旅行中に美容手術の外国人客、診察後に未払い逃走 あきれた言い分に医師戸惑い「無料の医療は存在しない」

日本語が話せない外国人旅行客が、美容医療・一般皮膚科のクリニックを予約して訪ねてきた。翻訳機を使いながら苦労した診察。本人の希望は「顔のほくろ除去」だったが、医師は冷静な判断を行った。皮膚がんの強い疑いがあったのだ。しかし、衝撃の展開となる。手術などの見積もり金額を提示したところ、外国人客が「逃走した」というのだ。「財布を忘れた」と言ってクリニックを後にしてから戻ってこなかったため、警察に連絡した。「診察料の請求が妥当だと判断しました。無料の医療は存在しません」。SNS上で物議を醸した騒動について、当事者の医師が詳細を明かした。

外国人客によるクリニックでの支払いトラブルが発生(写真はイメージ)【写真:写真AC】
外国人客によるクリニックでの支払いトラブルが発生(写真はイメージ)【写真:写真AC】

美容医療・一般皮膚科クリニック 本人は「顔のほくろ」と主張

 日本語が話せない外国人旅行客が、美容医療・一般皮膚科のクリニックを予約して訪ねてきた。翻訳機を使いながら苦労した診察。本人の希望は「顔のほくろ除去」だったが、医師は冷静な判断を行った。皮膚がんの強い疑いがあったのだ。しかし、衝撃の展開となる。手術などの見積もり金額を提示したところ、外国人客が「逃走した」というのだ。「財布を忘れた」と言ってクリニックを後にしてから戻ってこなかったため、警察に連絡した。「診察料の請求が妥当だと判断しました。無料の医療は存在しません」。SNS上で物議を醸した騒動について、当事者の医師が詳細を明かした。

 トラブルに見舞われたのは、あいちビューティークリニック(栄本院・安城院)の横山侑祐医師。「皮膚科専門医・医学博士を取得後、美容外科に転身しその後開業、現在に至ります。キャリアを生かして、美容外科・美容皮膚科と並行しながら一般皮膚科もしっかりと診療し、体表(体の表面)を総合的に理論的に美しくする医療を提供しています」と説明する。

 来院した外国人旅行客は壮年男性で、態度は特に問題なかったが、日本語が全く理解できなかった。そのため翻訳機を使い、診療は40分程度の時間をかけた。「ゆっくりと丁寧に治療の必要性やコスト、その他日本で治療を受けるメリット・デメリットに関してお伝えしました」。

 患部は、顔面にある皮膚腫瘍だった。「当初は美容診療の予約で『数年前からあるものだからほくろだ』という本人の主張でした。それとは裏腹に、実際にお会いして診察すると、一部潰瘍化が確認されました」。特殊な拡大鏡を用いるダーモスコピー検査を実施したところ、「樹枝状血管」という特徴的な血管の形が確認された。「臨床所見などの結果、(皮膚がんの一種である)『基底細胞がん』を強く疑いました」。なんと、がんの可能性が判明したのだ。

 旅行中にわざわざ受診した理由は分からない。だが、手術を要するものだったため、横山医師は丁寧に説明を加えていった。

「まず切除が必要な旨を伝えました。また現段階では『がん疑い』ですが、恐らく90%の確率でがんだと思われるので、切除を強く勧めました。切除後の再建も含め医療費の話として、『10数万になる』ことをお伝えしたところ、『自国で受けるのと大差ない』と言われました」。旅行中であるため帰国後自国で行うことを強く勧めたが、本人は日本で行いたいという強い希望を示した。そこで、横山医師がそのまま執刀を担当することで話がまとまった。

 見積もりは「美容診療としてではなく、日本で当該治療を保険診療として受ける場合の保険点数をもとに、10割計算で出しました」。診察後の会計時に受付で、12万円超の金額を提示した。

 ここから外国人客は不可解な行動に出る。

「その金額を明細書として提示した後、『財布をホテルに忘れたので取りにいってくる。5分で戻る』と言われました」。だが、なかなか戻ってこず、電話をしてもつながらない。さらに、普段はクリニックで預かるはずの身分証がなくなっていた。「当院では本人確認のためパスポートのコピーをいただき、会計が済むまで原本はカウンターの中に預かっていますが、当日は土曜であったこともあり、多忙で受付スタッフが一時的にカウンター内にいない瞬間がありました。恐らくその時に身を乗り出すなどして原本を持っていったのか、原本がなくなっていることに気付きました」

 夕方のオペの対応ができるリミットの時間になっても戻ってこない。このため「『逃走した』と判断し警察へ連絡しました」という。

警察官からは「現在の状態であれば被害届は受理されない」

 警察はパスポートのコピーと問診票から、外国人客の滞在ホテルを割り出した。横山医師は警察に呼ばれ、ホテルに向かった。そこで、“壁”にぶち当たった。

「対応に当たった2人の警察官から、現在の状態として『支払う意思があっての逃走なので、ホテルフロントで待機し、本人の帰りを待つまで何もできない』『現在の状態であれば被害届は受理されない』と言われました」

 被害届を出したいという旨を伝えたが、これ以上の警察側の対応は難しいと言われ、結局横山医師は帰宅することになった。

 その後、外国人客側と連絡が取れ、「お金は回収できました」という。警察官立ち合いの下、外国人客から直接現金を受け取った。金額については、改めて見積りを計算。切除の手術は行っていないため、「通常の『美容診療』としての診察料の請求が妥当だろうと判断しました。当院の診察料は10分無料で、その後10分ごとに一定の金額が加算されていきます。もろもろ考えました」。再計算した4000円を請求し、支払ってもらったとのことだ。

 一方で、腑に落ちないのが、外国人客が「無料だと思った」と弁解したことだ。「他国の文化や習慣・ルールを理解しない自己中心的な性格に思えます。それに、『財布を忘れる』ということは、何らかの商売をする店舗に来店する際に到底あり得ない行為だと思います。結局、ちゃんとした謝罪はありませんでした。『日本人は甘いから許される』と思っているのかもしれません」と苦々しい胸中を明かす。

 一連の出来事について、Xアカウント(@asc_yokoyama)について報告。「日本は海外の地域によっては、現在かなりお安く旅行できる先になってるかもしれませんが、さすがに無料の医療は存在しません。お願いですから旅の恥はかき捨てとは言わずに、ちゃんとルールを守りましょう。せっかくのご旅行ですから、良い思い出だけ持ってお帰りくださいませ」などと訴えた。

 投稿は大きな反響を呼び、「『無料だと思った』は悪意のある言い訳です」「問答無用でアウトですね」「『無料だと思った』って…ありえない。専門医の時間と知識を何だと思ってるんだろう」「大損害ですね」「性善説はドブに捨てろ案件」「マジでひどいわ! 先生の対応ガチで神すぎるぜ」「この手間暇と煩わしさは本当に大変でしたね」など、驚きに加え、クリニックに戻ってこなかった言動に対する批判の声が上がった。

 医師が患者の患部を実際に見てチェックする「視診」が大事になるという皮膚科の診察。「他科と比べ、皮膚科医は視診で多くの疾患を鑑別します。普段でも親族や知り合いに『ちょっと見て!』と相談されることが多いですが、これは例えば試食のないお店で『ちょっと試食させてよ!』と言っているようなものです。プロや一般の社会において自分以外の何かしらのプロに、プロとしての仕事を求めるなら対価が当たり前……なわけですが、『見るだけで済む』という視診は非常に軽く扱われがちです」と、本音を打ち明ける。

 警察に出すことのできなかった被害届。「今でも出したい気持ちがありますし、何度も警察に届けを出したい旨を伝えています。しかしこのように、『支払う意思がある逃走』は、逃走とは言い切れないようで、被害届の受理はできないとのことでした」。いまだに釈然としない部分もあるという。

「たった4000円の回収ですが最大限の対応」

 困惑を極めた今回の出来事を通して、「まず我々の落ち度として、カウンターの身を乗り出せば手が届く位置にパスポートの原本を置いていたことが問題でした。想定外の事態とはいえ、個人情報の取り扱いにより一層気を付ける必要があると思いました。すべてを防止することは正直なかなか難しいですが、一つは『信用しすぎないこと』かと思います。あとは何かあった時に『ただでは許さないこと』です」。いくつかの教訓を得た。

 SNSの拡散を巡っても、考えさせられることがあった。

「近年SNSの発展によって、口コミというか、裏技の意味でハックという考え方が共有されやすくなっていると思います。軽犯罪を『ハック』として共有してしまう事例も見かけます。『ツーリストだから』と細かいことを大目にみることは、優しさでもおもてなしでもなく、『二次被害への手助け』をしているのかもしれません。そう思いました。

 今回どなたかの口コミ・紹介? という形で当院に来られたと聞きました。SNSを通してよい話も逆に悪い話も共有されがちです。もしかしたら、本人に都合のいいように解釈され、あることないこと含めて、我々サイドが逆に『取り立て屋』のような印象で書かれているかもしれません。長期的な経営としては毅然(きぜん)とした態度で臨んでいくべきだと思っていますし、それが正義であると信じたいです。本当に難しい判断だとは思います」

 SNS反響に心痛める内容もあったといい、横山医師は「今回の投稿に多くの方が同情してくださったわけですが、一部リプで『被害届を出さない、お前も共犯者だ!』と心ない投稿も見かけられました。被害届については、意思はありましたが受理されなかったのが事実ですし、SNSにおいてすべてを語るのは難しいです。そして今回被害届を出せたとして、本人の逆上を買うリスクもゼロではありません。一般の店舗と違い、私の場合は本名も、顔も、どこにどの時間勤務しているかも明示されています。逆襲しようと思えば簡単にできてしまう、そんな環境にいます。その中で、総合的に考え、たった4000円の回収ですが、私にとっては価値のある、そして最大限の対応だったと思っています」と話している。

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