役所広司、映画で百点満点だと思ったことはない「簡単な役は一つもないです」

名優・役所広司の最新主演映画『ファミリア』(2023年1月6日公開、成島出監督)は血縁、国籍を越えた家族の物語だ。国内外で輝かしい受賞歴を持つ名優は、「簡単な役は一つもないです。満点を取れたと思ったことはない」と語る。

インタビューに応じた役所広司【写真:舛元清香】
インタビューに応じた役所広司【写真:舛元清香】

最新主演映画『ファミリア』で児童養護施設で育った陶芸家役

 名優・役所広司の最新主演映画『ファミリア』(2023年1月6日公開、成島出監督)は血縁、国籍を越えた家族の物語だ。国内外で輝かしい受賞歴を持つ名優は、「簡単な役は一つもないです。満点を取れたと思ったことはない」と語る。(取材・文=平辻哲也)

 役所は国宝級の名優だ。今村昌平監督の『うなぎ』(1997年)では世界三大映画祭の最高峰、カンヌ国際映画祭パルムドールを受賞するなど内外で高く評価され、67歳の今もトップランナーとして主演を張っている。

「簡単な役は一つもないです。自分が求めるイメージ、監督が求めるイメージにたどり着きたいっていうだけ。うまくいったり、いかなかったりの繰り返し。全部がうまくいくようだと、俳優という仕事をやっている価値がない気がするんです。監督によって、また違う自分を出せるかもしれない。潜在的なものが出せるかもしれないと思いながら、演じるだけですね」

 これまでの映画で百点満点だと思ったことはないのか。

「ないんですよ。今村昌平さんだって、パルムドールを受賞した後の(凱旋)記者会見で『もう1回撮り直したいんだよ』って(笑)。その時はみんなが喜んでいるのに、どういうこっちゃ、と思いましたけども……」と笑う。

「ファミリア」は児童養護施設で育った陶芸家の誠治が妻を亡くし、やがて、最愛の息子・学(吉沢亮)がテロの犠牲者となり、ブラジル人の若者(サガエルカス、ワケドファジレ)と家族のような絆で結ばれていく物語。成島監督とは『油断大敵』『聯合艦隊司令長官 山本五十六』に続くタッグをなる。

「成島監督がオリジナル脚本(いながききよたか)で映画を撮ると伺って、ぜひ参加したいと思いました。日本映画は原作もの、テレビの映画化が多い中で、お客さんに映画館で新しい物語をお見せできるのは魅力的だと思いました。陶芸の稽古は好きだったので、本当に一生懸命やりましたね」と振り返る。

 冒頭のシーンはワンカットでろくろを回す姿を映しきる、という替えの効かない演技だった。撮影中は空き時間、工房で指導を受け、電気ろくろを持ち帰り、家の駐車場でも特訓した。

「監督が、吹き替えはやらないというので、頑張らないと。沖縄在住のニュージーランド人の陶芸家の方が付きっきりで教えてくれました。何個も作りましたね。うまくいったものは焼きを入れて、スタッフは別に欲しくもないかもしれないですけど、記念にあげたりしました。家に持ち帰ったものも20個くらいあるんじゃないでしょうか。泥を粘土にして、形にする。焼いた時もどうなっているか、わからない。非常に魅力的でしたね」

 話を聞いていると、陶芸は映画作りにも通じるところがある。

「モノづくりですから、そういうところはありますよね。うまくいったり、失敗したりの繰り返しなんです。劇中で使った、いい土と電気ろくろを持って帰ってきたけれども、まだやってないんですけね」と笑う。

自身の家族観も語った役所広司【写真:舛元清香】
自身の家族観も語った役所広司【写真:舛元清香】

テーマは家族「お互いに痛みを本当に感じられる関係」

 映画のテーマは題名通り、家族だ。

「血の繋がりだけが家族じゃない。お互いに痛みを本当に感じられる関係っていうのが家族、家族以上の関係だと思います。生きていくにはそういう人が大事な存在です」

 劇中では、一流企業に勤める息子・学が陶芸を継ぎたいと申し出るが、役所の息子・橋本一郎(37)も俳優を続けている。息子が「俳優をやりたい」と申し出た時の気持ちと重なる部分はあったのだろうか。

「好きなものはしょうがないなっていう感じでしたね。学生の時から自主映画を撮ったりしていましたから。でも、まさか役者をやるとは思わなかったですね。うれしかった? いや、大丈夫かなと思いましたね。でも、今でも役者をやりながら、仲間と自主映画を撮ったりしていて、はたから見ていても、楽しそうなんです。俳優としてこういう生き方もあるんだと思っています」

 映画では、家族という最小の社会と、世界の二つが描かれ、その世界の中で翻弄される家族の姿が描かれる。

「地球上から戦争がなくなったことはないでしょうね。ウクライナだけではなく、いろんな場所で戦争は起こっていて、民族間には根深い複雑な感情があるんだなと感じます。一方、日本は少子化で、外国の労働者をどんどん受け入れないといけない。その中で日本人は外国の方とちゃんと交流をできるのか。映画ではそういったことが描かれています。誠治は体を張って、命をかけて、子供たちの未来を守るわけですが、政治家の先生たちがもっと真剣に考えてくれたらいいのにとは思いますね」。映画製作者や役所が感じたメッセージが届くことを願っている。

□役所広司(やくしょ・こうじ)1956年1月1日、長崎県出身。95年に原田眞人監督『KAMIKAZE TAXI』で毎日映画コンクール男優主演賞を受賞。96年『Shall weダンス?』、『眠る男』、『シャブ極道』の3作品で14の国内主演男優賞を独占。東京国際映画祭主演男優賞を受賞した黒沢清監督の『CURE』(97)、カンヌ国際映画祭パルムドールを受賞した『うなぎ』(97)など、国際映画祭への出品作品も多い。2012年、紫綬褒章を受章。『孤狼の血』(18)では、自身3度目となる日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞、19年第13回アジア・フィルム・アワードでは最優秀主演男優賞と特別賞Excellence in Asian Cinema Awardをダブル受賞。『すばらしき世界』(21)ではシカゴ国際映画祭で、最優秀演技賞を受賞。『峠 最後のサムライ』(22)が公開。今後は『銀河鉄道の父』が23年GW全国公開、Netflixシリーズ『THE DAYS』が23年配信予定。またヴィム・ヴェンダース監督によるプロジェクト『THE TOKYO TOILET Art Project』の映画にも出演予定。日本を代表する俳優として活躍している。

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