番組で人間ドック受診→がん判明 発症から7年…経過観察中でも麻倉未稀が前向きなワケ

『ヒーロー HOLDING OUT FOR A HERO』のヒット曲で知られる歌手の麻倉未稀が、10月19日、20日に神奈川・横浜市開港記念会館で開催される合唱イベント『Neo☆Stars Power Chorus FES 2024』に参加する。西村知美、大西結花、田中美奈子ら1980年代のアイドルがコーラスサークルを結成。麻倉は観客参加型のイベントで合唱の楽しさを伝える。ENCOUNTでは、2017年に乳がんを発症し、現在も病と向き合いながらパワフルに歌手活動を続ける麻倉を取材。その「元気の源」に迫った。

10月19日、20日に横浜市開港記念会館で合唱イベント『Neo☆Stars Power Chorus FES 2024』を開催【写真:舛元清香】
10月19日、20日に横浜市開港記念会館で合唱イベント『Neo☆Stars Power Chorus FES 2024』を開催【写真:舛元清香】

合唱イベント『Neo☆Stars Power Chorus FES 2024』を10月開催

『ヒーロー HOLDING OUT FOR A HERO』のヒット曲で知られる歌手の麻倉未稀が、10月19日、20日に神奈川・横浜市開港記念会館で開催される合唱イベント『Neo☆Stars Power Chorus FES 2024』に参加する。西村知美、大西結花、田中美奈子ら1980年代のアイドルがコーラスサークルを結成。麻倉は観客参加型のイベントで合唱の楽しさを伝える。ENCOUNTでは、2017年に乳がんを発症し、現在も病と向き合いながらパワフルに歌手活動を続ける麻倉を取材。その「元気の源」に迫った。(取材・文=福嶋剛)

 乳がん発症から7年。元気に見える麻倉だが、「今も経過観察が続いています」と明かした。

「あと3年の間に再発しなければ一応合格はいただけるそうなんです。ただ、乳がんはゆっくり進行するがんなので、11年目で再発する方もいらっしゃって。これからも検査は続いていきます」

 現在64歳。長期に及ぶ治療が続いているが、それをポジティブに捉えていた。

「病気ってすごく嫌ですし、『毎日、向き合わないといけないのは面倒』って思うこともあります。でも、病気をしたからこそ得られたものって、意外と多いんです。がんになって得られたものをよく『キャンサーギフト』って呼ぶんですけど、私もこの7年間、芸能活動だけでは得られなかったことや出会いもたくさんありました」

 麻倉は2017年4月、TBS系情報番組『名医のTHE太鼓判!』で5年ぶりに人間ドックを受診した時にがんが見つかった。

「個人的にも『人間ドックを受けなくちゃいけない』と思っていたんですが、親友や父親の大病で看病が重なり、しばらく受診できなかったんです。そんなタイミングで(番組内で)告知されたので『まさか』という感じですごくショックでした。一方で『番組で見つかったことに意味がある』とも思いました」

 検査の結果、「ステージ2の乳がん」と判明した。

「実はその時点で私の覚悟は決まっていました。というのも、36年お世話になった女性プロデューサーが、末期の肝臓がんで、私が告知を受ける前の年に亡くなりました。彼女は『慣れ親しんだ我が家で最期を迎えたい』と決断しました。とても明るい性格で彼女らしい毎日を過ごしていました。そんなプロデューサーの生きざまを見て、生きる意味や覚悟を決めることを学びました」

 しかし、治療が始まるまでの2か月間はとても不安だったという。

「がんが見つかったのは都内の病院でしたが、神奈川県から毎日通うことを考えると、自宅から近い病院を探すことになりました。覚悟を決めたとはいえ、病院が見つかるまでの数週間は『自分の体はどんなふうになってしまうんだろう』って八方ふさがりな気持ちで、すごく不安でした。でも、幸いなことに姉の知り合いの病院が近くにあることを知り、そこの女性の先生が最初に検査した病院の先生とつながりもあったので、6月には手術、治療が始まりました。先生が手術の前に『3日経ったら歌えるわよ』と言ってくださり、とても安心しました」

 左乳がん全摘出と乳房再建という大変な手術だったが、無事成功した。麻倉に「今まで通りの声が出るか心配はなかったのか」と聞くと、「翌日にはもう声を出していました」と笑って答えた。

「『どこまで声が出るのかしら』と思って、個室だったこともあり、恐る恐る声を出してみるとちゃんと出たんです。前日手術したばかりなので傷口は痛むんですが、『意外と声が出るんだ』って。それで2日目にベッドから起き上がり、小さな声でワンフレーズ歌ってみました。最初に歌ったのはやっぱり『ヒーロー』でした(笑)。すると、ちゃんと声が出て歌えたんです。次に『アメイジンググレイス』を歌いました。小声で歌ったつもりでしたが、廊下中に聴こえていたそうです(笑)。検温にやってきた看護師さんは、わざわざ歌い終わるまで部屋の前で待っていて、私が『ごめんなさいね』って言うと、『いいえ。みなさん楽しみにしてらっしゃるんで、どんどん大声で歌ってください』ですって」

手術後、3週間でステージ復帰も「胸に痛み」

 麻倉は術後わずか3週間でステージに復帰。予定していた庄野真代とのコンサートをやってのけた。驚異的な回復を見せたが、コンディションの違いは明らかだったという。

「以前より体力が落ちましたね。私は左胸の大胸筋の裏側にインプラントを入れる再建手術を行いました。そこから少しずつ胸を膨らましていくためにエキスパンダーを挿入するんですが、そうすると、どうしても肺の付近にある筋肉が圧迫されて、呼吸が苦しくなるんです。特に歌う時は大きく息を吸い込むので、胸に力を入れて呼吸すると息苦しさを感じました。また、ホルモン治療に入った時、ボイストレーナーから『この療法は、どうしても声が下がってしまう。加えて一般的に高音が出なくなる年齢にも差しかかっています』と言われました」

 声のコンディションを確認するため、麻倉はボイストレーナーが選んだ高音域、中音域、低音域の曲を歌ってみた。すると「麻倉さんは全然影響がないです」と太鼓判を押された。

「でも、復帰ライブのリハーサルで歌ってみたら、胸に痛みを感じました。どこに力を入れたら呼吸が楽になるかその場で探ってみると、背中側で呼吸するのが楽だと分かりました。しかし、今まで以上に体力が必要になってくるので、パーソナルトレーニングで筋力を強化しました」

 歌手としてのベストコンディションを保つため、体形も変えた。

「薬を飲み始めてから、関節が痛み始め強張り、具合が悪くなるケースが増えてしまったので、『あらためて歌うための体作りをしっかりやろう』と思い、今も取り組んでいるところです。そのおかげもあって、病気をする前よりも声が出るようになったんです。こういうのを『怪我の功名』って言うんですよね」

 自身の経験が、がん検診の啓発活動へとつながった。発症から1年後の18年に元プリンセスプリンセスの富田京子と「ピンクリボンふじさわ」を立ち上げ、乳がん検診の啓発に取り組んでいる。20年には「NPO法人あいおぷらす」を設立。麻倉は副理事を務め、がんを発症して不安な患者の精神的なサポートを行うなど、地元の神奈川・藤沢市で積極的な活動を行っている。

「がん患者さんにとって心理療法士さんやピアサポーターさんの精神的なケアはとても重要で、私も『手術は成功しますよ』という心理療法士さんの言葉が心の支えになりました。『そんな患者さんの不安な気持ちに耳を傾け、寄り添う場所が家の近くにあったら安心だろうな』と思い、『NPO法人あいおぷらす』を立ち上げました。他にも『一般社団法人 日本専門医機構』の広報委員として活動しています。私の体験から学んだことを多くの人に伝えることで救える命があると感じました」

 麻倉は10月19日、20日に神奈川・横浜市開港記念会館で開催される合唱イベント『Neo☆Stars Power Chorus FES 2024』に参加する。西村知美、大西結花、田中美奈子ら80年代に活躍したアイドルやタレントがコーラスサークルを結成した。

「今年7月に出演した『オールスター合唱バトル』(フジテレビ系)で合唱指導を担当された木島タローさんから今回の合唱イベントをご紹介いただきました。10月は『ピンクリボン運動』の推進月間で、全世界で乳がんの早期発見や早期治療の重要性を伝える重要な期間です。私もNPOの活動とともに『ピンクリボン神奈川』でお手伝いをさせてもらっているので、『ちょうどいいタイミングで合唱ができる』『ピンクリボン活動にもプラスになると』と思いました」

 合唱フェスの初日には、課題曲の『ヒーロー』をイベントの参加者全員で合唱する。

「このイベントでは、お客さん参加型なので、私たち出演者と一緒に合唱ができるんです。まだ経過観察中だけど、元気に生活できている私みたいながん患者のことを『サバイバー』って呼ぶんですが、サバイバーのみなさんにもイベントに参加してもらい、私と一緒に『ヒーロー』を歌って元気を受け取って欲しいです」

「いつか自分が歌いたい曲を集めたアルバムを出せたらいいなと思っています」【写真:舛元清香】
「いつか自分が歌いたい曲を集めたアルバムを出せたらいいなと思っています」【写真:舛元清香】

『ヒーロー』は「私に元気を与えてくれる存在」

『ヒーロー』は、麻倉にとってどんな存在なのだろうか。

「本当にいろんな意味で救われてきた曲です。私は1981年に歌手デビューして、数多くの曲を歌ってきましたが、まさかオリジナルじゃない洋楽のカバー曲が、その後の私を代表する曲になるなんて考えもしませんでした。やっぱり、ドラマ『スクール☆ウォーズ』(TBS系)のおかげだと思います。当時、ドラマを見てラグビーを始めた人も多くて、よく街でも声を掛けられました。先日もある企業に訪問したら重役さんが、『ドラマに影響を受けてラグビーをやっていたのでヒーローが大好きで』って(笑)。あの頃は『ヒーロー』ばかり歌っていたので、『歌手としてこのままでいいのかしら』って迷った時期もありました。でも、乳がんの手術後に最初に歌ったのも『ヒーロー』だったし、大切な場面で私に元気を与えてくれる存在なんです。きっと、みなさんと同じように私にとっても大きな影響を与えてくれた曲が『ヒーロー』なんです」

 麻倉は、歌も病気も「すべてが見えない糸でつながっている」と実感したようだ。

「きっと、がんと出会わなかったら今も歌だけやっていたと思います。また、番組ではなくプライベートでがんが見つかっていたら、これだけ多くの人に公表していなかったかもしれません。そして、再び『ヒーロー』が私に歌える幸せと生きる元気を与えてくれました。これこそがまさに『キャンサーギフト』だと思っています。きっと楽しい合唱イベントになると思います。みなさん、ぜひ、横浜まで遊びにいらしてください」

□麻倉未稀(あさくら・みき) 1960年7月27日、大阪市生まれ。81年、歌手デビュー。83年『黄昏ダンシング』、『ヒーロー HOLDING OUT FOR A HERO』などがヒット。2017年4月、TBS系『名医のTHE太鼓判!』で乳がんと判明。18年に「ピンクリボンふじさわ」、20年に「NPO法人あいおぷらす」を設立。歌手活動を続けながら、地元の神奈川・藤沢市でがん検診の啓発活動に力を入れている。

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