年も全国各地でクマの出没が相次いでいる。環境省のまとめによると、昨年度の全国の被害者数は238人、死者は13人で共に過去最多を更新。今年度は4月、5月の2か月間ですでに4人が亡くなっており、過去最悪の被害となった昨年を上回るペースとなっている。今後、我々の生活はどうなってしまうのか。現在の状況を3年前から予言していた日本ツキノワグマ研究所の米田一彦所長は、クマが山から下りてくるのではなく、人の生活圏で繁殖を行う新たなフェーズに入ったと見ている。
米田氏は1948年、青森・十和田市出身。秋田大教育学部を卒業後、秋田県立鳥獣保護センターや秋田県生活環境部自然保護課に勤務、県庁職員としてクマ対策に当たってきた。86年からは当時被害が深刻だった西日本のクマ調査に携わり、2001年に広島でNPO法人「日本ツキノワグマ研究所」を設立。クマ被害が増加し始めた23年のENCOUNTのインタビューでは「私は2年後の2025年に、今年以上の大出没が起こると予想しています」と断言していた。
50年以上にわたりツキノワグマの生態調査を続けてきた米田氏は、今年の傾向について「4月に郡山や仙台中心部に出没したクマはどれも100~120キロクラス、この時期では異様なほどに太っていました。通常、冬眠明けのこの時期は脂肪がなくなり、皮が余ってブヨブヨになっているもの。標高が低く暖かい都市近郊で越冬した個体と考えられます」と分析。本来の生息地である山間部よりも冷え込みが緩い平野部で冬を越し、さらに暖冬だったことも相まって、秋に蓄えた脂肪が消耗されないまま春を迎えたものだと見ている。
同種間での生存競争に敗れ、山を追われて都市近郊に居着いたクマは「アーバンベア(都市型クマ)」と呼ばれるが、米田氏によると、近年はこのアーバンベア同士が繁殖し、生まれた子グマがまた交尾期を迎えるという本格的な繁殖サイクルに入っているという。
「まず最初に若いオスが大きなクマを恐れて生息域を広げます。メスはオスに比べると定住性が強いのですが、それでも山での生息密度が高まると、先に開拓したオスを追って里や街周辺に下りてくる。クマの性成熟は2~3歳で、繁殖時期は6~7月。3年前の大出没のときに市街地近郊で生まれた個体が、今まさに繁殖適齢期に差し掛かっているわけです。アーバンベア同士の間に生まれた子グマは、山での暮らし方を知らず、人の生活圏なしには生きていけない。アーバンベアは全頭駆除しないと、これから秋にかけてさらなる被害の拡大は避けられません」
クマの急激な都市部進出、背景にはイノシシとの関係も
それにしてもなぜ、わずか数年でクマが都市中心部にまで急激に進出することになったのか。米田氏は、「実はイノシシとの関係が深く影響している」と持論を語る。
「1978年の環境庁調査では、東北にイノシシはほとんど生息していないとされていましたが、近年は温暖化のためかどんどん生息域を拡大している。イベリコ豚で知られるようにイノシシもドングリが好物で、クマとのエサの奪い合いを起こしています。当然、イノシシによる食害も深刻で、被害の多い西日本で効果的な『米ぬか』を使った捕獲方法が盛んに講じられていますが、わなの周りに撒かれた米ぬかがクマを強烈に誘引している。また、イノシシ用のわなにクマがかかると、錯誤捕獲(本来の目的ではない動物を誤って捕獲してしまうこと)として山へ返さないと鳥獣保護法違反に問われる。結果的に、人の生活圏への依存性が高いクマを増やしていると考えられます。
東北の山は雪深く、短足のイノシシは進出できないと言われてきましたが、江戸時代の八戸藩(現青森)では『猪ケカチ(猪ききん)』の言葉が残っており、かつては多くのイノシシがすんでいたことは史実でも明らか。明治になり肉食が解禁となったことや、戦後の食糧難などで、全部食べられてしまったんです。今、東北にイノシシが戻っていること、それによってクマが押し出されていることも含め、すべて揺り戻しが来ているという見方もできる」
相次ぐクマ被害拡大を受け、国もようやく本腰を入れた対策に乗り出し始めた。今年3月27日、関係閣僚会議で決定した「クマ被害対策ロードマップ」では、個体数管理強化の一環として段階的な「春期管理捕獲」、いわゆる春クマ猟の解禁を明言している。かつては捕獲圧の高さからクマを絶滅寸前まで追い込んだ猟法だが、今回のパッケージでは山際周辺に限った運用方法が示されており、アーバンベアの一掃に一定の効果が期待できるという。
「今年5月には海沿いにあり最後の砦だった青森県庁周辺にもクマが出没し、東北はついに6県すべてが落城しました。地方都市はどこもクマに包囲・占領されている状況で、市街地の周辺でどんどん次の世代が誕生しています。イノシシ拡大も含めた三つどもえの対策を練らないと、街の至るところでクマがあふれることになる」
寛延2年(1749年)から宝暦元年(51年)まで続いた「猪ケカチ」では、イノシシの食害により八戸藩だけで推定3000人もの餓死者を出したと伝えられている。約300年前の災厄も教訓に、野生動物の勢力拡大を食い止める早急な対策が求められている。
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