家族旅行のプールで膝が変形→緊急手術 復帰の医師、“伝わらない痛み”経験 支えになった患者の言葉
家族旅行のプール遊泳で、想像を絶する事態が待ち受けていた。プールの底に左膝を打って骨折する大けがを負い、2度の大手術……。肝臓の疾病を専門とする内科医の菊池真大(まさひろ)医師は、4年前に思わぬ闘病に見舞われた。けがの1週間後から職場復帰を果たしているが、今も筋肉を回復させるリハビリを続けている。「当たり前に思えていた体の機能が制限されること、体の痛みは周囲に伝わりづらいことを経験して、健康の価値をこれまで以上に深く考えるようになりました」。自らの体験を基に、「新しい医療スタイル」へと歩みを進めているという。日頃から体を大事にすることへのメッセージを聞いた。

支えになった患者の言葉 医師としての新たな挑戦
家族旅行のプール遊泳で、想像を絶する事態が待ち受けていた。プールの底に左膝を打って骨折する大けがを負い、2度の大手術……。肝臓の疾病を専門とする内科医の菊池真大(まさひろ)医師は、4年前に思わぬ闘病に見舞われた。けがの1週間後から職場復帰を果たしているが、今も筋肉を回復させるリハビリを続けている。「当たり前に思えていた体の機能が制限されること、体の痛みは周囲に伝わりづらいことを経験して、健康の価値をこれまで以上に深く考えるようになりました」。自らの体験を基に、「新しい医療スタイル」へと歩みを進めているという。日頃から体を大事にすることへのメッセージを聞いた。(取材・文=吉原知也)
25年以上のキャリアを持つ菊池医師。悲劇が起きたのは、沖縄に家族旅行に出かけた2022年5月のゴールデンウイークのことだった。
ホテルのプールで遊泳していたところ、「プールサイドから軽く飛び込んだだけなのですが、膝がプールの底についてしまって」。膝の形が変形していた。左膝蓋骨(しつがいこつ)の骨折だったという。「膝のお皿と言われる骨の粉砕骨折でした。痛みがかなり出てきて、折れたんだろうなと分かりました」。沖縄の病院でそのまま手術するかどうか聞かれたが、その日が最終日だったこともあり、応急処置を受けて松葉づえで帰宅。翌日、当時の勤務先の病院で緊急手術に臨んだ。
「膝蓋骨が上と下で完全に真っ二つに割れて、下の方は粉々になっている状態でした」。1度目の手術では割れた骨を整復し、ワイヤーとボルト4本で固定して戻した。術後は激しい痛みが続き、2か月間は鎮痛薬の内服が必要で、その後もしばらく湿布を手放せない、松葉づえの生活が続いた。
約7か月後、体内に残ったワイヤーとボルトを取り出す2度目の手術が待っていた。「また同じところを切るのかと思うと気が重かったですが、2回目の手術は、1回目より時間も短く、痛みも少なかったです」。無事に成功し、快方に向かった。
職場復帰は早かった。骨折の約1週間後から医療現場に戻り、患者と向き合った。「骨折した直後に思ったのは、『どこまで回復するのだろう』という仕事への不安でした。診察は座っていることが多いですが、内視鏡検査は立ちながらの施術です。壁や台にもたれながら問題のないように検査を進めました。患者さんが診察室から出るたびに足を上げてむくみを取るなど、工夫を重ねていました」。
痛みを抱えながらの日々の中で、支えになったのは「患者さんたちの言葉」だったという。「何年も通っている慢性疾患の患者さんたちが、『先生、膝は大丈夫ですか?』『どれぐらいよくなってきた?』と声をかけてくださって、本当にうれしかったですし、ありがたかったです。今でも私の膝の状態を気遣ってくださる患者さんがいます。周囲の理解と支えがあったからこそ、少しずつ日常に戻れました」。感謝の思いを口にする。
「毎朝の日課として天気予報をチェックするようになりました」
40代で経験した大けが。今もリハビリを月1回続けている。左膝の周りの筋肉は一度委縮してしまい、筋力を回復させる治療を続けているのだという。
膝のけがによって、それまで当たり前にできていた行動に、制限が伴うようになった。「一番難しかったのは階段を降りることです。上がるのはできても、降りる時は手すりを使うことが多く、今も怖いです。また、混んでいる駅で前からぱっと人が出てきた際に、すぐに体の方向を変えられず、よけることが難しいです。危険を感じます」。通勤に少なからずの影響が出ているという。
左足の体重移動でバランスを取ることにも苦労が。電車が揺れると、踏ん張ることも大変だ。満員電車でつり革をつかめない位置になると、冷や汗をかく。また、「痛みは日々状況が変わります。天候や気圧にも左右されることがあって、毎朝の日課として天気予報をチェックするようになりました」。外から見ると分からない苦労が、骨折患者の日常に潜んでいる。
医師としての視座にも変化が起きた。「体が思い通りに動くことは当たり前だと考えていました。筋肉や関節の可動域が低下すると、日常生活にこれほど大きな影響が出るとは思っていませんでした。内科医の私ですが、健康寿命を延ばすために、運動機能の向上を同時に捉える必要性を痛感したのです」。
菊池医師は2024年10月に自身のクリニック「用賀きくち内科 肝臓・内視鏡クリニック」(東京)を開業した。
「私自身の経験を通じて、立つ・歩くといった移動機能が低下する『ロコモティブシンドローム(運動器症候群)』に注目するようになりました。私たち内科医はメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)を中心に生活習慣病の診察・予防に取り組んでいますが、そこに運動機能の指導をプラスしようと考えました。メタボとロコモを同時に予防管理できることを目指す、新しいクリニック治療を構築しています。また、根拠ある運動療法を患者さんに勧められるように、医療の質向上を図るため、(個人の心身の状態に応じた安全で効果的な運動プログラムを作成・指導する)『健康運動指導士』の資格を取得しました。今年4月に取ったばかりで、内科医では珍しいと聞いています」と説明する。
「患者の声に丁寧に耳を傾ける」
菊池医師が掲げるのは、「患者の声に丁寧に耳を傾ける」という理想の姿だ。「けがの傷や症状の部位だけを見るのではなく、原因・背景、その後の経過、患者さんの生活の現状や体調の変化など全部を含めて、理解することが大事だと考えています。患者さんと対等な立場で対話ができて初めて、本当の意味での健康がデザインされる。医療というものは、患者と医師が協調して行う共同作業だと思っています」と強調する。
痛みの捉え方についても、見方が変わった。「患者さんが『痛い』と口にする時、それは本人の限界値を超えた状態なのです。その痛みの種類はどんなものなのか、どんな時に痛むか、周辺の症状は……。丁寧に聞き出して、適切な治療を行う医師でありたいです」。
すでに暑い日が続き、今夏も酷暑が予想される。夏のプールや水遊びの機会が多くなりそうだが、事故・けがのリスクが伴うことも確かだ。菊池医師は「水中は、見た目以上に転倒や衝突が起きやすい環境です。浮力によってバランスを崩しやすく、プールサイドなども滑りやすい。足のけがは、仕事にも日常生活にも長く影響を残します。ぜひ気を付けていただきたいです」と注意を促す。
それに、「日頃から筋力とバランス能力を保つ運動習慣をつけておくこと。それが一番大切なことだと思います」。自らの骨折という大きな試練が、一人の内科医を「体の全体を診る医師」へと変えた。“新たな診療スタイル”の追求は、大きな一歩を踏み出している。
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