「反対されると思って」 妻に黙ってスーパーカー、生活はギリギリでも…72回ローンでかなえた夢

「買った後の事後報告ですね」――。1991年式 ホンダ NSX NA1型を前に、50代前半の男性オーナーはそう笑った。購入額は約600万円。平日はサラリーマンとして働き、週末にはアルバイトにも出て頭金を貯め、販売店で組める上限の72回ローンで購入した。妻に相談すれば反対されることは分かっていたため、契約後に報告。20年越しの夢だった“伝説的”和製スーパーカーは、男性の人生をどう変えたのか。

妻に“事後報告”で買った1991年式 ホンダ NSX NA1型【写真:平木昌宏】
妻に“事後報告”で買った1991年式 ホンダ NSX NA1型【写真:平木昌宏】

【愛車拝見#367】「反対されると思って」妻に事後報告でNSX購入

「買った後の事後報告ですね」――。1991年式 ホンダ NSX NA1型を前に、50代前半の男性オーナーはそう笑った。購入額は約600万円。平日はサラリーマンとして働き、週末にはアルバイトにも出て頭金を貯め、販売店で組める上限の72回ローンで購入した。妻に相談すれば反対されることは分かっていたため、契約後に報告。20年越しの夢だった“伝説的”和製スーパーカーは、男性の人生をどう変えたのか。(取材・文=平木昌宏)

 先月26日、東京・葛飾区の葛西神社で開催された「第3回 葛飾クラシック&スポーツカーフェスティバル in 葛西神社」。境内に並んだ名車の中でも、低く構えた初代NSXはひときわ目を引いた。

 男性がNSXを購入したのは、約11年前。2代目となるNC1型の登場が近づき、初代モデルにも再び注目が集まり始めていた頃だった。

「免許を取った時から、この車には憧れていました。ただ、当時はそんなの買えるわけもなくて。手に入れるまでに20年ぐらいかかりましたね」。

 欲しい気持ちはずっとあった。だが、簡単に手を出せる車ではなかった。結婚、子どもの誕生、住宅購入。人生の大きな出費を前に、“憧れの車”は何度も後回しになった。「結婚して、子どもができて、家を買って。その3つを乗り越えてからじゃないと、こういう車ってなかなか手が出せなかったんです」と当時を振り返る。

 本気で購入を決意してからは、資金作りに約10年をかけた。当時、子どもはまだ小学生。子育ての真っ最中だった。平日は会社員として働き、土曜日はアルバイトへ。家計に大きな負担をかけないよう、アルバイト代の多くを頭金に回した。

 購入額は約600万円。最終的に購入に踏み切ったのは、子どもが中学校に上がり、家計の先行きにある程度の見通しが立った頃だった。しかし、決して簡単な決断ではなかった。当時、販売店で組めるローンの上限は72回。男性は最長となる6年ローンを選んだ。「それでもギリギリでした。100回ローンがあったら、そっちを選んでいたかもしれませんね」と苦笑する。

 それでも、購入のハードルはローンだけではなかった。家族への報告だ。男性は「本気で買うという相談は基本していませんでした。多分、反対されると思っていたので」と打ち明ける。なんと、契約後に妻へ伝える“事後報告”だったというのだ。「購入後の妻の反応は『もう言ってもしょうがないな、こいつには』みたいな感じでしたね」。約600万円の買い物を、ほぼ独断で決めた。20年分の憧れが、それほどまでに背中を押した。

 納車の日は、息子と一緒に車を引き取りに行った。ショールームで何度も見ていたはずの車が、いざ自分のものになると、まるで違って見えた。「やっぱり特別でしたね。あまりに緊張しちゃって、シートベルトをつけないで走り出しそうになりました。あ、やべえって。それぐらい緊張していました」。長年憧れ続けた1台が自分のものになった瞬間の高揚感は、今も忘れられない。

“20年越しの夢”国産スーパーカーはイベントで存在感を放つ【写真:平木昌宏】
“20年越しの夢”国産スーパーカーはイベントで存在感を放つ【写真:平木昌宏】

「売っちゃおうかなと」相場2倍のNSX、苦境でも手放さなかった理由

 子どもが高校を卒業するころには、無事にローンを完済した。だが、支払いを終えた後も、決して楽な道のりばかりではなかった。約5年前、会社員生活に区切りがつき、個人事業主として働くことになった。収入面の不安もあり、一時はNSXの売却が頭をよぎったという。

 NSXの相場は購入当時から大きく上昇していた。所有するのは1991年式の初代NSX。もともとマニュアル車として販売された個体で、純正度も高い。男性の愛車も、今では購入当時の約2倍の価値になっているという。売ればまとまった資金になる。だからこそ、苦しい時期には余計に迷いも生まれた。

 コロナ禍にも直面した。サービス業として先の見えない不安はあったが、何とか乗り越えた。「その時は、もう売っちゃおうかなと思ったこともありました。支払いがあったら厳しかったと思います。結構ギリギリでしたね」。ローンを払い終えていたことが、結果的にNSXを手放さずに済んだ理由にもなった。

 では、なぜそこまでしてNSXを手元に置き続けるのか。日常的に頻繁に乗るわけではない。それでも、男性にとっては特別な存在だ。「乗らなくても、そこにあるだけでモチベーションを保てたりするんです」と実感を込める。

 ハンドルを握れば、今も気持ちは高ぶる。「決してすごく速いわけじゃないんですけど、ゆっくり走っていても楽しいんです。あまり旧車っぽくないところも好きですね」。相場が上がったから持っているのではない。20年憧れ、苦労して手に入れたからこそ、簡単には手放せない。

 NSXがもたらしたものは、走る楽しさだけではなかった。イベントに参加するようになり、普通に生活していたら出会えなかった人たちともつながった。「この車に乗ったから、普通だったら知り合えないような人とも知り合えました。人をつなげてくれる車ではあるかなと思います」と声を弾ませる。

 今回のイベントに声をかけられるのも、NSXがあったからこそだった。一人で楽しむだけなら、ここまで所有し続けていなかったかもしれない。仲間との出会いも、今では手放せない理由の一つになっているという。20年かけてつかんだ憧れの1台は、今も日々の原動力になっている。

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