主演・高橋一生から「1回でやってほしい」と提案 利重剛が13年ぶりの映画監督で受けた刺激
フジテレビ系連続ドラマ『silent』や『海のはじまり』での慈愛に満ちた父親役、TBS系連続ドラマ『半沢直樹』での癖のある経理課長役――名バイプレーヤーとして確固たる地位を築く利重剛が、表現者としての別の顔を見せた。5月1日公開の『ラプソディ・ラプソディ』で13年ぶりに長編映画のメガホンを取ったのだ。単独でのオリジナル脚本執筆にいたっては31年ぶり。久々の現場で、主演の高橋一生らとどのように向き合ったのか。

『ラプソディ・ラプソディ』で13年ぶり長編映画のメガホン
フジテレビ系連続ドラマ『silent』や『海のはじまり』での慈愛に満ちた父親役、TBS系連続ドラマ『半沢直樹』での癖のある経理課長役――名バイプレーヤーとして確固たる地位を築く利重剛が、表現者としての別の顔を見せた。5月1日公開の『ラプソディ・ラプソディ』で13年ぶりに長編映画のメガホンを取ったのだ。単独でのオリジナル脚本執筆にいたっては31年ぶり。久々の現場で、主演の高橋一生らとどのように向き合ったのか。(取材・文=平辻哲也)
利重は、1981年、TBS系連続ドラマ『父母の誤算』の主演でデビューすると、繊細な感性を持つ若者像を確立し、同年の映画『近頃なぜかチャールストン』(岡本喜八監督)でも主演を務めるなど、早くから異才を放った。近年では名バイプレーヤーとしての地位を不動のものにしている。
一方、監督としても国際的な評価を得ている。2002年公開、永瀬正敏主演の『クロエ』でベルリン国際映画祭のコンペティション部門に選出されるなど、独自の映像美と人間洞察が高く評価された。
本作は、絶対に怒らない男・夏野幹夫(高橋)と、彼との婚姻届を勝手に出していた破天荒な女・繁子(呉城久美)の不器用な愛を描く都会派コメディー。幹夫は過去のトラウマをきっかけに自ら生み出した「絶対に怒らない」などの決めごとに縛られて生きており、一方の繁子も「私は私が嫌いです」と手紙を残して姿を消してしまうような孤独で不器用な過去を抱えている。
キャスティングの決め手について、利重監督は「2人の組み合わせで映画がイメージできちゃうのは避けたかった」と明かす。
「繁子役の呉城さんは、以前、映画『長崎-閃光の影で-』(2025年)の現場で少しごあいさつしたんですが、『お弁当を食べていいんですか?』と聞いてきたりして、独特の面白い雰囲気を持った方だなと思いました。一方の幹夫役は、いろいろ悩んで1年以上過ぎた後に『高橋一生くんはどうだろう』とふと閃いたんです。プライベートの親交はなく、テレビドラマで共演したくらいでしたが、ダメ元で声をかけたら引き受けてくれました」
主演・高橋一生の提案を受け「長回しで一発勝負」
久々の監督業。クランクインでは「ちょっと年を取ったなと思いました」と苦笑いする。
「昔だったらすぐ『じゃあこれすればいいんじゃないの』と指示を出せたのが、一瞬頭が真っ白になって動きが鈍くなっている自分を感じました。もうちょっとみんなに大事にされないとダメなのかもしれないって思いましたね(笑)」
しかし、主演の高橋がそんな監督を強力にバックアップした。
「一生くんは絶対的な演技力があるし、幹夫という人物を作ってくれるだろうという信頼感がありました。実際、僕以上に脚本を読み込んでくれていて、現場でもいい刺激とアドバイスをくれました。幹夫の部屋で2人の思いがぶつかる重要なシーンがあるんですが、僕は最初ブロックに分けて4日間かけて細かく撮るつもりでした。でも一生くんから『テンションが持たないだろうから1回でやってほしい』と提案され、思い切って長回しで一発勝負に近い形で撮りました。撮るのに覚悟が必要で緊張しました」
主人公の叔父役としても出演する利重監督は、あえて「モニターチェックをしない」という演出スタイルを貫いた。
「自分の芝居をモニターでチェックして『もう1回撮ろう』なんてやっていたら際限がなくなってしまうし、相手の俳優にも『もう1回やってほしい』と言いづらくなる。だから撮影の池田直矢さんたちに聞いて『大丈夫』と言われたらOKにして、チェックせずにどんどん前に進めました」
2010年に逝去したフランス映画の巨匠で、『四季の物語』シリーズなどで日常の機微を軽妙に描き続けたエリック・ロメール監督を引き合いに出し、自身の理想を語る。
「ロメール監督の現場のように、女の子たちが『おじいちゃんこうやって撮るのかよ』と言っているうちに映画ができあがるような、そんなふうにスタッフや俳優のアイデアを吸収して、映画ができあがるのを見守ってみようと思っていたんです」
自分だけのためにコンテを持っていきつつも、毎回カメラマンに「どうします?」と映像設計を任せる。気負いや煩悩めいた表現欲を捨て、スタッフとキャストに全幅の信頼を置いたからこそ生まれた風通しの良さ。それこそが、この愛すべきコメディーの最大の魅力となっている。
□利重剛(りじゅう・ごう)1962年7月31日、神奈川県生まれ。81年、自主制作映画『教訓Ⅰ』がぴあフィルムフェスティバルに入選し、同年公開の映画『近頃なぜかチャールストン』で主演・共同脚本・助監督を務める。89年『ザジ ZAZIE』で劇場用映画監督デビュー。95年『BeRLiN』で日本映画監督協会新人賞受賞。俳優としても数々の話題作に出演し、近年の主な出演作は映画『たしかにあった幻』、など。公開待機作に『未来』(5月8日公開予定/瀬々敬久監督)、『おばあちゃんの秘密』(2026年初夏公開予定/今関あきよし監督)がある。
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