偏差値29から独学で東大合格 躁うつ病に苦しんだ作家・杉山奈津子さんの“合格術”

偏差値29から東大薬学部に合格した杉山奈津子さん。現在は作家、イラストレーター、杉山塾代表として活躍し、私生活では小3男子の母でもある。静岡雙葉高校時代は芸術コース。大学進学は考えていなかったもののある理由で高3から本格的に受験勉強を開始。1浪して予備校に通うことなく東大理科II類に合格した。なぜ突然、東大を目指し、どんな勉強方法で合格したのか。

偏差値29から東大に合格した体験談を語る杉山奈津子さん【写真:長谷部達也】
偏差値29から東大に合格した体験談を語る杉山奈津子さん【写真:長谷部達也】

杉山奈津子さん「大学に入ってから何をするかをいう目標を持つ」

 偏差値29から東大薬学部に合格した杉山奈津子さん。現在は作家、イラストレーター、杉山塾代表として活躍し、私生活では小3男子の母でもある。静岡雙葉高校時代は芸術コース。大学進学は考えていなかったもののある理由で高3から本格的に受験勉強を開始。1浪して予備校に通うことなく東大理科II類に合格した。なぜ突然、東大を目指し、どんな勉強方法で合格したのか。(取材・文=中野由喜)

「当時は国立大に進学する人は少ない高校でした。私は学校では勉強しないぞというような反抗期のひどいタイプで、大学に行こうとも思っていませんでした。ただ本を出したいという強い思いがありました。私は双極性障害(躁うつ病)のため保健室で過ごすことが多く、保健室では病気に関する本を読んでいました。本でそんな解決法が、こんな対策があるんだと知り、光が差してくるような気持ちになったんです。私も、同じ病の人の役に立つ本を書きたいと思うようになりました」

 将来の目標を見つけた瞬間だった。そこからどう東大につながるのか。

「本を書くために当時の私は出版社のある東京に行くしかないと考えました。でも高校を卒業して働きながらでは本を書く時間がない。それで親に都内の大学に行かせてほしいと相談しました。親はお金の問題で行くなら国公立にと。母は薬剤師で、調べるとアルバイトの時給が高く、資格を取れば死ぬことはないだろうと薬学部に行こうと決めました。東京の国立大で薬学部は東大しかありませんでした。消去法です(笑)」

 高2の終わりまで受験勉強をせず、高3の数学の偏差値は29。いきなり掲げた「志望校は東大」。どんな心境だったのか。

「大学受験には動機が重要です。大学に入ることが目標ではなく、大学に入ってから何をするかをいう目標を持つと勉強をしやすくなると思います。私は元々、大学に行く気がなかったので東大に行けないなら大学には行かないと決めていました。本を書くことが私には強い希望で、本を書かない自分の人生に価値はないとさえ考えていました。それだけ同病の人の助けになりたい思いが強かったんです。自分がそれだけ苦しかったから」

 動機、目的がいかに重要か伝わってくる。

「それがなかったらメンタル的にも大変なときに勉強はできなかったと思います」

「やはり効率を考えるなら独学」と指摘

 高3の初めまで勉強せず学年180人中160位ほどの成績。数学の偏差値29。しかも芸術コースで国立大理系受験に必要な科目の授業は受けられない。どんな勉強法だったのか。

「はじめは、がむしゃらにやっていました。でもテストでいい点数が取れず、マズイと思い勉強法を変えようと思いました。そこでまず考えたのは、東大に入った人をまねすること。東大合格者の本を買い、その人たちの共通点を見つけました。使った問題集や、どう勉強したかという情報が手に入りました」

 東大合格体験記のような本でどう変化したのか。

「今の自分のままでは厳しいため、徹底的に効率を考えないと合格できないと感じました。いかに効率良く勉強するか。たとえば授業を聞いていてもノートは取らなかったりしました。理由は先生が黒板に書いていることは、ほとんど教科書に載っていたから。ノートを取るのは勉強ではなく作業。書き写すことに神経が集中してしまいます。作業をするくらいならと、その時間に先生が黒板に書いていることや教科書に載っている内容を暗記しました」

 ほかにも役立った勉強法を聞いてみた。

「問題集を最初からきつきつにやらず、まず全体をおおまかに見て層を重ねるように何度も何度もやるようにしました。1問目から頑張って解き、続く2問目と気張ってやっていくと100問目のときに1問目のことを忘れてしまうもの。まず全部の解き方をがーっと見て、答えもがーっと見て、やり方を暗記してしまう感じで知識を増やしました。『エビングハウスの忘却曲線』で人は1日である程度忘れることを知り、復習は必ずその日のうちにやりました」

 まねして誰もが成功することではないかもしれないが、高3から東大を目指した杉山さんには効率的な時間の使い方。現役合格は逃したが予備校に通わず1年後に合格。

「私の場合、予備校に行ったら落ちると感じました。行って合格する人もいると思いますが、私には必要ではありませんでした。私は予備校の授業についていけるレベルでもありませんでしたし、行っていたら終わるのが夜9時とか。すると復習する時間が取れません。各受験生でレベルは違います。自分のレベルで重点的にやるには独学が一番と考えました」

 独学の勝因を聞いてみた。

「朝起きたら歯を磨くように習慣を作ることが大切だった気がします。自分のペースを作る。たとえば朝ご飯を食べたら数学をやり、昼食後はこの科目と決めて勉強のリズムを作りました」

 受験テクニックなど予備校の良さを利用する手はあったはず。

「やはり効率を考えるなら独学です。どのタイミングで復習するか。独学なら好きなタイミングで復習できますが、予備校は時間の関係でその日のうちにすることさえ、なかなか難しい。あとは授業を聞くだけ、受け身になりがち。結局、自分で実際に問題を解けるか確認作業をするアウトプットがあまりできない。アウトプットをいかにたくさんするかが大事。独学なら自分でいつでもアウトプットできるので私には良かったと思います」

□杉山奈津子(すぎやま・なつこ)1982年、静岡県生まれ。東京大学薬学部卒業後、厚生労働省管轄医療財団勤務を経て講演・執筆など医療の啓発活動に努める。主な著書に「鬱姫なっちゃんの闘鬱記」「うつ卒業レシピ」。7月5日には「東大ママの子どもを伸ばす言葉事典」を発売。小3男子の母。静岡市で「杉山塾」を経営。

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