青木真也、利益度外視で打つ自主興行「これは個展」 “全員好きな人”を集めたマッチメイク

「4月大会やります」。昨年12月、青木真也から唐突に連絡がきた。MMA戦を終えて、まだ1か月もたっていないタイミングだ。そんなに早く次戦を決めたのかと驚きつつ話を聞いていくと、どうも会話がかみ合わない。青木が言う「大会やります」とは、次戦の報告ではなく、自主興行「エイオキクラッチ01」(4月20日、東京・新宿FACE)を開催するという意味だった。なぜ今、彼は自腹を切ってまで「自分の興行」を打つのか。青木の表現が詰まったイベントの全貌に迫った。

自主興行を開催する青木真也【写真:増田美咲】
自主興行を開催する青木真也【写真:増田美咲】

個展=「自分の好きなものを詰め込んだ空間」

「4月大会やります」。昨年12月、青木真也から唐突に連絡がきた。MMA戦を終えて、まだ1か月もたっていないタイミングだ。そんなに早く次戦を決めたのかと驚きつつ話を聞いていくと、どうも会話がかみ合わない。青木が言う「大会やります」とは、次戦の報告ではなく、自主興行「エイオキクラッチ01」(4月20日、東京・新宿FACE)を開催するという意味だった。なぜ今、彼は自腹を切ってまで「自分の興行」を打つのか。青木の表現が詰まったイベントの全貌に迫った。(取材・文=島田将斗)

「僕が好きな人を呼んで、やっていただく。だから利益は求める気は全然ないです。そんな大層なものではなくて青木真也の個展です」

 きっかけは昨年11月にONEチャンピオンシップで行われた総合格闘技の試合だ。気持ちを作ることができず、複雑な心境を抱えたまま「仕事」として引き受けた。そんなときに降りてきたのが、自分の好きなものを詰め込んだ空間を作ることだった。

「もう嫌だなと思っていたんですよね。ファイトマネーをもらっても『こんなもらってもしょうがねぇんだよな』という気持ちになったときに『自主興行やろう』と思ったんです。自分の好きな人を集めて、自分のことを好きな人に見ていただくっていうイベントができたら、嫌なことがあっても頑張れるかなと」

 旗揚げ大会を行う場所として選んだのは東京・新宿FACEだ。プロレス、格闘技好きにはなじみのある場所でキャパシティーは500人と少なめだ。チケットはすべてのカード発表を待たずして完売してしまったが、この大きさでないといけなかったという。

「後楽園ホールなんか取れないし、埋める自信もない。僕が創りたいものの箱があるんですよね。800人まではいけても、1500人まで集めようとすると解像度がちょっとずれちゃうんですよ」

 利益を求める興行ではなく、あくまでも個展だ。箱を埋めるために試合数を増やせば、濃度が薄まってしまう。「ビジネスじゃない」と強調した。

 試合会場や団体のトップに連絡して、自らで参戦を依頼をした。格闘家としてキャリアのあるベテランだが、選手には「個展をやるので出ていただけますか?」というスタンスだ。

 生々しい話だが、選手の“ギャラ”は「言い値」。「『個展をやるので出ていただけますか?』っていうスタンス。(ギャランティは)いくらがいいですか? と聞いて、『払います』『だったらもっと払います』ってだけでした」と振り返った。

 ひとりの出場選手を除いて“交渉”はなかった。「ありがたいです」と語るその表情は、ここ最近見なかったほど和らいでいる。

「ほんとに一生懸命です。もう全員が俺の好きな人でやる。青木真也にしかできないマッチメイクだし、青木真也にしかできない味付け。自分が描きたい自分の考えるプロ格闘技、プロレスリングをやっていただく。強さと闘いを描きたいっすね」

 ゆくゆくはMMAの興行にも挑戦したいという思いもあるが、500人規模で頭をフル回転している状態。「いまは考えられない」と思わず苦笑いを浮かべる。それでもイベントは、少なくとも年に1回はやっていきたいそうだ。

「正直利益はそんなに出ないです。会場はそのとき、描きたいものに適した会場ですよね。極端なんだけど、例えば1カードで、東京ドームが埋まったらそれでいい。そこだけ伝わればいいんですけど、自分が伝えたいものは、ぶらしたくないですよ」

エル・リンダマン vs 阿部史典
エル・リンダマン vs 阿部史典

宇野薫に伝えたい「リングの上ってこんなに楽しいんだよ」

 組まれたカードには青木なりの確固たる「強さ」「闘い」の意味が込められている。

○エル・リンダマン vs 阿部史典

「エル・リンダマンっていう選手は日本で1、2を争うぐらい練習してるレスラーなのですよ。30歳の誕生日だから30キロ走るみたいなことをやっていたりとか……格闘技の練習もしてて、実際に僕がグラップリングの練習をしたりするぐらい、一番強さを追い求めてるレスラーであるし、その格闘技スタイルで試合ができるんです。橋本さんもそうですけど、いまがたぶん一番動けると思います。その2人のパフォーマンスをまず見ていただきたいです。阿部史典もまた天才。感性でやる天才と強さの間に闘いがあると思うんですよ」

橋本千紘&愛海 vs 山岡聖怜&山﨑裕花
橋本千紘&愛海 vs 山岡聖怜&山﨑裕花

○橋本千紘&愛海 vs 山岡聖怜&山﨑裕花

「第2試合は橋本千紘さん組と山岡聖怜さん組。これはね、本当に橋本さんに出てほしいと思っていて。橋本さんは強さと闘いを求めていて、日本で一番練習しているレスラーだと思うんですよ。

 山岡さんはレスリングの実績もあるし、いままでの女子プロレスにない女子プロレスというか、ガッチリした強さを見せられると思うんです。アイドルっぽさじゃなくて、強さを見せられるのが、橋本さんとの試合だと思うんですよね」

男色ディーノ vs 川尻達也
男色ディーノ vs 川尻達也

○男色ディーノ vs 川尻達也

「これもまた僕の中で“強さ”なんですよ。男色ディーノっていうレスラーは、僕の定義する強さを持ってるんです。全てのイベントを成立させるすごさがある。修羅場もくぐってる。彼はうまいんじゃなくて強いと思っていて。

 僕が(昨年)11月に試合をしたときに『これも強さだから』って世間に向けて言った。マスコミもみんなこれの意味が分からなかった。

 川尻に感じてほしいんですよね。だから川尻なんです。『お前に俺たちの強さができるのか?』って。俺はすごいそれがやりたかった。俺らの定義する強さとかすごさが、『お前に分かるのか?』っていうのを客にも問いたいんですよ。

 男色ディーノのすごさが世に知らしめられると思うし、川尻が強くなれるきっかけになる試合かもしれないですね。彼(川尻)、この場に立つってことは、分かってると思うんだよね。すごい興味深い試合ですよね」

上野勇希&宇野薫 vs T-Hawk&黒潮TOKYOジャパン
上野勇希&宇野薫 vs T-Hawk&黒潮TOKYOジャパン

○上野勇希&宇野薫 vs T-Hawk&黒潮TOKYOジャパン

「これはもう全員が俺が好きなもの。この試合は幸せになって帰っていただきたいっていう気持ちです。

 黒潮TOKYOジャパンって、入場も含めて、人を幸せにする、楽しくやるっていう天才、場をコントロールする強さの天才です。T-Hawkっていうレスラーは、ほんとに前向きで向こう気が強くて、僕も試合してもらったんだけど、こんな良いレスラーいないと思ったんすよ。『こんなすごい奴いない』ってほんとに思った。要は逆水平チョップ一発で、試合を作れる。無骨にミニマリスト。回りくどいことを一切やらずに、シンプルな逆水平チョップだけで試合を片付ける。僕はもっともっと評価されてもいいと思うし、日本で5本の指に入るようなレスラーだと思う。

 上野勇希。これまたすごいやつで、東京ドームでDDTをやりたいと掲げた時に、なんかみんなを引っ張っちゃう力があるんすよね。実際にDDTの後楽園ホール大会は、ここ何大会かって完売。武知海青ではなく上野の力だと思う。上野と武知海青がやっても、俺は上野のすごさが出たと思ってて。上野のすごさが出ちゃうから逆に期待したようなものにならなかったとも言える。彼は単純なパフォーマンスもあるんだけど、団体全体、試合全体を見渡せるすごさがあるんです。

 宇野さんにプロレスをやっていただくにあたって、正直に言うと誰か不安なやつと組ませたくなかったんです。宇野さんをちゃんとサポートして、青木真也の意図を汲み取ってくれて、信頼できる人。これは上野さんだなと。オファーをしたら『ぜひぜひ』って言ってくれた。俺は『申し訳ないんだけどサポートすることにもなる。君のことをそのくらい信頼してる』と伝えました。

 宇野さんで言うと、青木真也は宇野薫の格闘技の試合をあまり歓迎していない。修斗でぶっ倒された試合もそうなんだけど、お客さんに悲しい気持ちで帰ってほしくないんですよ。やられてる姿というか……ひしゃげた気持ちで帰ってほしくない。楽しいなと思って帰ってほしいです。

 イケメンさんいて、T-Hawkいて、上野いて、宇野さんだったら、もう思いっきり日本の最高峰のプロレスを楽しんでいただけるでしょと思った。宇野さんに『リングの上ってこんなに楽しいんだよ』って知ってほしいなって。お客さんにも『宇野さんこんなんやってたね、楽しいね』って言って帰ってほしかったんです」

青木真也 vs ケンドー・カシン
青木真也 vs ケンドー・カシン

○青木真也 vs ケンドー・カシン

「俺の中でセミがすごい大事なんすよ。男色ディーノ―川尻達也をセミにすると最後2試合が両方とも振るカードになる。2つとも空振りする可能性があるんです。セミでイケメン、T-Hawk、上野が日本最高峰のプロレスをしてくれるから、ディーノさんも俺も思いっきり振れるんです。

 で、僕のメインなんですけど、これはもう自分勝手に振る試合。なぜならば俺がやりたくてやってる。キャンバスに好きなことを描きたい試合。自分が生きてきた現在地点。ケンドー・カシンになりたくて生きてきた人が、憧れというか、自分の目標指針となるものと交わった現在地点を確認する。明日からまた頑張ってもらえるような試合ができると思ってますよ」

ケンドー・カシンへのオファーは超難航「嘘だ先輩、スケジュール空いてますよね」

 メインイベントの相手に指名したケンドー・カシン。これまで、ONEチャンピオンシップでの試合ではセコンドを依頼するなど深い関係性を築いてきたが、いざ自身の興行へのオファーとなると、その道のりは想像以上に険しかったという。

「もう、ほんとに超大変で。めちゃくちゃ大変なんすよ(笑)。まず最初にお会いしたのが12月くらいだったかな。『先輩、実はちょっと興行やることになって、やっていただけたりしないですかね? 4月20日の新宿FACEなんですけど』って言ったら、『いやいやそんな先のことは分かんないよ』って(笑)。

『嘘だ先輩、スケジュール空いてますよね』って食い下がっても、『そんな先のことは分かんない』って。で、もう2週間ぐらいたって会って『お願いできますか』って言っても、また、はぐらかされて」

 結局、最終的な交渉のテーブルにつけたのは、大会の発表が目前に迫った頃だった。

「もう発表直前ぐらいのタイミングですね。材料も作ってるんで『もう、お願いします』って言ったところで、ようやく最終的な交渉になるみたいな。2回流されて交渉したんだけど、まあMMAで3試合コーナーについてもらったりとか、関係性もあるんだけど、交渉はめちゃくちゃ厳しかったっすね。妥協しないし、『プロだな』と思った。全部向こうのペースで進んでいくんです。

 他の選手はびっくりするぐらい常識的でスムーズでポンポンポンって返ってくる。でもカシンさんは一筋縄ではいかないんすよ。はぐらかされるんすよ。『ところで』みたいに(笑)。『お願いだからさ』って思うんだけど、無敵でしたね」

「好きじゃないと付き合えないっすね」と独特なペースに翻弄されながらも、どこかその状況を楽しんでいる節がある。

「(カシンに)『じゃあ、誰々は呼ぶの?』とか言われて『いや呼ばないです』、『冷たいな』みたいな話になって全然進まない。でもカシンさんは、わざとそうしてるっていうか、考えてやってる。何かあるんでしょうね。苦労してます。でももう、当日来てくれると信じてるけど(笑)。レスラーであればあるほど、(カシンさんにオファーしたと)相談すると『嘘でしょ?』ってみんな言うぐらい。悔しいけど面白いっす」

 カードが出揃い、チケットも早々にソールドアウト。興行まで2か月を切った今、青木が最も心血を注いでいるのは、出場してくれる選手たちへの「ケア」だ。

「例えばT-Hawkさんとリンダマンさんは前日に大阪で試合なのよ。プロレスからすると前日なんか当たり前だし、ダブルヘッダーとかもあるんだけど。『移動費を出すので、できたらバスじゃなくて、新幹線で帰ってきてください』みたいなところまでケアして、ベストパフォーマンスで試合してほしいなと」

「いろいろ持ち帰ってほしい」。ファンではなく出場する選手にこの言葉を向ける。

「出ていただいたレスラーにプラスになって、いろいろ持ち帰ってほしいなと思っています。今回の客層って早くに売れちゃったから読めていないんです。青木の客半分かもしれない、だからプロレスを見たことがない客もいるんです。その人たちが、当日に出るレスラーを見て、お客さんになってほしい。だから全員が闘いだと思ってます。お客さんを持ち帰ってほしいっすね」

 ONEチャンピオンシップで組まれた試合の表現ではない。混じりけのない“青木真也”濃度100%の空間で、観客は何を感じ、選手は何を持ち帰るのか。青木が定義する「強さと闘い」の真髄に触れられる、またとない機会になりそうだ。

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