斎藤元彦氏、第三者委「認定」パワハラを選挙中に否定…問われる正当性 記者に指摘された知事再選の“崩れた前提”

斎藤元彦兵庫県知事を巡る問題は出口が見えない。斎藤知事は今月10日、元西播磨県民局長(故人)の私的情報漏洩に関して刑事告発され、20日には昨年の県知事選をめぐる公選法違反の疑いでPR会社社長とともに書類送検された。そうした中で開かれた25日の知事定例会見。元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士は、「ここで民主主義の根幹に関わる質問がされた」と指摘した。

西脇亨輔弁護士
西脇亨輔弁護士

元テレ朝法務部長の西脇亨輔弁護士が指摘

 斎藤元彦兵庫県知事を巡る問題は出口が見えない。斎藤知事は今月10日、元西播磨県民局長(故人)の私的情報漏洩に関して刑事告発され、20日には昨年の県知事選をめぐる公選法違反の疑いでPR会社社長とともに書類送検された。そうした中で開かれた25日の知事定例会見。元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士は、「ここで民主主義の根幹に関わる質問がされた」と指摘した。

 それは斎藤知事問題の核心に触れる質問だった。質問者はNHK記者で、次の問いから始まる。

「前回の選挙中に街頭演説の中でハラスメントの問題について『特定の職員を徹底的に追い詰めることはしていない』『20メートル歩かされただけで怒鳴るわけないですから』といった発言をされてますけど、その認識は持たれてますか」

 斎藤知事が「兵庫県立考古博物館を訪問した際に車止めから入り口まで約20メートル歩かされて激怒した」というパワハラ疑惑について、昨年の知事選で弁明した演説に関する問いだった。これに対して斎藤知事が発言を認めると、記者は、この件は第三者調査委員会(以下、第三者委)によってパワハラ認定されたと指摘。斎藤知事が選挙期間中にパワハラを否定し続けたことについて、こう問い掛けたのだ。

「それを信じて投票された方、『知事はそういった行動をやっていない』という思いのもと投票された方もいらっしゃると思います。それで信任を得られたという部分もあると思うんですけども、結果として再選した後、第三者委員会でパワハラについて認められたところで、その前提は崩れたとお考えではないですか」

「前提は崩れた」。それは重い問いだ。斎藤知事は知事選でパワハラを否定し続けたが、知事選後、第三者委はパワハラと認定した。では、選挙期間中に有権者が斎藤知事から聞かされた言葉は何だったのか。この問いに斎藤知事はこう答えた。

「まっ、ですから、私は当時自分が主張すべきこと、自分が考えてることを申し上げたということです」

 しかし、あの選挙で「真実ではない主張」を有権者が信じて投票したのだとしたら、その判断は今も正当なものと言えるのか。斎藤知事は昨年の知事選で次のように演説していた。

「20メートル歩かされただけで怒鳴るわけないですから(聴衆拍手)。やっぱり、ちゃんと導線を確保してくれてないというところが、注意したというところなんです。確かに注意の仕方が厳しかったり、そういったところは反省しなきゃいけないですけど、あくまでいい仕事を県職員も、もっともっとやってもらわないと。やっぱり、県民の皆さんの税金で皆やってるんですから」

 斎藤知事は選挙戦で「注意の仕方は反省するが、注意の内容は正しかった」と主張し、聴衆はこれに拍手を送った。だが、第三者委がパワハラと認定した理由は「注意の仕方」だけではなく、「注意の内容」の理不尽さにあった。

 斎藤知事が歩いた場所は「車両通行禁止」の歩行者専用通路。車から降りて歩いてもらうことは当たり前で「導線の確保の誤り」ではなく、斎藤知事の叱責は「的外れ」だったのだ。この点について、斎藤知事は第三者委に「当時は車両通行禁止とは知らされていなかったので、不適切と考えた判断は誤っていない」と反論したが、第三者委は「注意・指導が必要かは事情を聞いて初めて判断しうるものである」とし、現場の状況を確認せずにいきなり叱責した斎藤知事の「注意の内容」そのものをパワハラと断じた。

 しかも、問題の場所が「車両通行禁止」だったという報道は、昨年8月には既になされていた。同11月の知事選の時点では「約20メートル歩かされた際の斎藤知事の叱責は、導線の確保への指摘という意味でも、だだの間違い」と明らかになっていたはずだ。それにもかかわらず、斎藤氏は選挙演説で「ちゃんと導線を確保してくれてないというところが、注意したというところ」と自分の叱責は正しいと述べ続け、これに喝采する人々がいて、そのまま投票日となったのだ。

 日本国憲法が「知る権利」を保障しているのは、国民の正しい意思決定のためには真実の情報が必要だからだ。一方「真実ではない情報」の流布は、国民を「真実を知る権利」から遠ざけ、誤った判断に導く。「真実ではない情報」に基づく有権者の意思決定や信任は、その前提が崩れている。

 SNSでの真偽不明情報が問題となり、「虚偽の情報による民意」が政治を左右する恐れも指摘される中、斎藤知事会見で出された問いは、民主主義の「前提が崩れる」危機に警鐘を鳴らすものだと私は思う。

□西脇亨輔(にしわき・きょうすけ)1970年10月5日、千葉・八千代市生まれ。東京大法学部在学中の92年に司法試験合格。司法修習を終えた後、95年4月にアナウンサーとしてテレビ朝日に入社。『ニュースステーション』『やじうまワイド』『ワイド!スクランブル』などの番組を担当した後、2007年に法務部へ異動。社内問題解決に加え社外の刑事事件も担当し、強制わいせつ罪、覚せい剤取締法違反などの事件で被告を無罪に導いた。23年3月、国際政治学者の三浦瑠麗氏を提訴した名誉毀損裁判で勝訴確定。同6月、『孤闘 三浦瑠麗裁判1345日』(幻冬舎刊)を上梓。同7月、法務部長に昇進するも「木原事件」の取材を進めることも踏まえ、同11月にテレビ朝日を自主退職。同月、西脇亨輔法律事務所を設立。昨年4月末には、YouTube「西脇亨輔チャンネル」を開設した。

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