鮎川誠さん選曲「めがね野郎のロックンロール」全10曲(2006年)

1月29日に旅立ったロックミュージシャン・鮎川誠さんが、2006年に次世代に語り継ぎたい音楽をトレードマークの「めがね」をテーマに選曲とレビューを用意してくれた。鮎川さんの思い出とともに聴いてほしい。

シーナさん(左)と鮎川誠さん(2006年撮影)【写真:本多元】
シーナさん(左)と鮎川誠さん(2006年撮影)【写真:本多元】

鮎川誠の選曲とレビューで紹介する10曲

 1月29日に旅立ったロックミュージシャン・鮎川誠さんが、2006年に次世代に語り継ぎたい音楽をトレードマークの「めがね」をテーマに選曲とレビューを用意してくれた。鮎川さんの思い出とともに聴いてほしい。

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●「愛なき世界」ピーターとゴードン
 この曲はホントいい曲でね、その当時ナウかった12弦ギターのリフが入ってたりして、その響きがものすごく耳に飛び込んでくるんよ。当時、ピーターとゴードンみたいなめがねを買おうと思ってめがね屋さんに行ったんだけど、その時代のめがねっちゅうたらね、学校の先生みたいなのばっかりで。

 オレはこんなめがねをかけている人の仲間入りはしたくねえなあって思いよったの。そしたら、店の隅っこのほうにピーターとゴードンみたいな黒ブチのめがねがあってね、それを僕の第一号のめがねにしたんよ。でもね、当時はピーターとゴードンみたいな黒ブチのめがねとかかけてるやつはほとんどいなかったから、友達から「なんかぁ、そのめがねは?」ってよう言われよった。自分がかけてためがねが遠視矯正用のめがねだったってことをあとから知ったんで、まあ、みんなの反応も間違ってはいなかったんやけどね(笑)。

●「SCOTCH ON THE ROCKS」シャドウズ(ハンク・マーヴィン)
 ウィルコ・ジョンソンでもジョージ・ハリスンでもジェフ・ベックでもゲイリー・ムーアでもピーター・グリーンでもエリック・クラプトンでもない。イギリスでギター・ヒーローといえばハンク・マーヴィン。いまでも最高のギタリスト。シャドウズは、エレキ・ロックのオリジネイターですね。

 シーナ&ロケッツでもむかし、ステージ終わりの音楽として「10番街の殺人」のシャドウズのヴァージョンを使ってた。お気に入りの曲は何曲かあるけれど、やっぱこの曲やね。そのむかし九州にね、松井伸一っていうスーパーDJがいてね。この曲はその人の番組のオープニングだったんですよ。よう聴いとった。

●「ROAD RUNNER」ボ・ディドリー
 これだけ滑稽にね、めがねをブルースの世界に持ち込んだのは彼が第一人者。ギターの形もヘンだしね。ここまでくると現実感を持ち込んでるって感じやなくて、キザ男のたしなみとしてめがねをかけるとか、そういう自己主張が入ってきてるんじゃないかな。3年ぐらい前にボ・ディドリーが来日したときに観に行ったんやけど、会場に着いたときにはもう始まっててね。この曲のフレーズが会場の外まで響いてたんですよ。そんときはもう、鳥肌が立ってね。

●「MAYBE BABY」バディー・ホリー
 めがねロッカーの代表ですね。バディー・ホリーは、イギリスだとプレスリーよりも贔屓が勝っとったっていうことをよく聞いとって。やっぱね、プレスリーは反感買うのよ。独り占めというかね、映画でもひとりだけいい役持っていくし。ロックが好きなやつのなかには、そういうの我慢ならんやつがおるわけよ。

 ロックって、みんながいっしょに喜べる、リベラルで自由で、共有感がすごく大事やけん、プレスリーばっかいい格好しても「なんやおまえ」って感じで。音楽は深いし、天才やし、クリエイティヴやし、しかも色男だから、そういうところは認めるし、好きなんやけど、好きって言うてしまったら自分の価値が下がるというかね、そういうときに「バディー・ホリー」って言うておけばいいというか(笑)。

●「8 MILES HIGH」バーズ(ロジャー・マッギン)
 バーズが出てきたときはもう「おーっ!」ち思ったね。みんなグッド・ルッキンでかっこよかったし、「Mr. Tambourine Man」の朗々とした響きとかも素晴らしくて、ビートルズとかに対抗するアメリカの希望の星みたいなところはあったと思う。しかも、12弦ギターでアルペジオを弾くっていうのがすごく新鮮やった。オブリガードを弾く12弦はビートルズやストーンズとかでもあったんやけど、12弦から始まるっていうのはそれまで聴いたことなかったし。

●「WATCHIN’ THE DETECTIVE」エルヴィス・コステロ
 コステロが出てきたとき、ヘンなのが出てきたねえって思いながら、すごく親しみを感じたんですよ。で、『My Aim Is True』ってアルバムを聴いたんやけど、これはちょっとイマイチかなあ、パンクじゃないなあって感じはあったんですよ。この人は「歌系」なんかなあって思って。でも、折り曲げたジーンズにジャケット、ジャズ・マスターっていう当時は歴史から忘れられたようなギターを持っているジャケットには感じるものがあってね。おまけに、「ELVIS IS KING」って小さなマス目のなかに書いてあったり、いろんな意味でロックのゾクゾクする部分をジャケットに忍ばせとったんですよね。

 名前もヘンだし、スティッフ・レコードっちゅう、新しいムーヴメントを起こそうとしているレコード会社から出してたのもうらやましかったから、すぐに受け入れたんです。僕もコステロに似てるって当時よく言われたんですよ。ちょうどシーナ&ロケッツでデビューしたのが78年で、コステロは『This Years Model』っていうアルバムを出して、で、日本にツアーで初めて来たときに、僕らがオープニング・アクトを務めたんだけど、ステージに出て行ったときに、失笑みたいなのが上がってね、それがオレに火をつけて。おかげでね、ものすごい気合いの入った演奏ができて、いい想い出になった。

●「JUST MY IMAGINATION」テンプテーションズ(デビッド・ラフィン)
彼らのような黒人のコーラス・グループって、わりと美談なグループが多いんですよ。ハイスクール時代からの仲間だったとかさ、真面目なグループが多いんやけど、このグループは超不良なところがたまらんで。10年ぐらい前になるんやけど、僕とシーナでニューヨークとかシカゴとかミシシッピとかニュー・オーリンズとか旅して、いっぱい写真撮ったりビデオを撮ったり、DATを持って行ってフィールド・レコーディングまでしたんですよ。それで、ニューヨークのアポロ劇場の前で写真を撮ったときに、偶然テンプテーションズの公演のポスターが写っていて。それで、翌年に彼らが来日したとき、それにサインをもろうたんですよ。

●「HANDLE WITH CARE」トラヴェリン・ウィルベリーズ(ロイ・オービソン)
 ロイ・オービソンはサングラスのイメージがあるけれど、めがね野郎だね。「Oh, Pretty Woman」って曲が大ヒットしたんだけど、リヴァプール・サウンド全盛期の時代に孤軍奮闘していた感じ。声が美しくてね、やっぱめがね野郎としてこの人を讃えないかんと思ったけれども、ここではボブ・ディランとかといっしょにやりよったトラヴェリン・ウィルベリーズのほうを挙げたいね。

●「WHAT A WONDERFUL WORLD」ジョーイ・ラモーン
 ラモーンズいうたら「めがね野郎のロック」っていうイメージはないし、ジョーイひとりっていうてもパンクの天才としか思えんでさ。パンクの主導者やからね。でも、牛乳瓶の底みたいなめがねかけとるんよ(笑)。ラモーンズが初来日したときにいっしょにやれたのはいい想い出やね。

 それから10年ぐらい来なかったけど、10年経って2度目の来日をしたときに、すっごくオレたちとの再会を意外なほどに喜んでくれたんですよ。世界中から愛されているバンドなのにね。僕とシーナがミシシッピに行ったときも、ジョーイがオレたちのホテルにメッセージを入れてくれとうときもあった。「Take care」っていうのが彼の口グセみたいなんやけど、外人は「サヨナラ」言うのも「Take care」言うんやねって、そのとき思った(笑)。

●「ROLLIN’ AND TUMBLIN’」エルモア・ジェイムス
 ブルース代表で。「Rollin’ And Tumblin’」とか「Dust My Bloom」とか「Shake Your Moneymaker」とか、僕らはホワイト・ブルースのグループを通して彼の曲と名前を知ったんで、ホンモノの姿を見るまでもんもんとしていた時期があってね。それで、なにかのときに写真を見たときに、ぶっ飛んだちゅうかさ、もっと違うイメージだろうって思ってたんよね。めがねかけてさ、計理士さんみたいな感じやし。

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