ジャニーズ新体制、“完全決別”の隠れたポイントは「楽曲の権利関係」 曖昧な現状の説明…弁護士が指摘

ジャニーズ事務所の「解体的出直し」が問題化している。故ジャニー喜多川元社長による性加害を認め、新体制への移行を発表。まずジャニーズ事務所の社名を「SMILE-UP.(スマイルアップ)」に変更、被害者の救済・補償に特化するとした。次に、新たなタレントのマネジメント(エージェント)会社を設立し、芸能事務所機能を分離。東山紀之社長が新社長に就任して再スタートを図るとした。一方で、10月2日の会見で記者の“指名NGリスト”の存在が浮上するなどし、多くの批判が集まっている。事務所側は「完全決別」を打ち出しているが、ビジネス面である不明瞭なポイントが存在する。これまで所属タレントが歌や踊りのパフォーマンスを見せてきた楽曲の版権・印税だ。知的財産の観点から、新会社はどうしていくべきなのか。エンタメ業界に詳しいレイ法律事務所の河西邦剛弁護士が解説コラムを寄稿した。

ジャニーズ事務所の新体制は知的財産の管理もポイントになる【写真:山口比佐夫】
ジャニーズ事務所の新体制は知的財産の管理もポイントになる【写真:山口比佐夫】

「グループ会社を含めた収益構造がジャニーズビジネスの実態把握に不可欠」 河西邦剛弁護士が分析

 ジャニーズ事務所の「解体的出直し」が問題化している。故ジャニー喜多川元社長による性加害を認め、新体制への移行を発表。まずジャニーズ事務所の社名を「SMILE-UP.(スマイルアップ)」に変更、被害者の救済・補償に特化するとした。次に、新たなタレントのマネジメント(エージェント)会社を設立し、芸能事務所機能を分離。東山紀之社長が新社長に就任して再スタートを図るとした。一方で、10月2日の会見で記者の“指名NGリスト”の存在が浮上するなどし、多くの批判が集まっている。事務所側は「完全決別」を打ち出しているが、ビジネス面である不明瞭なポイントが存在する。これまで所属タレントが歌や踊りのパフォーマンスを見せてきた楽曲の版権・印税だ。知的財産の観点から、新会社はどうしていくべきなのか。エンタメ業界に詳しいレイ法律事務所の河西邦剛弁護士が解説コラムを寄稿した。

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 ジャニーズ事務所については、ここ数日、NGリストの存在がクローズアップされていますが、10月2日記者会見の目玉の1つが、新会社の設立により被害救済と芸能事務所を分けることでした。会見でも東山社長はジャニー氏からの完全な決別を強調していました。

 しかし、この記者会見でほとんど説明がなかったのが、10社程度あるジャニーズのグループ会社の行く末です。ジャニーズというと芸能事務所としてのジャニーズ事務所に焦点が当たりますが、グループ会社を含めた収益構造がジャニーズビジネスの実態を把握するうえで不可欠になります。

 そもそも、現在の所属タレントを新会社に移しエージェント契約を結ぶのは、タレントを補償の問題とは切り離すこと。つまり、スマイルアップ社については、ジャニー氏と故メリー喜多川元副社長から藤島ジュリー景子氏が引き継いだ財産を補償に当てた上で最後は廃業する予定。それとは分離させた新会社に、タレントマネジメントを含め芸能事務所としての機能を移す、ということです。

 ですが、あまりクローズアップされていませんが、新会社に移籍しエージェント契約を結んだとしても、実際は、権利関係上はジャニー氏との完全な決別にはなりません。例えば、現在のジャニーズ所属タレントが、新会社に移籍し、これまでの楽曲をテレビやライブで歌えば、楽曲の著作権印税は、スマイルアップ社(旧ジャニーズ)側に入ることになります。

 ジャニーズグループの多くの音楽著作権を管理しているのが、ジャニーズ出版という会社です。実際、JASRACのサイトで「ジャニーズ出版」と検索すると9889楽曲がヒットします(2023年10月12日時点)。

 新会社にタレントを移したとしても、仮にグループ会社にタッチせず現状のままであれば、結局、アイドル活動の楽曲収益は今後もスマイルアップ側に入り続ける構造になっています。

 ジャニー氏からの完全な決別を徹底するのであれば、今後のタレントによる活動対価は全て新会社に帰属するべきではありますが、このあたりが現状曖昧になっていると言えます。

 記者会見で弁護士からは「スマイルアップ側が収益を吸い上げるようなことはしない」「活動されるタレントの方に必要なものについてはすべて新会社が保有できるようにする」という話はありましたが、具体的なスキームについて踏み込んだ話はありませんでした。スキームや範囲は最終的に詰めていくという趣旨の説明だけでした。

エンタメ業界に詳しいレイ法律事務所の河西邦剛弁護士【写真:本人提供】
エンタメ業界に詳しいレイ法律事務所の河西邦剛弁護士【写真:本人提供】

 通常の企業間の権利移管であれば、スマイルアップ側から新会社への無償譲渡ということは考えにくいですが、今回は楽曲の印税収益の仕組みを無償でジャニーズ側が新会社に移すということは考えられなくはありません。

 しかし、ここでも結局は現ジャニーズの株式100%を保有しているのはジュリー氏になりますので、ジュリー氏が最終的には首を縦に振らなければ権利移管は実現しませんし、被害補償のための財源確保を理由に無償譲渡を今後拒む可能性もあり得なくはありません。

 ここで両社の代表を務める東山社長は板挟み状態になってしまい、新会社に移籍したタレントからはスポンサー回復のために早急かつ円滑な権利移管を求められるでしょうし、逆にジュリー氏からは補償の財源確保をお願いされる可能性があります。

 結局、スポンサー企業や経済界からすると、このあたりの不安定さや曖昧さが企業ガバナンスの甘さに見えてしまい、社長兼任なども相まって現状はCMの回復に至っていないのだと思われます。

 スポンサー企業としては、元ジャニーズ所属のタレントを起用したい一方で、結局ジャニーズとの切り離しができていない以上は起用を躊躇(ちゅうちょ)せざるを得ない。これはタレントサイドからしても悩ましい事態かと思います。
 
 スポンサー企業やメディア出演の回復のためには、早々にジャニーズからの決別を実行することです。経済界は社名変更や新会社の設立というレベルの改革では表面的と冷めた見方をしている可能性があり、著作権含めた知的財産の完全移転の実現、資本関係及び役員の分離の実現が広告起用の前提と考えているのかもしれません。

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