シンガー・ソングライターの矢井田 瞳が、俳優の菅野美穂が主演するテレビ朝日系の連続ドラマ『ゆりあ先生の赤い糸』（木曜午後9時）に主題歌『アイノロイ』を書き下ろした。12年ぶりのドラマ主題歌について、矢井田に聞いた。（取材・文＝西村綾乃）

　ドラマは「第27回手塚治虫文化賞」で頂点となる「マンガ大賞」を受賞した入江喜和氏による同名漫画が原作。主婦・伊沢ゆりあ（菅野）が、倒れた夫の介護、愛人との同居、嫁姑問題を痛快に乗り越える姿を描く。

「ドラマの主題歌ということで、最初は原作を読むところからスタートしました。強さと弱さ、揺れ動く心。安定と混沌（こんとん）など相反するものが混在することを感じ、それを膨らませていきました」

　一見、真逆に位置していそうな“愛”と“呪い”だが、思いが行き過ぎると嫉妬など、恨みに似た感情を抱くのが人間だ。新曲には両極の間で揺れる心情も描かれている。

「ゆりあ先生のような壮絶な体験はしていないけれど、思春期のときにはジェットコースターのように揺れ動く感情を持っていました。『愛と思って一緒にいるけれど本当はどうなんだろう。同情なのかも。慰めてほしいだけなのかも…』って。昔の私なら、“呪い”なんて言う言葉は使わなかったけど、40歳を過ぎたいまは愛と呪いが背中合わせで、つながっていることを感じます。歌詞には混在した毎日を、前向きに生き抜いてほしいという思いを込めました」

　大学在学中の2000年にメジャーデビューし、同年に発売したシングル『My Sweet Darlin’』が大ヒット。07年に結婚し、現在は母としての顔も持つ。

「デビューした20代前半は、社会に対してモヤモヤする気持ちをどう表現しようとかということに意識がいっていました。でも子どもを産んで母になってからは、長い人生、誰も1人じゃ生きられないということを知りました。全てはつながっていると思えるようになってからは、自分の音楽で誰かが何かを始めたり、気付く1粒になりたいと考えるようになりました」

　コロナ禍を経た23年は全国8か所で、アコースティックツアーを開催。11月にはプラネタリウムツアーを東京（2日）と神戸（10日・11日）で予定している。

「コロナ禍前はライブをすることは当たり前と思っていたけれど、緊急事態宣言後はライブが中止になったり、再開後も声出しができないなど（感染拡大防止のため）ルールがたくさんありました。私の原点となったアコースティックギターを手に回ったツアーは、全てがいとおしい瞬間で、音楽にしか救えないものがあると再確認した時間でした」

　デビュー20年を経たヤイコが見据えるものは。

「子育てを経験し、子どもの目線を再度持つことで2度（子ども時代を）生きたように感じています。人生の折り返しを迎えたいま、ここからは赤ちゃんに戻っていくのかなっていう気持ちでいます。くだらないことで笑ったり、どんどんピュアになっていく。すてきな先輩たちを見てもそう思うんです。力み過ぎるとうまくいかないので、いい意味で脱力し、シンプルに浮かんだ思いを届けていきたいです。デビュー当時のキラキラとした声はもう出なくても、その年齢ごとに“映える声”がある。90代になってもギターを持って歌い続けられるように。そう考えながら大好きな音楽と向き合っています」

　新曲『アイノロイ』はデジタルシングルとして、各種音楽配信サービスで購入することができる。

□矢井田 瞳（やいだ・ひとみ）1978年7月28日、大阪府生まれ。19歳でギターと出合い、作曲活動をスタート。2000年5月にインディーズデビューし、同年7月にシングル『B’coz I Love You』でメジャー始動。耳なじみが良いサビのフレーズで“ダリダリ旋風”を巻き起こした2枚目のシングル『My Sweet Darlin’』がミリオンセラーになり、その名を全国区にした。