39歳・高橋優のスマホに頼らない生き方「A4ノートが脳みそ代わり」「自分が見えてきます」

デビュー13年目を迎えたシンガー・ソングライターの高橋優(39)が、最新デジタルシングル『雪月風花(せつげつふうか)』を今月25日にリリースした。NHK Eテレアニメ『ドッグシグナル』(日曜午後5時)のオープニングテーマ曲で、大切な存在との日常風景が描かれている。高橋の魅力の1つに独創的でユーモアのある歌詞を挙げる人は多い。あらゆる角度から人や物を照らした言葉の数々。それらを生み出す背景には、子どもの頃から続けてきたあるルーティンがあった。

新曲『雪月風花(せつげつふうか)』をリリースした高橋優【写真:ENCOUNT編集部】
新曲『雪月風花(せつげつふうか)』をリリースした高橋優【写真:ENCOUNT編集部】

独創的な歌詞を書ける理由とは

 デビュー13年目を迎えたシンガー・ソングライターの高橋優(39)が、最新デジタルシングル『雪月風花(せつげつふうか)』を今月25日にリリースした。NHK Eテレアニメ『ドッグシグナル』(日曜午後5時)のオープニングテーマ曲で、大切な存在との日常風景が描かれている。高橋の魅力の1つに独創的でユーモアのある歌詞を挙げる人は多い。あらゆる角度から人や物を照らした言葉の数々。それらを生み出す背景には、子どもの頃から続けてきたあるルーティンがあった。(取材・文=福嶋剛)

――新曲『雪月風花』についてお聞きします。

「今回はアニメのテーマ曲というお話をいただいて『犬と人間のつながり』をテーマに曲を作りました。犬の飼い主に一途で真っすぐな気持ちを想像してみたり、ペットに限らず、何気ない日常の中で何か楽しいことを見つけたり、気になる存在に出会えた瞬間、モノクロだった景色が彩りある景色に変わる。そんな経験はみなさんにもあるんじゃないかなと思いながら、歌詞にしました」

――サウンドはこれまでの作品とは違った新鮮な軽快さがあります。

「今回4つ打ちリズムの曲をやってみたのですが、意外とこういうタイプは今までなかったので僕自身も新鮮でした。こだわったところはドラムのスネアの音です。『え、そこ?』ってツッコミが聞こえてきそうですが(笑)。軽快さを表すために『スカン!』って抜ける感じの高い音程が欲しかったんです。楽曲を愛息のように最後まで手厚く作りました」

――今年は今作を含めてデジタルシングル2作品をリリースし、TBS系『news23』のエンディングテーマ『キセキ』、7月に発生した地元・秋田の豪雨災害に遭った人たちにエールを送る『はなうた-pray for Akita-』などの未発表曲も制作するなど、休むことなく曲を書き続けているという印象です。

「曲作りはもうライフワークみたいなものです。今に限ったことではなく、ずっと同じペースで書き続けています。例えるなら農作業のような感じで、毎日、音楽畑に行って土を耕して肥料をあげて種を植え、水をやり、収穫するみたいな。僕には何の才能もないけど、曲を作ってギターを弾いて歌うことだけは続けていきたいから、ミュージシャンという職業にしがみついているんです。だから、天性のミュージシャンみたいに曲が降ってくるなんてことはほとんどないです」

――では、特徴的な歌詞の数々はどのように生まれるのでしょう。

「毎日A4のノートに1日2、3ページ、その日にあった出来事や自分の考えていることなど何でも書くようにしています。結構、時間は掛かるんですよ」

――書きたくない日でも。

「あります。そういう日は『毎朝、面倒臭えな』とか『何を書けばいいのか分かんないよ』から書き始めるんです。それから、『何で書きたくないのか、その理由を書こう』って。すると、『そういえば昨日の夜に友達と話したことが今も気になっているからだな』とか(笑)。要は頭の中でグルグルしているものを文字化していって、A4のノートが僕の脳みそ代わりになってくれているんです」

――それはいつ頃から書き始めたのでしょう。

「小学生の頃から自発的にやっていました。自由帳ってあったじゃないですか。あれが好きで日記を書いたり、自由帳がない時はカレンダーとかチラシの裏に書いたりとかね。両親には『そんなことより早く宿題を終わらせなさい』って怒られていましたけど(笑)」

――ノートが創作活動の基になっていると。

「直接書いたことが歌詞になることもあるんですが、むしろ、書くクセを身に付けたことで自分の言葉を持つことができました。先日、ラジオで『秋ってどんな季節?』という話題が出てきて、『秋=切ない』というイメージがあり、そこから『寂しい』『物悲しい』という言葉に行き着くんですが、今までノートに書いたものを振り返ると『悲しさが分かると誰かの悲しさも分かるようになる』『意外と秋って好きかも』とか、何気ない話題1つでも変換できる。SNSだと『ムカつく』『許せない』といった怒りの感情をそのまま書いてしまいがちですが、ノートに書くことで『誰かや何かのせいにしてはいないか?』と気付き、『自分はそういう人になりたくない』『クドクド言い続けるのは止めよう』と冷静になり、白黒だけじゃない中間色を持つことができる。僕はそんな感情の中間色を割と探すことが好きなんです」

――「自分探しにもなっている」ということですね。

「尾崎豊さんじゃないですけど、“僕が僕であるための道具”かな。古い考えの持ち主なのかもしれないけれど、今はスマホが脳の代わりになり、考えなくてもいい時代になりました。だけど、自分の内側のことはこれからも自分で考えたいし、書くことで自分と向き合ったり、もしかしたらそれによって成長しているのかもしれないです」

――書けば書くほど自分の弱さが見つかる。

「そういうことなんだと思います。きっと、自分が強かったらノートに書く必要なんかないでしょうし、誰かをしゃべりで納得させるような人間じゃないから、ノートに書いてそれを曲にして歌うことで自分を探し続けているんだと思います。これはみなさんにもお勧めしたいです。A4のノートに2、3ページ書くことは大変です。だけど、同じこと何度書いてもいいし、書くことがなければ3ページ分、『書くことがない』と書いても構わない。だけど、書いたら絶対に今まで見えなかった自分が見えてきます」

12月から全国47都道府県を回る弾き語りツアーをスタートする
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AIがアーティストを超える時代がいつかやってくる

――高橋さんはAIがアーティストを超えて、観客を感動させる歌を歌う時代がやってくると思いますか。

「僕はいつか必ずそうなると思います。都市伝説的な話が大好きで、数年前まで『AIが人間を超えるなんて笑い話だ』と言っていたのにそうなってきたじゃないですか。今では当たり前になって、話題にすらしなくなりちょっと怖い感じですよね。でも、人間の歌はなくならないと思います。いつも完ぺきなおいしさを求めるラーメンばかり食べていたら、たまに店主の人間臭さが漂うラーメン屋に行きたいとか(笑)。感情って人の主観ですし、勝負という概念から逸脱した世界が芸術。白か黒かじゃない中間色の彩りが人間なんだと思います」

――音楽もしかりですか。

「AIの時代がやってきても人間が奏でる音楽があったっていいんじゃないですか。2012年に『発明品』という曲を書きました。『便利なものを発明すると便利な機能を使わないという苛立ちも発明されている』という内容で、意地悪な考えなのかもしれないけど、期待だけさせといて一部の人だけがラッキーって思うような世界にはなってほしくないですよね。なお、高橋優はこれからも聴きたい人たちがいつでも聴けるようにひっそりと身を置き続けるので、そこはご安心ください(笑)。ということで、今回は『思いをノートに書くススメ』のお話でした(笑)」

――新曲『雪月風花』の彩りにもつながりますね。

「ぜひ、聴いてくださいね」

<高橋優の独特歌詞フレーズ例>
「♪きっとこの世界の共通言語は 英語じゃなくて笑顔だと思う」『福笑い』(11年)

「♪僕なんか生まれなきゃよかったの? ~ そう思わせるのがやつらの狙いだ 負けるな少年よ」『少年であれ』(11年)

「♪便利な道具を発明した僕らは ~ 淋しい気持ちも同時に発明したのさ」『発明品』(12年)

「♪すぐ叶うことじゃない方がビューティフル 栄光は君と出会えたこと」『HIGH FIVE』(22年)

「♪誰かのための当たり前作るのは機械じゃない」『spotlight』(23年)

□高橋優(たかはし・ゆう) 1983年12月26日、秋田・横手市生まれ。大学進学と同時に路上での弾き語りを開始。2010年にシングル『素晴らしき日常』でメジャーデビュー。16年、「音楽で秋田を盛り上げたい」という思いから、フェス『秋田CARAVAN MUSIC FES』を地元の横手市で開催。以降は毎年、開催地を変えており、秋田県内の全市を回る予定。これまでオリジナルアルバム8作、シングル29作をリリース。

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