『はたらく細胞』監督、実写化難易度は「エベレスト級」 エキストラ7500人、ロケ地探しに3か月「予算もダントツ」
シリーズ累計1000万部を突破した清水茜氏による同名コミックを実写映画化した『はたらく細胞』(12月13日公開)は永野芽郁、佐藤健が赤血球、白血球を演じるエンタメ大作。メガホンを取ったのは映画『のだめカンタービレ』『テルマエ・ロマエ』『翔んで埼玉』シリーズを手掛けたヒットメーカー、武内英樹監督(58)だ。
『のだめカンタービレ』『テルマエ・ロマエ』など手がけた武内英樹監督
シリーズ累計1000万部を突破した清水茜氏による同名コミックを実写映画化した『はたらく細胞』(12月13日公開)は永野芽郁、佐藤健が赤血球、白血球を演じるエンタメ大作。メガホンを取ったのは映画『のだめカンタービレ』『テルマエ・ロマエ』『翔んで埼玉』シリーズを手掛けたヒットメーカー、武内英樹監督(58)だ。(取材・文=平辻哲也)
武内監督はコミックの実写映画化の名手。これまで『のだめカンタービレ 最終楽章』は前編(09年)興収41億円、後編(10年)37億円、『テルマエ・ロマエ』(12年)は59億円、『テルマエ・ロマエ II』(14年)は44億円、『翔んで埼玉』(19年)は37億円の大ヒットになっている。
「これまで制作規模の大きい作品をやってきましたが、『はたらく細胞』はその中でも一番期間も長く、予算もダントツです。ちょっとステージが違いますね。撮影も大掛かりで、アクションもあって、衣装、美術……。大変なことだらけでしたが、自分の作品の中では、一番面白い、一番ためになる映画になったと思っています」と武内監督。
細胞たちを擬人化した『はたらく細胞』は、体内で日々働く赤血球や白血球をはじめとする細胞たちが、体を守るために連携し、さまざまな病原菌と闘う姿が描かれる。
「企画をいただいた時にめちゃくちゃワクワクしました。『テルマエ』も『のだめ』も結構険しい山でしたが、今度はエベレスト級が来たなと思いました。まず、原作の清水茜さんの発想が素晴らしい。人間には37兆個の細胞があるのですが、体の中だから非現実的なことをやっても許される。そのワクワクが大きかったですね。世界中の誰が見ても理解できるし、楽しめると思うんです」
冒頭、体内のシーンは破格のスケール感だ。地中海の町並みを再現した和歌山のテーマパーク「ポルトヨーロッパ」を使って、体内の様子をビジュアル化。総勢約7500人のエキストラを動員し、赤血球、白血球の役割を描いた。これまで群衆シーンは何度も手掛けてきたが、監督にとっては過去最大規模となった。
「場所を気に入っても、いろんな事情でダメになったところもありました。ポルトヨーロッパで動員した約600人のエキストラは地元だけでは足りず、大阪から何十台もバスをチャーターしました。衣装も600人分用意しないといけないし、着替えてもらうだけでも、2、3時間はかかりました」と振り返る。
このほかにもMOA美術館(静岡)、神戸市環境局 事業部苅藻島クリーンセンター(兵庫)、大洗シーサイドステーション(茨城県)、ロイヤルチェスター前橋 アルフォンソ(群馬)などを使ったが、ロケ地探しには約1か月かけて、全国21都市、31か所をめぐったという。
衣装やメークもこだわり抜いた。
「ヒーローショーではなく、アートとして成立させるため細部にこだわりました。肺炎球菌役の片岡愛之助さんは、誰か分からないぐらいメークしていますが、触手の太さ、色は何度もテストさせてもらいましたし、赤血球役の衣装はショートパンツの丈の1、2センチの差、血小板役のブーツの膨らみ方まで何度もテストしました」
映画版では、体内の細胞たちの物語ではなく、外側の人間の父子(阿部サダヲ、芦田愛菜)の絆も見せる。
「原作が体の中だけで勝負しているから、禁じ手ですが、既にアニメシリーズもあるので、映画ならではのアイデアを盛り込みたいと思いました。体内と外を差別化して、お客さんにはっきり認識してもらうために、どうすればいいのかは考えました。外側の世界は病院や家庭に限定して小さい世界にして、逆に体内の世界は逆に思いっきり広くしました」
本作では、アイデアを出し惜しみすることなく、全てをつぎ込んできた。
「毎回、次があると考えていないんです。『テルマエ・ロマエ』も『翔んで埼玉』もパート2があるとは思っていなかったんです。『翔んで埼玉』は下手すれば、埼玉県民の方に刺されるな、と思っていたくらいですから。自分の中では、やりきったという思いもありますが、『はたらく細胞』もヒットすれば、次も作れるとは思います」
特に本作は人のためになるエンタメを作れたという自負もあるのだという。
「小さい子どもに体の中へ興味を持ってもらって、医学に目覚めて、20年後に医者や看護師になったという人が絶対出てくると思っています。これまでも、『のだめ』を見てピアニストになりました、音楽家になりました、という人たちにたくさん出会いました。『今夜、ロマンス劇場で』のようなオリジナル作品をやってみたい思いもあるのですが、うれしいことに、すぐに原作モノのオファーが来てしまうんです。だから、オリジナルをやる時間がありません」。引く手あまたの武内監督の次の一手も気になるところだ。
■武内英樹(たけうち・ひでき)1966年10月9日生まれ。90年にフジテレビ入社。制作部でテレビドラマ『神様、もう少しだけ』『彼女たちの時代』『電車男』『のだめカンタービレ』のほか、『デート~恋とはどんなものかしら~』でザ・テレビジョンドラマアカデミー賞・監督賞を5度受賞するなど数々のヒットテレビドラマに参加。映画監督として、『のだめカンタービレ』シリーズ(09・10)、『テルマエ・ロマエ』シリーズ(12・14)、『今夜、ロマンス劇場で』(18)などを手掛け、大ヒットへと導いた。『翔んで埼玉』(19)では、第43回日本アカデミー賞最優秀監督賞を受賞した。近作に『翔んで埼玉 ~琵琶湖より愛をこめて~』(23)、『もしも徳川家康が総理大臣になったら』(24)がある。