顔面ケーキ騒動、保護されれば安心? 虐待被害の女性が語る施設の現実 「親と離れて良かったね」は「他人事だから言える」

幼い子どもの顔をケーキに押し付ける「顔面ケーキ」の動画がSNSで拡散され、「虐待ではないか」「最低だ」などと大きな波紋を呼んだ。FBS福岡放送によると、幼児はその後、警察と児童相談所によって保護された。この一連の出来事を複雑な思いで見つめていたのが、かつて親から虐待を受けた23歳のAさん(仮名)だ。小学6年生から中学卒業までの約4年間、一時保護所や児童養護施設で暮らした経験を持つ。現在は2歳の子どもを育てる母親となったAさんは、「子どもを保護して終わりではなく、その先の人生まで考えてほしい」と訴える。

「顔面ケーキ」の動画がSNSで拡散された学校のイメージ【写真:写真AC】
「顔面ケーキ」の動画がSNSで拡散された学校のイメージ【写真:写真AC】

保護後にはさまざまな苦労「ストレスで全身にじんましんが」

 幼い子どもの顔をケーキに押し付ける「顔面ケーキ」の動画がSNSで拡散され、「虐待ではないか」「最低だ」などと大きな波紋を呼んだ。FBS福岡放送によると、幼児はその後、警察と児童相談所によって保護された。この一連の出来事を複雑な思いで見つめていたのが、かつて親から虐待を受けた23歳のAさん(仮名)だ。小学6年生から中学卒業までの約4年間、一時保護所や児童養護施設で暮らした経験を持つ。現在は2歳の子どもを育てる母親となったAさんは、「子どもを保護して終わりではなく、その先の人生まで考えてほしい」と訴える。

 Aさんの幼少期は家庭内暴力と隣り合わせだった。小学生の頃、実父と継母から日常的に暴力を受けていたという。理由は「洗濯物を畳んでいない」といったささいなことだった。

「(先生などに)助けを求めたことはありませんでした。言ったら余計にひどくなると思っていたので」

 小学6年生のときに施設に保護されたが、そのとき感じたのは安堵(あんど)ではなかった。

「『親と離れて良かったね』や『安心だね』は他人事だから言える言葉だと思います。その先、その子が抱える悩みや、施設という偏見の目で見られること、親が警察沙汰になったり、世に顔が知られてしまった親を持つならなおさらだと思います。本当に親と離して良かったのかを今一度、子ども目線で考えたほうが良いと思います」

 世間では、児童相談所による保護を「救済のゴール」と捉える声もある。しかし、Aさんは、保護後にはさまざまな苦労があったと振り返る。最初に入った一時保護所では、環境面での苦労を感じたという。

「しばらく使われていない空き部屋みたいな感じでした。ほこりまみれでクモの巣も張っていました。布団は少しダニの臭いがしました。ご飯もありましたが、家で食べるほど温かくなかったです。お風呂は床、壁、天井に黒カビが発生していて、最後に入っていたので浴槽はあかまみれでした。布団が原因だと思いますが、手足はダニにかまれ、ストレスで全身にじんましんが出ました」

 10年ほど前のことだ。現在は設備が改善されている可能性があり、「全てとは一概には言えませんが……」と話すが、忌々しい記憶として刻まれる。

 次に入った心理治療施設では、経験したことのない閉塞感を味わった。

「入所後しばらくは一人部屋です。トイレや洗面台もありました。窓は磨りガラスで外も見られません。お風呂以外は部屋を出ることを禁止されていました。清潔でしたし、ご飯も温かい状態で職員さんが持って来てくれました。そこはポイント制で、(規律の遵守などにより)一定数貯まると集団生活に入れます。お風呂に関しては、年頃の女の子としては監視されているのも嫌でした」

 こうした児童目線による内部の実態は、あまり知られていない。

 そしてAさんを何より苦しめたのは、大人たちの「業務的」な態度だった。

「集団生活が始まるとたくさんの子たちがいるので問題もありますし、業務的な職員さんもいましたので不満も出てきます。それを伝えると、毎回『タイムアウト(部屋で落ち着いて考えろ)』と言われ、数分、度合いによっては数時間、軟禁されました。誰も信用できなくなり、相談する場所もなく、心を閉じました。寂しさで泣くこともなくなり、子どもの感情が消えた感じです。甘えられる場所が欲しかった。親のように抱き締めてほしかった。誰かに寄り添ってほしかった。そう思っていたんだと思います」

 虐待家族の元を離れ、救済されるはずだった。ところが、待っていたのは、孤独との闘い。心を休めるどころか、行き場を失い、ますます追い詰められた。

 刃物は持てない環境だ。Aさんは、ストレス発散のため、劣化したカラーコーンの破片を見つけては、それで自傷行為を繰り返した。

 その後、耐えかねて施設からの脱走を試みたものの失敗し、児童自立支援施設へと移った。

「そこは寮生活のような感じで、先生たちが親子に似た愛情をくれました。ワーカーさんに『ここで悪いことをすれば、あなたは少年院に行くレベルだから』と言われて。『あ、これはまずいな……』と思って、おとなしくしていました」

子どもにとって「保護=解決」ではない

 中学卒業と同時に施設を退所。高校へ進学し、その後は大きな問題なく生活を送ってきた。

「偏差値が60くらいあったので、高校の入試も普通にいけました。お父さんが『座学ばかりなのは嫌だろう』と言ってくれて、専門科目のある高校を勧めてくれて、そこに入りました。そこからは暴力はなかったです」

 現在は2歳の子どもを育てる母親となった。自身の子育てには、虐待を受けた経験が大きく影響しているという。

「私は親目線というより子ども目線で考えているかもしれません。『遊びたい』と言ったら一緒に遊ぶし、叱る時も頭ごなしではなく、『これは危ないよ』『ママ悲しいよ』と理由を伝えるようにしています。自分が暴力を受けてつらかったし、助けを求められる大人もいませんでした。だから、この子の居場所になれるようにしよう、と思っています」

 今回の「顔面ケーキ」騒動については、子どもの保護に理解を示す一方、親の身元特定や過度なネット上での誹謗(ひぼう)中傷による影響を心配する。

「通報して子どもを保護することには賛成です。でも、親を特定して晒し上げる行為は、子どもの未来を奪うことになりかねない。子どもが大きくなった時、自分の親がネットでこんなにも叩かれたことを知ったらどう思うか。デジタルタトゥーは消えません。親が追い詰められて最悪の選択をしたら、子どもは一生自分を責めるかもしれない。みんな今の保護だけに必死ですが、大事なのはその子の未来です」

 さらに、こう続ける。

「拡散して晒し、叩くという行為は正義ではありません。いじめと同様で、ただ大人を対象にしただけ。抑止力になったとの意見もありましたが、視点を変えれば『いじめられたくなければするな』『いじめられるほうが悪い』という感じ方にもつながります。命が大切という意見があるなら、その命を続けたいと思える環境にしないといけない。それをするのは親であり、周りの人たちです」

 何より、Aさんが伝えたいのは、子どもにとって「保護=解決」ではないということだ。

「親が悪いんだったら親はそれなりの処罰を受けます。その結果、親元に帰りたいと願う子が、世論のせいで帰れなくなるかもしれない。(私のように)施設のほうがしんどいと思うかもしれない。他人が勝手に幸せを決めつけるのではなく、子どもが将来『あの時、守られてよかった』と思える環境をどう作るか。叩くのではなく、寄り添う視点を持ってほしいです」

 一時の正義感で誰かを糾弾するのではなく、子どもの人生がその後も続いていくことを見据えて何ができるのか。今回、取材に応じてくれたAさんの証言は、支援のあり方について改めて考えさせるものだった。

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