昨年4月より岩手に移住、芸人として充実の時間を過ごしているお笑いコンビ「天津」の木村卓寛。現在、相方・向清太朗とは遠距離コンビとして活動を続けるが、デビュー23年の間には2度のコンビ解散の危機があったという。移住を機に相方が「運命の人」だと気づいたと語る木村に、コンビ間の“愛憎の過去”を聞いた。（取材・文＝佐藤佑輔）

　岩手に移住して1年ちょっと、コンビでは月に1回、リモートで「天津定例報告会」というオンライントークライブをやってます。やっぱりプロとしてやっているからには、遠距離でもお金を払って見に来ていただけるようなことがしたい。何かできないかと試行錯誤した結果、今の形に落ち着きました。先日は移住1周年を記念して、向を岩手に呼んで単独ライブをやったんですけど、変な話、僕らがやってきた単独ライブでは一番盛り上がったかも分かりません。移住で会う頻度は減りましたが、そのぶんコンビとしての密度は上がったような気がしてます。

　これは離れて気づいたことなんですが、僕ら今結成23年目で、23年間一緒にいるってもはや「運命の人」やなって。恥ずかしいですけどね。僕らは、最初向がむっちゃ面白くて僕は全然ダメで、僕がエロ詩吟で売れたときは向がじゃないほうみたいな扱いになって、今度向が声優さんとの仕事とか独自の路線を切り開いたら僕がまったく仕事がなくなってと、お互いの良いときが全然かみ合わへんままずっと来たんですよ。ようやく今、お互いフラットな感覚で接し合えてるのかなとか、この前のライブ終わりに久々に2人で飲みに行ったときに感じましたけどね。

　以前はお互いに嫉妬心があったと思います。じゃないほう芸人でも、お互い気持ちのつながってるコンビはたくさんいてますけど、僕らは同じ気持ちではいれなかった。普通に仲悪くなりましたし、そういうときって「なんでコイツ缶コーヒー3口に分けて飲むねん」とか、どうでもいいことがむちゃくちゃ気になるんですよね。お互いにすねるし、ひがむし、上に立ったらバカにするし、ホンマ最低の2人やったと思いますよ（笑）。

　今までにコンビ解散の危機は2回あって、1度目は大阪時代の2006年。当時毎年M-1にチャレンジしてたんですが、僕が本当にできなくて、向から「今年のM-1で決勝に残れなかったら解散しよう」と告げられたんです。これで決勝に残ったら美談なんですけど、そううまくもいかず敗退して、「じゃあ解散な」という事実上のクビ宣告に「もうちょっとやらせてくれや！」と僕からすがりついたのが1回目。

　そしたら、その翌年くらいにエロ詩吟が誕生して、解散は回避したものの、今度は変な上下関係ができちゃって。何年間もむちゃくちゃ仲悪くなって、どんどん嫌な気持ちが膨らんでいって、お互い憎悪の塊みたいにドローっとした黒い感情を抱えてて。もう限界やなってなったあるとき、僕から「お互いに言いたいこと全部吐き出して0からスタートするか、一切言わず全部なかったことにして水に流すか、向が選んで」って言ったら、向が食い気味に「全部なしにしよう」って言ってきたんです。よっぽど不満が溜まってたんやなと。でも、そっちでよかったと思いますよ。言い合いになってたら、何言われたか今でも覚えてて、根に持ってたと思いますから。それが2回目の解散危機です。

　お互いに仲直りしたい、やり直したいっていう気持ちがあっても、30代も後半になってからの仲直りっていうのはなかなかしんどいですね。でも、周りに迷惑をかけるわけにもいかないし、コンビという関係だったからこそ仲直りできたのかなと思います。戦友であり、ビジネスパートナーでもあり、家族みたいな存在ですね。

　ちなみに、今回の移住については向にもちゃんと会って話そうと思ってファミレスに呼び出したんですけど、僕らくらいの年齢のコンビがわざわざ呼び出して『話がある』って、それこそ十中八九解散話なんですよね（笑）。向は『今度こそ絶対解散だと思ったわ。解散に比べたら全然ええやん！』って快く送り出してくれましたね。

□木村卓寛（きむら・たくひろ）1976年5月22日、兵庫県姫路市出身。漫才コンビ「天津」のツッコミ担当。99年、NSCの同期である向清太朗と「天津」を結成。2008年、詩吟と下ネタを融合させた「エロ詩吟」でブレーク。決めぜりふの「あると思います」で09年の「新語・流行語大賞」にノミネートされる。21年3月中旬から岩手県へ単身移住。4月から岩手朝日テレビの新番組「Go! Go! いわて」のMCを担当する。