10億円被害のニシキゴイ養魚場、絶望からの再起 クラウドファンディング「目標8000万円」のワケ

台風25号が関東を襲ってから2週間。千葉、神奈川をはじめ、各地に深い爪痕を残した暴風雨の中でも、とりわけ過酷な運命に見舞われた場所がある。印旛沼の堤防が決壊し、十万匹あまりのニシキゴイが濁流にさらわれた千葉・成田市の「谷養魚場」。総額10億円もの被害額に頭を抱える代表のもとには、全国から励ましと支援の声が届いている。泥にまみれた敷地で、再建への一歩を踏み出そうと、懸命に手を動かす父と息子の今を追った。

谷養魚場代表の谷健治さん(写真右)と、息子の大樹さん【写真:ENCOUNT編集部】
谷養魚場代表の谷健治さん(写真右)と、息子の大樹さん【写真:ENCOUNT編集部】

ニシキゴイ10万匹あまりが流出、約10億円にのぼる被害に

 台風25号が関東を襲ってから2週間。千葉、神奈川をはじめ、各地に深い爪痕を残した暴風雨の中でも、とりわけ過酷な運命に見舞われた場所がある。印旛沼の堤防が決壊し、十万匹あまりのニシキゴイが濁流にさらわれた千葉・成田市の「谷養魚場」。総額10億円もの被害額に頭を抱える代表のもとには、全国から励ましと支援の声が届いている。泥にまみれた敷地で、再建への一歩を踏み出そうと、懸命に手を動かす父と息子の今を追った。

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 北印旛沼の堤防が決壊したのは、台風25号が千葉県に最接近した9月22日未明。谷養魚場代表の谷健治さんは当時、ニシキゴイの出荷や品評会の審査員の仕事のため、フィリピン・マニラに滞在しており、3代目にあたる息子の大樹さんが初動対応に当たった。

 異変を知らせたのは、敷地内の実家に暮らす母からの停電の一報。エアーポンプが止まれば、コイは酸欠で死んでしまう。大樹さんは発電機を手に、闇の中を養魚場へと急いだ。

 だが、敷地に到着した午前2時、そこにはもう、足を踏み入れることのできない光景が広がっていた。

「ポンプが止まってコイが酸欠になってはいけないと、発電機をつけに行ったんです。でも、もう中には入っていけない状態でした。コイのことは心配でしたが、真夜中で暗かったこともあり、その時はまさかここまでの被害になるとは思ってもいませんでした」

 代表の健治さんは同日の午前8時30分に緊急帰国。成田空港から駆け付けた現地の状況に、思わず言葉を失った。

「もう一面海ですよ。一歩も(敷地の)中に入っていけないから、知り合いからボートを借りて施設の中を見回りました」

 メインの飼育ハウスは、周囲より1メートルほど高く作ってある。万が一の水害への備えとして、できる限りのことはしてきたつもりだった。しかし、水位はそれをゆうに超え、1メートル50センチにまで達していた。

「多少の水害対策はしていました。でも、この規模になっては……対策のしようがない」

 無力感に言葉を震わせた。

15日の公開を予定しているクラウドファンディングのページ【写真:本人提供】
15日の公開を予定しているクラウドファンディングのページ【写真:本人提供】

3代目の大樹さんが加わり生産養殖に舵…9月上旬に結婚式を挙げた矢先の悪夢

 谷養魚場は65年ほど前、健治さんの両親が同地で創業。長年仕入れや流通が中心だったが、3代目の大樹さんが加わった数年前から生産養殖に舵を切り、海外向けの輸出事業で業績を伸ばしていた。

「ニシキゴイは発祥の地とされる新潟産、広島産が有名ですが、成田空港に近く、輸送コストの低いこの場所なら、世界を市場にできるのではと」。大樹さんは9月上旬に結婚式を挙げたばかり。ゆくゆくは家業を継ぎ、さらに発展させていこうと考えていた矢先の出来事だった。

 流出したニシキゴイは約10万匹。品評会に向け一時的に所有者から預かっていたコイも多く、最も高価なもので1匹500万円ほどにのぼるという。この他、重機4台、車が14台、1台10万円する自動給餌機は50台あまりが水に浸かり、他にも多数の設備が故障。被害額はコイだけで6~7億円、設備も含めれば10億円あまりにのぼる。わずかに生き残っていた200匹ほどのコイも、バタバタと息絶えているのが現状だ。

「ニシキゴイの保険なんてものもない。顧客名簿が入ったパソコンも全部流されてしまって、どこから手をつけていいものか……。再建の目途が建てられるような状況ではありません」

 被災後、近隣住民からは「田んぼでコイを見つけた」「捕まえたので持ってきた」と善意の申し出も多く寄せられている。展示用に飼育していた体長1メートル60センチほどの大型淡水魚「アオウオ」も、10匹のうち2匹が戻り、希望のシンボルになっているという。

「一度でも外に出てしまったコイは、ヘルペスに感染している可能性があるため、正直商品にはなりません。それでもそういったお声掛けは本当にうれしい。別の水槽で隔離しながら、展示用に育てています。中には『逃げたコイを放っておくのは無責任』という心ない声もありますが、やれることをやっていくしかない」

 全国からの支援の声を受け、今月15日にはクラウドファンディングの立ち上げを予定。目標金額は検討の末、8000万円を設定した。

「自力での再建は無理だと途方に暮れていたところなので、『クラファンをしてほしい』『支援させてほしい』というお声を多くいただき、本当にありがたかった。目標額は被害総額の10分の1以下ですが、他人様からの支援をアテにしてあまり高い額を設定するわけにもいきません。あくまでも再建のための足がかりになれば、という思いです」

 被害から2週間あまり。未曽有の被害に見舞われた養魚場は、少しずつ前を向き始めている。

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