宝塚トップからバラエティーまで 40周年の紫吹淳、進化する人生「何色にも染まれる面白い人に」
元宝塚歌劇団月組トップスターで俳優の紫吹淳が、今年芸能生活40周年を迎えた。記念イヤーの活動第1弾となるのが、6月11日に東京芸術劇場で開幕する二人芝居のミュージカル『アーネスト・シャクルトンに愛されて』(岡﨑育之介氏演出、同24日まで)だ。2004年に退団後はドラマやバラエティーなど活動の幅を広げてきた中、今回はバイオリンほか4種の楽器を生演奏する。大きな節目を迎えた今もなお、新境地に挑む“ベテランスター”が、作品への抱負、実績を重ねてたどり着いた表現についての“ある思い“を明かした。

ミュージカル『アーネスト・シャクルトンに愛されて』で主演
元宝塚歌劇団月組トップスターで俳優の紫吹淳が、今年芸能生活40周年を迎えた。記念イヤーの活動第1弾となるのが、6月11日に東京芸術劇場で開幕する二人芝居のミュージカル『アーネスト・シャクルトンに愛されて』(岡﨑育之介氏演出、同24日まで)だ。2004年に退団後はドラマやバラエティーなど活動の幅を広げてきた中、今回はバイオリンほか4種の楽器を生演奏する。大きな節目を迎えた今もなお、新境地に挑む“ベテランスター”が、作品への抱負、実績を重ねてたどり着いた表現についての“ある思い“を明かした。(取材・文=大宮高史)
1986年に宝塚歌劇団に入団し、同年3月の初舞台から40年。宝塚時代はダンスの名手として知られ、都会的なセンスや華麗なパフォーマンスで人気を博したが、素顔は柔らかいキュートな一面を持ち、フェミニンな雰囲気を感じさせた。
「宝塚音楽学校時代に『そんな声じゃ男役として通用しない』と厳しく言われて、必死で訓練して低い声を作りました。今でも出せます」と軽やかに笑う。続けて、「振り返るとあっという間でしたが、40周年という数字は重みがあります。紫吹淳という芸名で、こんなに長く生きていくとは想像もしていませんでした(笑)。支えてくれた皆様へは、感謝の一言に尽きます」としみじみ語った。
その彼女が目下、稽古に取り組んでいるのが、『アーネスト・シャクルトンに愛されて』だ。オフ・ブロードウェイミュージカルの日本版で、シングルマザーと伝説の冒険家との時空を超えた恋を描く。紫吹は、ゲーム音楽の作曲家にしてシングルマザー・キャットを演じ、冒険家とキャットの夫の2役に扮する俳優・伊原剛志との二人芝居となる。
ある日、キャットが出会い系サイトに動画を投稿すると、20世紀に実在した南極探検家のアーネスト・シャクルトン(伊原)から返信が届いた。氷上で遭難していたアーネストからの救助を求めるメッセージをきっかけに、2人の奇妙な冒険が始まる――という物語。日本初演となる今回、紫吹はニューヨークで上演のオリジナル版と同様に劇中、「1人オーケストラです」というほどの生演奏にも挑戦。電子バイオリンなどを弾きながら歌唱するというパワフルな役どころだ。
「お話をいただいて、オリジナル版の映像も拝見した時、『面白いけど相当な覚悟が要る』と思いました。冒頭に10分近く独りで歌うナンバーもありますし、電子バイオリンやドラム、シンセサイザー、バンジョーまで生で演奏します。中学でトロンボーンを習っていて、宝塚時代に舞台でサックスを演奏したこともありますが、その時は苦労せずにできて『私って天才』と思ったんですが(笑)、今回は全く違いますね。特に電子バイオリンは朝から晩まで少しでも時間があれば触って、指の痛みと闘いながら練習しています」
音楽監督の中村匡宏氏からは「稽古から楽器とお友達になるつもりで」とのアドバイスをもらったとし、「お友達どころか身体の一部にしないといけないなと覚悟しています」と心血を注いでいる。
キャットについても「音楽を作る方って形にハマらないイメージがあるので、クリエイターらしい奔放な面を見せていきたいです」と意気込む。楽器演奏や新たな役柄など挑戦続きだが、かつて約70人~80人の仲間のトップに立った誇りが彼女を支えている。
「『宝塚よりしんどいものはない』と思えば、何でも乗り越えられそうです。でも今回はさすがに宝塚時代、ベルリン公演(2000年)で主演させていただいた時と同じぐらいの、きつさがあります。楽器をこんなにたくさん扱うという怖さと、まさかの海外で初めて主演をいただいた時の緊張感がリンクしました」
そう心境を明かし、大役に士気が高まっている様子をうかがわせた。初共演の伊原との“化学反応”も楽しみにしている。
「伊原さんってまさに“イケオジ”といいますか、成熟した男性の魅力をお持ちですよね。頼もしいですし、伊原さんのような長身の方と組む機会が今まであまりなくて、私をかわいく見せてくれる希少な方です(笑)。ですが劇中はキャットが弱気になったアーネストに『あんた冒険家でしょ!』と喝を入れるシーンもあります。お芝居の中での、2人の関係の変化も楽しんでいきたいです」

坂本昌行とのミュージカルで9cmのヒールを履きこなす
そんな紫吹は01年に月組トップスターに就任し、04年に宝塚を退団した。現在は女優経験(22年)が男役18年を超えたが、転身当初は男役出身の元タカラジェンヌがしばしば戸惑う“男からの脱却”に彼女も直面した。その時の経験が、最大の転機だったという。
「退団した次の年に、ミュージカル『THE BOY FROM OZ』でライザ・ミネリ役をいただいたんです。坂本昌行さんが主人公のピーター・アレンを演じました。私はライザのナンバーでは9センチのヒールを稽古から履いて臨んだんですが、ヒールがしんどいから脱ぐと演出家の方から『お前は“男”なんだから履き続けろ!』って怒られました。その先生は宝塚時代の私のことも見ていらしたので、男役をやってたんならスパルタで、と厳しく指導してくれました」
もっとも、芝居の中では徹底して女性になりきらないといけなかった。
「舞台の上ではライザなので女になりきらないといけないのに、坂本さんのことを無意識にリードしてしまったんです。ダンスシーンでも男役の癖で、相手の手を下で受け取ろうと掌を開いてしまったり……。男役出身者って、相手役さんに全部ゆだねる心構えがなかなかできないんですね(笑)。ただ初演後も、ほぼ同じキャストで3回も再演の機会をいただけて、私が徐々に女性役になじんでいく様を見守っていただけたと思います。宝物ですね」
そして今、表現者として、ある変化が生まれている。
「必要以上に性別を意識することがなくなりました。以前はどこかで『女を演じなければ』という気負いがありましたが、今はありのままの自分でいられます。でも、かわいい存在の前だと、まだ男役の性が出ちゃいますね(笑)。3年前にBS-TBSのドラマ『ママはバーテンダー』でシングルマザー役をいただいた時、子どもや動物の前だとつい格好つけていました。衣装もパンツスタイルが多かったので、どんどん足を開く角度が大きくなっていました(笑)」
退団後は、バラエティーにも出演し飾らない性格や、インスタグラムではおちゃ目な表情を見せるなど多彩な顔で魅了する。もちろん“別の扉”から入っても、舞台人・紫吹にハマってくれることは大歓迎だ。
「『紫吹淳ってこうだよね』というスタイルは決めないでいたいです。それより『何をするか分からない、面白い人』って思ってもらいたいですね。テレビで共演した芸人さんが、私の舞台を見に来てくれると、『いじり過ぎて、すみませんでした』って謝られたりします(笑)。舞台とのギャップも面白く思ってもらえるので、何色でも染まれる人になりたいと思います」
今作も芝居に歌、楽器と変化に富み集中力と体力が求められそうだが、そのバイタリティーの源にもついても明かした。
「マッサージが“三度のご飯”より不可欠です(笑)。『身体の節々が痛い』という悩みが身近な年になってきましたが、私は痛みなんか全然ないんです(笑)。ちょっとでも違和感があったら施術してもらってきたおかげでしょうか。終わった時の身体が軽くなる感覚が、たまらないですね」
さて、記念イヤーの活動は来年春まで続き、ラストは豪華コンサートも予定する。「35周年がコロナでできなかったので、男と女がギュッと詰まり、ファンの方々に『これが観たかった』という内容をお届けできれば」と青写真を描く。さらに今秋はクルーズ客船で初めて船上ステージショーも行い、宝塚時代の曲からポピュラーな歌謡曲まで披露する。
「やっぱり舞台は私が生まれ育った場所です。最近はテレビの中での紫吹淳を知っている方が多いかもしれませんが、そんな皆さんにもステージ上での表現を楽しんでいただきたいです」
40年は通過点。これからも、華やかに軽やかに芸能界で確かな足跡を刻んでいく。
□紫吹淳(しぶき・じゅん) 1968年11月19日生まれ、群馬県出身。1986年に72期生として宝塚歌劇団に入団、01年に月組トップスターに就任。04年3月に退団後は俳優として活動を開始。主な出演作に『THE BOY FROM OZ』『王様と私』『モダン・ミリ―』などがある。23年にBS-TBSの『ママはバーテンダー~今宵も踊ろう~』でドラマ初主演を飾った。26年は2月上演のミュージカル『リトル・ダーリン』に出演した。6月11日~24日まで東京芸術劇場シアターイーストで『アーネスト・シャクルトンに愛されて』を上演する。また、9月にクルーズ船「三井オーシャンフジ」、10月に同「三井オーシャンサクラ」で船上ステージショーに出演予定。170センチ。趣味は旅行、料理、ベリーダンス。特技は生け花。
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