漫画・アニメとも話題を席巻した人気作『SPY×FAMILY』が今年、ミュージカルになる。3月8日からの東京・帝国劇場公演を皮切りに東京・神戸・福岡で上演予定のミュージカル『SPY×FAMILY』で、ヒロインのヨル・フォージャーをダブルキャストの1人として演じるのが女優の唯月ふうか。稽古が進む今、ドラマや漫画が原作の舞台にも立ってきた彼女に、この人気タイトルのヒロインを演じる心意気を聞いた。（取材・文＝大宮高史）

『SPY×FAMILY』は東西に隣り合う架空の国を舞台に、西国から東国に潜入したスパイ“黄昏”ことロイドと東国の殺し屋“いばら姫”ことヨルが、少女のアーニャを養子にして正体を隠したまま血のつながっていない一家「フォージャー家」として暮らす。コメディーありアクションありの作品で、フォージャー家の3人はネット上の人気キャラクターにもなっている。ヨルを演じるのが唯月だ。

「登場人物達の、緊迫する戦いと、クスッとできるほほ笑ましいシーンで見せる姿のギャップにやられました。読み進めたら手が止まらず、まねしたいせりふがたくさんあり、一気に世界観に引き込まれました」

　ヨルはコードネーム“いばら姫”を名乗るすご腕の殺し屋という裏の顔を隠しながら、ロイドの妻、アーニャの母という仮面をかぶってストーリーが進む。殺し屋・妻・母とさまざまな面を生の舞台で見せていくので、殺陣と日常パートのギャップも原作ファンの興味をそそるものになりそうだ。

「普段天然でおっとりしているヨルですが、いばら姫になると別人のような強さと迫力があり、その二面性がヨルの魅力だと思います。ミュージカルではリアルに臨場感を感じて頂けると思うので、自分の身体から想像できない強さを発揮し、説得力を持たせたいです」

　と、ヨルの超人的な身体能力に近づけることにも自信を見せる唯月。フォージャー家で平凡な女性を装っているときのおっとりとした天然ぶりにも「思わずツッコミたくなる不思議な空気をまとっている女性」と感じたヨルらしさを「しっかり再現してお客さまの心の中でツッコんでいただきたいです（笑）」と意気込む。

　本作では、超能力を持つ「娘」のアーニャもオーディションで選ばれた4人の子役（池村碧彩・井澤美遥・福地美晴・増田梨沙）が演じる。唯月にとって、母親役となるのも初めてだが、「稽古初日からアーニャ達が『ははー！』と笑顔で抱きついてきてくれて、母性があふれ出ました。皆さんとにかくかわいく、小さい身体から放つエネルギーがすごく、稽古が終わると自然に拍手が起こっているんです」と、あたたかい空気の中で進む稽古で母らしさも研究中だ。

「夫」のスパイ・ロイド役は昨年にミュージカル『ピピン』に主演し、映画・ドラマでも引く手あまたの森崎ウィンと、舞台『刀剣乱舞』など2.5次元舞台で経験豊富な鈴木拡樹のダブルキャスト。唯月とともにダブルキャストでヨルに抜擢されたのは日向坂46の佐々木美玲と、さまざまなバックグラウンドを持つ役者が集まった。「日々変わることに瞬時に対応している姿がかっこよくて、とても刺激を受けています」と吸収することも多いようだ。

　唯月のミュージカル初主演は10年前、『ピーターパン』にて。2013年から16年にかけて出演し、以後『DETH NOTE THE MUSICAL』の弥海砂（15年、17年）、『レ・ミゼラブル』のエポニーヌ（17年、19年、21年）、『東京ラブストーリー』の赤名リカ（22年）などで大きな役を演じ続けてきた。作品のジャンルは多彩ながら、ミュージカルであることは一貫してきた。

　いまや日本のミュージカル界を担う新進女優の1人でもあるが、

「大変ですし悩む時間もありますが、幕が開きお客さまからの大きな拍手で全てが報われて、『信じてやってきて良かった』と心から思えます。その瞬間がたまらなく好きです。私が1番生き生きできる場所が、ミュージカルだと思います」

　初日の幕が開いたときの喜びはキャリアが長じても変わらない。衰えぬ感性と情熱で、これからも舞台に邁進していく。

□唯月ふうか（ゆづき・ふうか）1996年9月8日、北海道出身。2012年にホリプロタレントスカウトキャラバン審査員特別賞を受賞。13年にミュージカル『ピーターパン』で舞台初主演。舞台を中心に活動し、22年は『四月は君の嘘』『スラムドッグ＄ミリオネア』『東京ラブストーリー』に出演する。またテレビドラマやナレーションでも活動中。

□公演情報
【スタッフ】
原作：遠藤達哉（集英社「少年ジャンプ＋」連載）
脚本・作詞・演出：G2
作曲・編曲・音楽監督：かみむら周平
【主な配役】
ロイド・フォージャー：森崎ウィン／鈴木拡樹（Wキャスト）
ヨル・フォージャー：唯月ふうか／佐々木美玲（日向坂46）（Wキャスト）
アーニャ・フォージャー：池村碧彩／井澤美遥／福地美晴／増田梨沙（交互出演）
ユーリ・ブライア：岡宮来夢／瀧澤翼（円神）（Wキャスト）
フィオナ・フロスト：山口乃々華
フランキー・フランクリン：木内健人
ヘンリー・ヘンダーソン：鈴木壮麻
シルヴィア・シャーウッド：朝夏まなと
ほか
【東京公演】
2023年3月8日～3月29日／帝国劇場
【兵庫公演】
2023年4月11日～4月16日／兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール
【福岡公演】
2023年5月3日～5月21日／博多座