西野亮廣、22歳で経験した“相方失踪”と3か月の空白 「どん底の景色」から生まれた『プペル』最新作
お笑いコンビ・キングコングの西野亮廣が製作総指揮・原作・脚本を務めるアニメーション『映画 えんとつ町のプペル ~約束の時計台~』(廣田裕介監督)が3月27日に公開される。アニメーション制作は世界的に評価の高いSTUDIO4℃が担当。本作は、興行収入27億円を記録した『映画 えんとつ町のプペル』(2020年)に続く第2弾だ。ストーリーの根底には、西野の20代前半に起こった相方・梶原雄太の“失踪事件”があった。西野が、当時の「人生最大の決断」と、新作に込めたメッセージを明かす。

最新作『映画 えんとつ町のプペル ~約束の時計台~』が公開へ
お笑いコンビ・キングコングの西野亮廣が製作総指揮・原作・脚本を務めるアニメーション『映画 えんとつ町のプペル ~約束の時計台~』(廣田裕介監督)が3月27日に公開される。アニメーション制作は世界的に評価の高いSTUDIO4℃が担当。本作は、興行収入27億円を記録した『映画 えんとつ町のプペル』(2020年)に続く第2弾だ。ストーリーの根底には、西野の20代前半に起こった相方・梶原雄太の“失踪事件”があった。西野が、当時の「人生最大の決断」と、新作に込めたメッセージを明かす。(取材・文=平辻哲也)
「中身、お客さんの反応に関しては自信があって、いけるなと思ってるんです」
西野は確かな手応えを口にする。しかし、この脚本にたどり着くまでには大きな挫折があった。前作のメガヒットが、無意識のうちに西野の筆を鈍らせていたのだ。
「1作目で本当にたくさんのスタッフさんが関わってくださっているということに対して謎に責任感があって、『プペルを売らなきゃいけない』と思ったんです。脚本の段階から『今お客さんが望んでるものは何なんだろう』と考え始め、『これがウケるんじゃないか』と考えて書いたら、全然面白くなかった。それで半年から10か月ぐらいかけて書いた本を丸々白紙に戻したんです」
苦悩の末、気づいたのは「1作目の何が良かったか」という原点だった。
1作目は厚い煙に覆われ、上を見上げることを禁じられた町を舞台に、煙の向こうには光り輝く「星」があると信じる少年ルビッチと、ゴミから生まれたゴミ人間プペルが冒険を繰り広げる物語。兵庫県川西市で生まれ育った西野が大阪の大都会に出てきたときの思いがベースになっている。
「1作目は個人的な話を書いて、結果的に似たような境遇の人に届いたんだよなと思って。だからマーケットがどうだっていいから、個人的な話を書く。そうすれば、似たようなシチュエーションにある人には届くのかもしれない。それで、2作目も極めて個人的な、自分の思い出から引っ張り出してきて、それを膨らませました」
その「思い出」こそが、相方・梶原の失踪事件だった。デビュー直後から爆発的な人気を獲得し、一気にスターダムにのし上がったキングコング。しかし、すさまじいスピードで走り続ける日々に、梶原の心は悲鳴を上げていた。西野が22歳のとき、梶原は心身症を患い、突然姿を消してしまう。
「梶原さんが失踪して、レギュラー番組がいっぱいあったのに1日で全部なくなったんです。精神的な理由での失踪ですから、帰ってくるかどうかわ分かんないわけじゃないですか。最初は『何してくれてんねん』って腹も立ってたんですけど、でも、やっぱり2人でいる時間が楽しくて」

脚本を書きながら号泣「どん底の景色が出てくる」
当時、事務所からは西野1人で活動を続けるのはどうか、と提案もあった。しかし、西野の決断は「待つ」ことだった。
「心が壊れてしまって離れた人に対して、こっちが1人で活動してしまうともう本当に戻ってくる場所がなくなっちゃう。究極、僕が1人で活動してそれで活躍してしまったら、梶原さんからすると『あ、俺いらないじゃん』ってなっちゃう。それはやってはいけないなと思ったんです」
とはいえ、当時22歳の若者にとって、先が見えない中で相方を待ち続けることは、想像を絶する恐怖だったはずだ。
「今だったら、多分さくっとできる決断も、まだ成熟してない子が判断するには重すぎた。もしかしたら人生棒に振るかもしれない。そこから5年待っても結局何もありませんでしたっていうシナリオにもなりうるわけで。めっちゃ怖かったです。めっちゃ覚悟もした。多分自分の人生振り返っても、一番覚悟を振り絞った瞬間がそこですね」
梶原が不在の数か月間、西野の時計の針も完全に止まっていた。仕事もなく、外でアルバイトをすれば週刊誌の格好の的になる。発声レッスンなども受けてみたものの、「これが将来の役に立つ日が来るのか」とむなしさを覚え、最終的に家にこもり続けた。
「ご飯が必要になったらコンビニで買って、あとはずっと家で椅子に座ってる時間でした。今考えると、ぞっとしますよね。3か月ぐらいずっと家で座ってるわけですから」
このときの“止まった時間”の体験を昇華させたのが、絵本『チックタック ~約束の時計台~』(2019年)だ。壊れていないのに11時59分で止まった時計台を舞台に、孤独な少女とへんくつな住人の約束を描いた同作をベースに、今回の映画では、ルビッチがこの世界に迷い込み、時計台を動かす冒険として描いている。
「時計師のガスという人が待っていて、そこにナギが会いに行くんですけど、会いに行ったときの部屋の間取りが当時の僕のマンションの部屋の間取りと一緒なんですよ」
やがて、3か月の沈黙を破り、梶原が西野のもとへやってくる。まだ芸能界に戻れるような状況ではなかったが、西野が待っていたことを知り、ただ謝罪のために訪れたのだという。
「自分としてはもう1回コンビとしてやりたいと思ってたんで、うまいこと話を持っていきました。そのときに梶原さんがぽろっと言ったのが、『いやでも、こんな状態だし、こっから復活ってちょっと難しくない? もう俺無理じゃない?』って。それに対して『いや、言うてまだ22歳やで。今からでもまだ間に合うでしょ』って言ったんですよ」
この西野の「まだ間に合う」という言葉も、そのまま劇中のセリフとして使われている。完成作を見た梶原は号泣したという。
「梶原さんがバカみたいに号泣したのは、作品の面白さっていうより当時の景色がよみがえってきたからだと思うんですけど、実は僕もこの脚本を書きながら号泣してるんです。書きながらずっと泣いちゃうんですよ。どん底の景色が出てくるんで」
絶望の淵で信じることをやめてしまった少年が、もう一度「信じて待つ」という選択に向き合う物語。それは決して特別なファンタジーではなく、立ち止まりながらも歩みを進めるすべての人の背中を押す、泥臭くも温かいメッセージとなっている。
□西野亮廣(にしの・あきひろ) 兵庫県川西市出身。19歳で梶原雄太とお笑いコンビ・キングコングを結成し、デビュー直後から人気を博す。その後、童話絵本作家や実業家としても才能を発揮し、現在は株式会社CHIMNEY TOWNをけん引。2020年公開のアニメーション『映画 えんとつ町のプペル』では製作総指揮・原作・脚本を務め、興行収入27億円のヒットを記録した。近年は米ニューヨーク・ブロードウェイなど海外にも活動の拠点を広げている。
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