『デジモン』のヒットは“予想外”だった 漫画家・やぶのてんや氏が語るコミカライズの舞台裏
漫画家・やぶのてんや先生の代表作として知られる『デジモンアドベンチャー Vテイマー01』や『イナズマイレブン』。大ヒットゲームやアニメのコミカライズという印象を持つ人もいるだろうが、事実は少々異なっている。『デジモン』も『イナズマイレブン』もアニメに先行して漫画連載がスタートし、子どもが作品と出会うきっかけになっているのだ。

『デジモン』の大ヒットと“コミカライズ作家”の葛藤
漫画家・やぶのてんや先生の代表作として知られる『デジモンアドベンチャー Vテイマー01』や『イナズマイレブン』。大ヒットゲームやアニメのコミカライズという印象を持つ人もいるだろうが、事実は少々異なっている。『デジモン』も『イナズマイレブン』もアニメに先行して漫画連載がスタートし、子どもが作品と出会うきっかけになっているのだ。(取材・文=関口大起)
『デジモン』も『イナズマイレブン』も、やぶの先生が関わったのはアニメ放送が公になる前の段階だった。すでに完成した原作を基に漫画を作るのではなく、企画の立ち上げ、あるいはリリース前のタイミングから関わり、時に見せ方そのものにも意見を出せる環境だったという。一般にイメージされるコミカライズ作品とは成り立ちから異なっている。
「『デジモン』については、コミカライズを担当することが決まったタイミングではストーリーも決まっておらず、設定だけがある状態でした。携帯ゲーム機としてはちょっとしたブームになっていましたが、いわゆるたまごっちのような育成ゲームで、物語があったわけではないですから」
アニメ化の話も立ち上がってはいたため、数枚のストーリーボードはあった。しかし、あくまでイメージ程度のもので、物語の核はない。そのため、コミカライズのシナリオ担当である井沢ひろし氏と相談しながらストーリーを作り上げていったという。
「当時、まさか30年以上愛されるコンテンツになるとは思っていませんでしたね。先行してポケモンの人気に火がついていたこともあり、ジャンプが対抗する企画を考えてきたぞ……くらいの認識で(笑)」
そう語るやぶの先生だが、『デジモン』は大きなムーブメントを生むこととなる。その作り手の一人として、どんな思いでいたのだろうか。
「ありがたいとは思いつつ、この連載が終わったら次はどうしよう……という気持ちのほうが強かったですね。僕の未熟さゆえです。やっぱりこう、オリジナル作品ではないから手放しで喜べなかったというか。当時はコミカライズ作家として見られることへのコンプレックスが強かったのです」
現在は、自身のキャリアを作ってくれたコミカライズの仕事に喜びと誇りを持っていると語る一方、そのコンプレックスはなくならないままだという。
「決してマイナスな意味合いだけではありません。オリジナルの作品を描くぞ! という熱い思いを常に持っているということです。いつか皆さんにお届けできるように頑張ります」

コミカライズが担った“入り口”としての役割
『デジモン』と並ぶ代表作のひとつ『イナズマイレブン』について印象的だったのは、やぶの先生が「はじめて読む子ども」のことを強く意識していたことだ。事実、『イナズマイレブン』の漫画はゲームやアニメに先行して連載がスタートしたこともあり、子どもと『イナズマイレブン』との出会いが漫画になる可能性は大いにあった。
「漫画が人気だからゲームやアニメになったと誤解した子どもたちもいたと思います。それもあって、はじめて『イナズマイレブン』に触れる子のことを常に意識して描いていましたね。ゲーム開発元のレベルファイブさんの理解もありましたし、編集部が漫画として面白くなることを最優先においてサポートしてくれたのもありがたかった。わりと自由に、工夫と挑戦をさせてもらいました」
多数の魅力的なキャラクターが登場する『イナズマイレブン』。先生に好きなキャラクターを聞くと、まず名前が上がったのは栗松鉄平だ。
「ネットでいじられていたり、あまりファンからは好かれていない気もするんですが(笑)。『イナズマイレブン』の熱血要素を支えてくれているキャラクターだと思います。作品の世界観を背負っているという意味では、主人公の円堂守と鬼道有人でしょうか。鬼道はビジュアルがいいですよね。スタジアムに立っているだけで絵になりますし、『イナズマイレブン』という作品が“どこまでアリか”という線引きをしてくれたキャラクターでもあります」
その言葉を聞いて、鬼道が繰り出す「デスゾーン」のかっこよさに衝撃を受け、「皇帝ペンギン2号」に「ぺ、ペンギン?」と驚いた少年時代のことを思い出した。先生が言うとおり、鬼道の登場が『イナズマイレブン』の魅力を拡張し、後の展開を引っ張っていったと感じる。
「私も最初は、なんでペンギン? とは思いましたよ。漫画的にどう描こうか、どう整合性を取ろうか考えて、サッカーボールの黒と白の部分からペンギンが飛び出すような演出をしたり(笑)」
やぶの先生が手掛けてきたコミカライズは、決してメディアミックスの一つ、メインコンテンツの補助にとどまるものではない。『デジモン』も『イナズマイレブン』も、先生の漫画が子どもの入り口となった。両作が数十年にわたって愛されているのは、その出会いが鮮烈で、魅力的だったからだろう。日本を代表する2つのコンテンツに対し、やぶの先生が担った役割は果てしなく大きい。
○新刊情報
10月28日
『イナズマイレブンGO』完全版上巻
『イナズマイレブン 英雄たちのヴィクトリーロード』2巻
11月28日ごろ
『イナズマイレブンGO』完全版下巻
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