格闘家・中田大貴が異例のムスリム改宗 大好きな二郎系ラーメン諦め、美人妻と喧嘩も…目に見える変化実感

昨年7月、格闘技イベント「RIZIN」に出場経験のある格闘家・中田大貴(28)が“ムスリム”となったことをSNSで発表した。日本人アスリートでは異例中の異例だ。きっかけは外国人妻との結婚。現在、どんな生活を送っているのか。話を聞いた。

昨年7月にムスリムとなった中田大貴【写真:提供写真】
昨年7月にムスリムとなった中田大貴【写真:提供写真】

28日から初の“断食”

 昨年7月、格闘技イベント「RIZIN」に出場経験のある格闘家・中田大貴(28)が“ムスリム”となったことをSNSで発表した。日本人アスリートでは異例中の異例だ。きっかけは外国人妻との結婚。現在、どんな生活を送っているのか。話を聞いた。(取材・文=島田将斗)

 日本ではあまりなじみのないイスラム教は世界三大宗教のひとつで、コーランの教えを基にした戒律が厳しいことでも知られている。メッカに向かっての1日5回の礼拝やラマダンの断食、豚肉を口にしてはいけないなどのルールがあり、日本で生活する上では制限も多い。格闘家としても苦労は絶えないだろうが、なぜムスリムになったのか。きっかけは妻との出会いだった。

「妻はスウェーデンの移民3世の方なんです。2年前ぐらいに出会って付き合っていくうちにムスリムだと知らされて。“私を知ってほしいからイスラム教のこと勉強してほしい”と言われて。付き合い始めてから勉強しました。僕自身は特定の宗教を信仰しているわけではなかったんですけど、宗教には興味がありました。神社が好きだったり、ヒマラヤに行ってヒンドゥー教の勉強をしたりとか」

 20代前半にはイスラム過激派組織に日本人が拘束されるニュースなども見てきた。そのため、当初は「イスラム=怖い」というイメージがあった。「僕がイスラムに持っていたイメージってテロとか危ないものでした」と明かす。それでも勉強をしてコーランを読み、YouTubeでイスラムの解説動画を見る生活を送ると、それが一気にひっくり返った。

「厳しいルールが多いんですけど、貧しい人の気持ちを理解しましょうって部分が多いように思います。断食も全員が貧しい人の気持ちを一律に理解するためにやっているそうです。中東の人って同じような白い服を身にまとっているじゃないですか。あれも貧富の差を分かりにくくしているとか。貧しい人の感情を理解しようって気道が他の宗教よりも強いのかなと思います。人の気持ちを理解して自分が何者なのかを考えて実際に行動する宗教なのかなと」

改宗のきっかけは外国人妻との結婚【写真:提供写真】
改宗のきっかけは外国人妻との結婚【写真:提供写真】

練習やメンタルが上向きに

 結婚を機に正式にムスリムに。妻の支えを受けながらイスラムを学んでいる。「イスラム教って実践しなきゃいけない宗教だと思うんです」と得意げに語ったのは“五行”と呼ばれる義務だ。信仰告白、礼拝、喜捨、巡礼、断食があり、信者はこれを守らなければならない。

「まぁ最初は厳しいですよね。お酒飲めないのもあるけど、やっぱり豚肉食べられないじゃないですか。僕、ラーメンめっちゃ大好きで……。二郎系とか餃子とか豚カツとか大好きだったんですけど諦めました(笑)。そこを納得させるのが一番きつかったですね。最初は『面倒くさい』『つらい』って思ってたんですけど、もう受け入れですよね。嫁のためっていうのもありますけど、自分が決めたことなので」

 イスラム法上では食べていい食事や料理は決まっている。アルコールを摂取してはいけない、豚肉を食べてはいけないほか、厳密には調理においても独自の作法がある。「ハラール」と呼ばれ、日本でもこの認証を受けた店が徐々に増えてきている。

「ハラールのお店ってまだ日本に少ない。本当は毎回調べて行った方がいいんですけど、そこまでなかなかできない。だから選ぶのが難しいです。本当はあまり良くないし、推奨されてない。例えば僕の嫁のご両親はハラールのものしか食べなかったり、それ以外だったら魚とか野菜を食べたりが多いです」

「知らなくて食べてしまうことはまだあります」と苦笑い。「グミとかもゼラチン(豚由来の場合)を使ってるのでダメ。食べに行ったときに『豚入ってますか?』とか毎回確認するのもレストランのスタッフの方にも迷惑だなって思ったりはしています」と腕を組んだ。

 間違えて食べてしまうことがきっかけで夫婦間の口論に発展することもあるという。

「この間、モスバーガーのハンバーガーを頼んで食べていたんですよ。そうしたら嫁がいきなり怒り始めて。それがなぜかって言ったらモスって合いびき肉で豚肉を使ってるらしいんです。途中まで食べてたんですけど、嫁は“捨てろ”と。日本人の感覚的には食べ物を粗末にする方がもったいない。そこで文化的な違いを感じましたね」

 一方で良い影響もある。取材日の中田はきめの細かい綺麗な肌をしていて見るからに体調が良さそうだった。

「もちろん良いと思います。お酒を飲んだ次の日とかってダメージがあったりするので。イスラム教徒の選手が強いのはお酒飲んだり遊んだりしないからかなと思います。本当に練習して、お祈りしての繰り返しなので。他にも強欲に思われてもいいから口に出してお願いをするんですよ。ドゥアーって言うんですけど。自分がなりたいイメージを口に出して引き寄せるみたいな意思の強さもイスラム教徒の強さだと思いますね」

 昨年11月には実際にムスリムになって初めての試合があった。石田陸也と対戦し1R・TKO勝ち。明らかに調子が良かったと振り返る。

「試合前にお祈りをいつも以上にやりました。僕がお祈りの作法がまだ覚えられていないので、嫁のやる流れに沿って一緒に口に出しながら祈りましたね。練習もしてメンタル面でも欲しいものを明確にイメージしてやってるからコンディションは良かったですね」

ムスリム格闘家たちと米国でトレーニングを行った中田大貴(右端)【写真:提供写真】
ムスリム格闘家たちと米国でトレーニングを行った中田大貴(右端)【写真:提供写真】

ラマダンへの不安「練習が激しい、代謝もいいので水分が抜ける」

 ハラールの他にも苦戦していることがある。五行のひとつである礼拝だ。1度の礼拝に15分ほどかかるというが、本来は1日5回メッカへ向かって行う。昼間働き、夜は練習のスケジュールではなかなか実践できるものではない。「日本で暮らしているとスケジュール的にも難しくて」と苦笑い。自分を責める気持ちになるが妻の父からは一歩ずつでいいと言われている。

「5回のお祈りができていないのは、自分の弱い部分で成長しなきゃいけないんです。でも僕の嫁のお父さんからは“少しずつでいい”と言ってもらっています。“イスラム教を学ぶ道のりっていうのは一生かかるものだから”と。だから僕も少しずつできたらいいなと思っていますね」

 2月28日からはラマダンが始まる。格闘家でありながら初めて経験する断食への不安は大きい。

「めちゃくちゃ不安です。練習が激しいじゃないですか。僕、代謝もいいので水分がめっちゃ抜けるんですよ。結婚式はスウェーデンでやったんですけど、そのときにムスリムの格闘家と交流もあって。『ラマダンのときどうしてるの?』って聞いたら“逆に集中できる”って言ってて(笑)。それはあなたたち生まれたときからやってるからそうでしょうと。だからラマダンも自分自身としてはチャレンジですね。

 嫁が去年やっているのを見てしんどそうだなと。その期間って特にお祈りもたくさんしないといけないんです。夜中でもアラームをセットして起きてお祈りして、その間に食べ貯め、飲み貯めしておいて、あとは一日厳粛に過ごすみたいな感じでした」

 さらに「ヌルマゴメドフっているじゃないですか。あの人はラマダンの期間は格闘家じゃなく、イスラム教徒の時間にしてるから試合もしないって言うんですよ。格闘家ってムスリムが意外と多いじゃないですか。自分に対して規律を作るっていうのは他の宗教に比べると多い。制限も多いんですけど、規則正しくなるから格闘家と相性はいいのかなと自分は思います」と分析した。

中田大貴(左)は国際問題にも視野を向けている【写真:提供写真】
中田大貴(左)は国際問題にも視野を向けている【写真:提供写真】

土葬墓地問題も身近に「僕は日本人なので」

 現在、日本ではムスリムの土葬墓地問題が起きている。日本では火葬が当たり前だが、イスラム教では火葬が禁じられている。ムスリムらが土葬できる場所が少なくなっている現状がある。

「僕は日本人なので、『日本のルールに従ってほしい』という気持ちと、『困っているなら土葬させてあげてほしい』という気持ちが半々あります。妻はこの問題を“ひどい”と言っています。自分としてはムスリム仲間が増えてほしい。でも一気に受け入れて好き勝手やらせるのはどうなんだろうかと思いますね」

 さらにこう続けた。

「もっと大きい話をすると今後日本でも移民が増えていくことは間違いない。少子高齢化で労働力がないと国が成り立たない状態になるので。日本の良さって『和を以て貴しと為す』。日本のルーツっていろんな民族が東の果てに着てみんなで輪を作って暮らしていきましょうっていう説もある。だからそういう気持ちが現代によみがえってくれればいいのかなって。今後いろんな人が増えても『和』を作るように動けたら今度は逆に日本が世界を引っ張っていけるようになるのかなと思います」

「一生積み重ねていかないといけない道に来れてありがたい」。ムスリムになったことで世界への視野が広がった。初めてのラマダンを乗り越えた先に何を思うのか。アスリートとして珍しい選択をした中田のこれからが楽しみだ。

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