大友啓史監督、『るろ剣』最終章で味わった悔しさ 『レジェンド&バタフライ』で底力見せたい
木村拓哉と綾瀬はるかの共演で、織田信長と正室・濃姫の知られざる物語を描く大作『レジェンド&バタフライ』(公開中)。製作費20億円をかけた東映創立70周年記念作のメガホンを任されたのは『るろうに剣心』シリーズの大友啓史監督だ。本作、そして信長、木村の魅力とは何か?
木村拓哉は「誰もが納得する説得力、パワーが紐ついている」
木村拓哉と綾瀬はるかの共演で、織田信長と正室・濃姫の知られざる物語を描く大作『レジェンド&バタフライ』(公開中)。製作費20億円をかけた東映創立70周年記念作のメガホンを任されたのは『るろうに剣心』シリーズの大友啓史監督だ。本作、そして信長、木村の魅力とは何か?(取材・文=平辻哲也)
本作は、織田信長の激動の生涯を、政略結婚した濃姫の目線から描くもの。『コンフィデンスマンJP』シリーズの古沢良太が脚本を手がけた。
「『木村さん綾瀬さんの共演、脚本・古沢さんという座組で70周年記念作をやりませんか』とオファーされ、やりがいがある仕事だなと思いました。一方で信長は、映画でもテレビでも今まで散々やりつくされているので、切り口を見つけるまで、それなりに時間がかかるだろうと思っていました。ですが、古沢さんとの打ち合わせを得て届いた第1稿は、僕の30年近いキャリアの中で、初めてそのまま撮れるという出来栄えで、その瞬間かなりスイッチが入りましたね」と振り返る。
監督が意識したのは、本物感だ。国宝や重要文化財に指定されている神社、城など全国30カ所以上でロケを敢行した。「クランクイン前から、信長が生きた時代から在る場所や建築物にスタッフ・キャスト皆が足を踏み入れ、全員で何かを感じることが大切だと思っていました。オーソドックスなやり方ですが、僕は場の力を信じている。自分たちが真実を知りえない数百年前の戦国という時代に、場所の力も借りて、愚直にアプローチしようと思ったんですね。撮影時はコロナの真っ只中で、撮影手法は間違いなくバーチャルに主軸が移りつつある。リアルな場所でリアルに撮るという機会はもしかしたら最後かもしれないと、そんなことすら思っていた時期でした。そういう時代だからこそ、今一度本物の力を再認識しておきたいという思いが強くありました」。
NHK大河ドラマ『龍馬伝』では福山雅治、映画『るろうに剣心』シリーズでは佐藤健と組んできた売れっ子監督から見た俳優・木村拓哉の魅力とは何か。
「常に最前線を突っ走っている方ですからね。若い頃から国内の映画やドラマだけでなく、海外の映画にも出て、アーティストとしても東京ドームのような大舞台に立ち、同時に毎週ゴールデンタイムのバラエティーショーにも数多く出演してきた。その多面的なキャリアの分厚さには、誰もが納得する説得力、パワーが紐ついている。個人的に、死後数百年以上たってもまだ我々を魅了し続けている信長という存在に向き合える人はそうそういないと思っていましたが、木村拓哉ならば十分に拮抗できる。カリスマ性と同時に、役者としての細やかな技量も素晴らしいですからね。クランクイン前に話した際に、『先人に嘘をつきたくない』『失礼がないように演じたい』と言っていて、そのスタンスにも共鳴しました。この人となら一緒に走れるなと思いましたね」
濃姫役の綾瀬については「濃姫についてはほとんど記録が残っていませんが、斎藤道三の娘ですから、もし、男だったら、天下を取ったかもしれない。そんな役柄に綾瀬さんの奔放な魅力が見事にハマりましたね。特に、病に伏してからの信長との時間の過ごし方や、二人が共通してみる夢というのは、なかなか斬新な描き方ができたかなと。木村さんと綾瀬さんが夫婦を演じることでどんな化学反応を起こすのか、僕自身演出していてとても楽しみでした。政略結婚で出会った二人が、長い時間を共有して愛を育てていく。最後は色々な解釈があると思いますが、僕はある種のハッピーエンディングだと思っています」と話す。
2時間48分という上映時間になったが、「見る価値のあるものは、尺に関わらず必ず見てもらえる。発見してもらえる。そう信じて突き進むしかないですね。二人の濃密な30年を描くには、これくらいの尺が当然必要だったと思います。戦国時代を懸命に生きた二人の生き方を、浮世を忘れて、ぜひ大画面で追体験してもらえればと思います」。
コロナ禍で思うような劇場公開ができなかった『るろうに剣心 最終章』二部作(21年)には人生最大の悔しさを感じているとも明かす。
「10年かけてきた作品の最後が都市部の大スクリーンで観てもらえなかった。当時、舞台はOKだったのに、映画館での公開はできなかった。このことは今でも結構引きずっています。だから、この作品で大スクリーンで映画を観る魅力をお客さんと共有し、もう一度映画の底力を見せつけたい。僕なりに結論を出して、次に進みたい、という思いもあるんです」と今の心境を語った。
□大友啓史(おおとも・けいし)1966年、岩手県盛岡市生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。90年NHK入局、秋田放送局を経て、97年から2年間ロサンゼルスに留学、ハリウッドにて脚本や映像演出に関わることを学ぶ。帰国後、連続テレビ小説『ちゅらさん』シリーズ、『深く潜れ』『ハゲタカ』『白洲次郎』、大河ドラマ『龍馬伝』等の演出、映画『ハゲタカ』(09年)監督を務める。2011年4月NHK退局、株式会社大友啓史事務所を設立。同年、ワーナー・ブラザースと日本人初の複数本監督契約を締結する。『るろうに剣』(12)『るろうに剣心 京都大火編伝説の最期編』(14)が大ヒットを記録。『プラチナデータ』(13)、『秘密 THE TOP SECRET』(16)、『ミュージアム』(16)、『3月のライオン』二部作(17)、『億男』(18)、『影裏』(20年)と話題作を次々と世に送り出し、2021年には映画『るろうに剣心 最終章 The FinalThe Beginning』と2部作で興収65億円を突破するヒットとなった。