岩手・北上市の温泉旅館「瀬美温泉」で17日に発見された身元不明の遺体が、従業員の笹崎勝巳さんと判明した。60歳だった。死因は出血性ショックで、クマに襲われたとみられる。笹崎さんは全日本女子プロレスやゼロワンでレフェリーを務め、選手やプロレスファンから親しまれる存在だった。幼い娘2人を残した痛ましい出来事に20年来の“盟友”高岩竜一は悲痛な胸中を明かした。

【特集】薄毛治療が新時代突入!?　オーダーメイド治療が持つ可能性

「いまだに信じられないです。信じられないし、あんまり言いたくないですけど、こんな人生かよって。これで終わっちゃうのって。僕がそのクマをおので首切ってやりたいですよ」

　ゼロワンからの付き合いは20年以上。思い出は数えきれない。

　2018年に道場と事務所が川崎に移転。高岩は2年ほど寮に住んでいた。当時、笹崎さんは運営会社の社長で毎日のように顔を合わせた。

「僕、笹崎さんとずっと仲いいんですけど、僕が勝手にちゃんこ番をやってたんですよ。笹崎さんは事務の仕事で来るじゃないですか。昼ぐらいに来て、『高岩さん、今日のちゃんこ何ですか？』っていつも聞いてくるんですよ。それがうれしくてね。『今日はみそです』『カレーちゃんこです』とか言っていたのが懐かしいですね。若い子はそれが当たり前になっちゃってる。笹崎さんは『おいしい』と言ってくれて、作ったかいがありました」

　穏やかな性格で、「実直で真面目」と誰からも好かれる存在だった。

「物腰柔らかくて、ほぼしゃべらないですよね。お酒を飲むのはいいんですけど、ビール飲んで3杯目くらいで顔が真っ赤になる。それで知らないうちに寝てる。怒鳴ることもなかった。怒ったところ見たことなかったですね」

　寡黙でも、静かな優しさを持つ人だった。「冗談を言っても、フフッしか笑わないんですよ。だからこそちゃんこを聞いてくれるのはうれしかった」と無念さをにじませた。

　50代になって結婚し、2人の娘をもうけた。プロレス会場に子どもを連れてきたこともある。

「結婚してなくて子どもがいない時にも笹崎さんってパパのようなイメージがあった。なんでも受け止める人だったので。実際お父さんになって、これが本来の姿かみたいな感じでした。やっぱり歳いってからの子どもなのでかわいいと思いますよ」

　絵に描いたような幸せな家庭だった。

　昨年3月の自身のブログでは、5歳の長女の保護者会を報告し、「最後に娘が手作りしたメダルをかけてもらった時は、かなりグッと来てやばかったです。こんなに感激するとは、意外でした。娘に誇れるよう、お仕事頑張りますよ」と記していた。プロレス界を離れ、北上市に移り住んだのも、家族のためを考えての決断だった。当初は単身赴任のつもりだった。

　笹崎さんは16日から行方不明になっていた。現場の状況などから露天風呂を清掃中にクマに襲われ、連れ去られたとみられる。遺体の近くにいたクマは駆除され、北上市危機対策本部はツキノワグマと発表。大きさは150センチほどで、オスの成獣だった。

　高岩は旅館のオーナーが共通の知人で、露天風呂にも入ったことがあった。被害者が笹崎さんと知り、はかり知れない衝撃を受けた。

「ニュースを見てて、クマ出現ってよくあるじゃないですか。瀬美温泉って出てきて、これってと思ったらすぐ笹崎さんの名前が出てきて」

　冬になれば、再び温泉を訪れ、今度は笹崎さんと酒を酌み交わす予定だった。

「温泉のオーナーが笹崎さんいるから遊びに来てよって言うからそのうち行こうと思っていた。冬は雪がすごいらしい。雪かきが主な仕事らしいんですよ。雪が降ったら手伝いに行こうと思っていた。そしたらこんなことになっちゃって……」

　笹崎さんの訃報には、高岩と同期の大谷晋二郎も「笹崎さん…何事にもNOを言わず挑戦し一所懸命に頑張る人　そして絶対に誰のことも悪く言わない人だった　今は悲しくて悔しくてたまりません　心からご冥福をお祈りいたします」とXに投稿。

　やり場のない怒り、悲しみがプロレス界に広がっている。