喫煙者との共存は「やり方次第」 公園禁煙化に動く川崎市、全面ではなく“一部分煙”にする理由
4月1日から横浜市にある約2700か所の公園が「全面禁煙」になることが話題となっているが、隣接する川崎市でも現在、同様のルール作りに向けて議論が進められている。ただし、掲げているのは一部の公園に喫煙可能スペースを設置する「原則禁煙」。その考えに至った背景や、7月の施行に向けた現在の状況などについて、川崎市の担当者に話を訊いた。

公園内「原則禁煙」で7月施行へ、当初の想定とやや異なった利用者の声
4月1日から横浜市にある約2700か所の公園が「全面禁煙」になることが話題となっているが、隣接する川崎市でも現在、同様のルール作りに向けて議論が進められている。ただし、掲げているのは一部の公園に喫煙可能スペースを設置する「原則禁煙」。その考えに至った背景や、7月の施行に向けた現在の状況などについて、川崎市の担当者に話を訊いた。(取材・文=藤井雅彦)
受動喫煙に対する課題意識が高まっている昨今、川崎市は市内にある約1200か所の公園を原則禁煙とすべく、都市公園条例改正へ向けて動き出している。
きっかけは『市長への手紙』だった。
「公園内の喫煙問題は以前から声が挙がっていましたが、マナーに訴えかけるといった程度で二の足を踏んでいるのが実状でした。川崎市には『市長への手紙』という意見箱のようなシステムがあり、そこへ寄せられた市民の声を受け止めて本格的な議論がスタートした流れです」
そう明かして取材に応じてくれたのは、川崎市建設緑政局緑政部みどりの管理課の課長補佐、長谷山大介さんだ。
隣接する自治体の動きも少なからず影響を与えた。川崎市の隣には人口370万人を超える横浜市があり、今年4月から市内にある約2700か所の公園が全面禁煙となる。
「横浜市さんが全面禁煙になることを聞いていましたし、まったく意識していなかったことはありません。ただし、横浜市と川崎市では面積も人口も公園の数も、すべてにおいて規模が違うので一概には比べられません。そのあたりを見極めながらの出発でした」
公園利用者が増加する春休みの時期となる2024年3月1日から4月30日までに、等々力緑地や大師公園など市内6か所の公園で全面禁煙を施行すると同時に利用者アンケートを実施。すると当初の想定とは、やや異なった声が聞こえてきた。
「日本人の喫煙者は6人に1人というデータを聞いておりましたし、世の中は禁煙を望む声が圧倒的に多いのでは、という予想でした。全体の7~8割は全面禁煙を求める声かなと思っていたら擁護派も一定数いて、タバコを吸っていない方でも分煙を許容する声が思いのほか多かったんです」
アンケートによると全体の54%が禁煙を望む多数派だったものの、34%は分煙を支持する声だった。家族のなかに喫煙者がいること、あるいはマナーさえ守ってくれれば、といった意見を集約し、川崎市は原則禁煙の方向性を打ち出した。
「非喫煙者と喫煙者の両方を大切にするのが川崎市のスタンス。本市では『多様性』という表現を様々な場面で使っていますけれど、喫煙者を追い出すだけではない。やり方次第だと思っています。受動喫煙の防止と公園の美観を維持するという根本的な部分をクリアできるならば、全面禁煙にしなくてもいいという考えに至りました。市外から遊びに来るような公園である富士見公園、等々力緑地、生田緑地という市内3大公園など、散歩ではなく遊びを目的に来る公園は面積も大きいので、しっかりと導線を区切れば受動喫煙を防止できる。長時間滞在する公園でもあるので、喫煙可能スペースはあったほうがいいと。常駐管理者がいる公園であれば指導もできますし、美観の維持もできる。そうした様々な点を踏まえながら、市内18か所の公園では喫煙可能スペースを設ける流れになりました」
喫煙可能スペース設置は18公園が対象、今後増える可能性も
今後は18か所の公園に常駐する管理者と協議を進めて、「喫煙可能スペース」を設置する公園が決まる。現時点では18か所の公園が対象だが、もともと喫煙の実態がなければ設置しない場合もあり、一方で将来的には対象となる公園数が「18」より増える可能性もある。
「未来永劫、18公園のままとは限りません。再開発が始まっている地区もありますし、市内に大きな公園が生まれて管理者がいれば喫煙可能スペースを設けることも視野に入ってくる。(非喫煙者と喫煙者の)共存が図れるような公園があれば、柔軟に考えていきたい。とはいえ原則禁煙なので、喫煙者の方にはご理解いただかなければいけないと思います」
喫煙可能スペースの構造はパーテーションなのか、あるいはコーンなどで区切る簡易的なものなども含めて検討中。「公園だからこそ植樹帯のようなものでも」といった案もある。
今月に都市公園条例改正の議案の提案を目指しており、可決されれば7月から条例施行となる。違反者には過料が科される場合もあるが、すぐに徴収されるような絶対的なものではなく、まずは喫煙者への指導と周知徹底が主な目的となる。この周知が十分に図られてから罰則を適用する方針としており、その適用は2026年4月からとのこと。まずは、公園ごとに状況を見極めながら巡回員によるパトロールの頻度を上げ、注意喚起を促していく。
非喫煙者が望まない受動喫煙を公園内からなくしながら、喫煙者の権利も守る。大切なのはどこで折り合いをつけて、着地点を見つけるか。都市公園条例で禁止行為を追加する改正は28年ぶりで、市民から否定的な意見も含めて様々な声が上がってくることは避けられないだろう。
「公園に限った話ではなく、市全体として喫煙所の少なさは課題だと思います。タバコを吸う方にどこで吸ってもらうのか。東京都では会員制の有料喫煙所もありますし、新たなビジネスチャンスと捉えている民間企業さんがいるかもしれない。自治体としても横の連携を強化し、何らかの対策が必要なのかもしれません」
2025年1月時点で人口155万人を超えるなど、近年も増え続けている川崎市。日本屈指の大都市は、まずは公園内での非喫煙者と喫煙者の共存共栄を目指し、その先のフェーズへ進もうとしている。
