「痔だと思った」が重大事態に…大腸がんと痔を見分ける“違い”とは? 「自己判断で放置」の危険、専門医が警鐘
日本人の年間罹患者数が15万人を超え、全がんで最も多い「大腸がん」。最近では、元棋士で投資家の“桐谷さん”こと桐谷広人氏が大腸がんと前立腺がんを公表したほか、小説家の東野圭吾さんが大腸がんのため死去し、改めて関心が高まっている。早期に発見すれば治癒が期待できる一方、初期は自覚症状がほとんどないのが特徴だ。「痔だと思って放置していた」と勘違いしてしまうケースも少なくないという。どのような症状があれば受診するべきなのか。便潜血検査や大腸カメラを含めて、大腸がんと向き合うために知っておきたいポイントを、天王寺やすえ消化器内科・内視鏡クリニック院長の安江千尋医師に聞いた。

便通の変化も大腸がんを疑う重要なサイン
日本人の年間罹患者数が15万人を超え、全がんで最も多い「大腸がん」。最近では、元棋士で投資家の“桐谷さん”こと桐谷広人氏が大腸がんと前立腺がんを公表したほか、小説家の東野圭吾さんが大腸がんのため死去し、改めて関心が高まっている。早期に発見すれば治癒が期待できる一方、初期は自覚症状がほとんどないのが特徴だ。「痔だと思って放置していた」と勘違いしてしまうケースも少なくないという。どのような症状があれば受診するべきなのか。便潜血検査や大腸カメラを含めて、大腸がんと向き合うために知っておきたいポイントを、天王寺やすえ消化器内科・内視鏡クリニック院長の安江千尋医師に聞いた。
安江医師がまず強調するのは、「早期の大腸がんはほとんど症状がない」という点だ。「血便や腹痛がないからといって、大腸がんがないとは言えません。一方で、症状が現れた場合には、がんが進行している可能性もあります」。
重要なのは、「どの症状があるかだけではなく、これまでと違う変化が続くか、複数の症状を伴うかという点」を確認することだという。
大腸がんの代表的な症状には、血便、便秘や下痢などの便通異常、便が細くなる、残便感、腹痛、貧血、体重減少などがある。中でも注意したい症状の1つが「血便」。ただ、痔でも血便はみられるため、「痔があるから大丈夫」と自己判断してしまう人は少なくない。
「トイレットペーパーに血が付く、便に血が混じる、便器の水が赤くなるなど、血便にもさまざまな現れ方があります。痔でも血便はみられますが、血液の色や付き方だけで痔と大腸がんを見分けることはできません。直腸がんでは痔と同じような鮮血が出ることもあります。原因がはっきりしない血便があれば、少量でも一度は消化器内科を受診してください」。特に、血便を繰り返す、便通異常を伴うといった場合、40歳を過ぎて初めて血便が出たケースは、早めの受診が勧められる。
血便ほど目立たないものの、便通の変化も大腸がんを疑う重要なサインになる。
「便秘と下痢を繰り返す、残便感が続く、夜間に便意で目が覚める、血液や粘液を伴う、体重減少を伴う場合には消化器内科を受診してください。便通の変化だけでほかの症状がなければ短期間様子を見ることもできますが、血便や貧血、体重減少、強い腹痛を伴う場合は早めの受診が必要です」と説明する。

自己判断の危険性
「血便が出たけれど、痔だから大丈夫だと思った」──。実際の診療でも、このように勘違いしてしまう患者の例は珍しくないとのことだ。
症状そのものに男女差はほとんどないものの、受診が遅れる理由には違いがある。女性では「便秘や貧血は体質や月経のせい」と考え、男性では「血便は痔だろう」と考えてしまうケースが少なくない。
「男女とも、これまでと違う症状を自己判断で放置しないことが大切です。大腸がんは50歳代以降で増加しますが、40歳以上では毎年便潜血検査を受けることが推奨されています。一方、40歳未満でも、血便、原因不明の貧血、便通異常、体重減少、家族歴がある場合や、炎症性腸疾患・大腸ポリープの既往がある方は、年齢にかかわらず消化器内科へ相談してください」
受診のタイミングを迷う人も多いが、症状によって緊急性は異なる。「強い腹痛と腹部膨満」「便もガスも出ない」「繰り返す嘔吐」「大量の血便」「血便とともにふらつきや冷や汗がある」がある場合、当日中に救急受診。
一方、「原因不明の血便」「血便を繰り返す」「貧血や体重減少」「腹痛と便通異常が続く」「夜間の下痢や血液・粘液便」がある場合には、数日以内を目安に受診したい。
便秘や下痢、残便感、便が細くなるなど、これまでと異なる排便習慣の変化が続く場合には、一度医療機関への受診を検討しましょう。特に、血便や貧血、体重減少、強い腹痛を伴う場合には、様子を見ず、早めに医療機関を受診することが重要です。
便通の変化に隠されたサイン
安江医師によると、痔では鮮やかな赤い血がトイレットペーパーに付いたり、排便後に便器へ血が落ちたりすることが多く、切れ痔では排便時の痛みを伴う。一方、大腸がんでは便に血液や粘液が混じる、暗赤色の血便になる、便通異常や残便感を伴うなどの特徴がみられることがある。
しかし、こうした違いはあくまで傾向にすぎない。
「直腸がんでも鮮やかな赤い血が出ますし、痔でも便の表面に血が付くことがあります。『赤い血だから痔』『暗い血だから大腸がん』『痛いから痔』『痛くないから大丈夫』という判断はできません」
また、痔の薬を使って血便が止まったとしても、それだけで安心することはできない。
大腸がんからの出血は毎日続くわけではなく、一時的に止まることもある。薬を使ったタイミングと自然に出血が止まった時期が重なっただけという可能性もあり、「血が止まったから痔だった」と判断することは危険だ。
血便があった場合には、受診前に「いつから、何回出たか」「血の色や量」「便秘・下痢・残便感・細い便があるか」「腹痛、貧血、体重減少、疲れやすさを伴うか」などを確認しておくと診察の参考になる。可能であれば便の写真を撮影しておくことも役立つという。
さらに、痔がある人でも、初めて血便が出た場合や繰り返す場合、出血量が増えてきた場合、痔の治療をしても改善しない場合、40歳以上で血便が出た場合、便通異常や体重減少などを伴う場合には、大腸がんなど別の病気が隠れていないかを確認するため、一度消化器内科を受診した方がよいとのことだ。
大腸がんの早期発見に欠かせないのが便潜血検査。便潜血検査は2日分の便を調べるが、安江医師は「1日だけ陽性でも大腸カメラによる精密検査が必要です」と強調する。
「大腸がんやポリープは毎日出血するわけではありません。もう1日は陰性だった、再検査で陰性だった、痔があるから陽性だっただけ、という理由で安心することはできません」
実際、1日だけ陽性だった人でも約1%に大腸がん、約20%に10ミリ以上の高リスクポリープが見つかったとの報告がある。実際に診療した患者の中には、50代の男性で、以前から痔があることを理由に、鮮血が出ても半年以上受診しなかった人がいたという。しかし、便が細くなり、排便後もすっきりしない残便感も現れたため、大腸カメラを受けたところ、直腸がんが見つかった。
「この症例で重要なのは、血液の色ではなく、それまでになかった便通の変化が加わったことです」
さらに、この男性は毎年便潜血検査を受けていたものの、一度も陽性になったことがなかった。
「便潜血検査は有用ですが、すべての大腸がんを見つけられるわけではありません。症状がある場合は、便潜血検査が陰性でも大腸カメラを検討することが大切です。血便があるから必ず大腸がんというわけではありません。しかし、『痔だろう』と自己判断することも危険です。大切なのは、自分で痔か大腸がんかを見分けようとするのではなく、『大腸がんではないことを確認する』という意識で早めに受診することです」
便を流す前に5つのポイント
また、日頃から便の状態を観察することも、大腸がんをはじめとする消化器の病気を早期に見つけるために役に立つ。
「毎日出なくても、必ずしも便秘ではない」。大切なのは、排便回数だけではなく、「いつもの自分」と比べて変化がないかを確認すること。安江医師は、便を流す前に5つのポイントを確認してほしいと話す。
1つ目は「回数」。急に排便回数が減ったり、反対に何度もトイレへ行くようになったり、夜中に便意で目が覚めるようになった場合には注意が必要。
2つ目は「形」。理想的なのは、表面がなめらかで適度な硬さのバナナ状の便。
3つ目は「色」。通常は黄褐色から茶褐色だが、赤い血が付着している場合や暗赤色の血が混じる場合、黒色便が続く場合には医療機関へ相談した方がよい。
4つ目は「血液や粘液の有無」。透明・白っぽいゼリー状の粘液が繰り返し混じる場合には、大腸がんだけでなく炎症性腸疾患や腫瘍などの可能性もある。
5つ目は「排便後の感覚」。強くいきむ、排便に長時間かかる、何度もトイレへ行く、便意があるのに少量しか出ない、残便感が続くといった変化も受診の目安になる。
便通に変化を感じた場合には、1~2週間程度、排便した日時や便の形、血液や粘液の有無、腹痛や残便感、服用した便秘薬などを記録しておくと診察時に役立つ。
大腸がん対策として、禁煙や節酒、適正体重の維持、運動、食物繊維を取り入れたバランスの良い食事は、大腸がんのリスクを下げるために重要とされている。しかし、それだけで大腸がんを完全に防げるわけではない。
安江医師が訴えるのは検診を受けることだ。国の大腸がん検診では、40歳以上の男女に年1回の便潜血検査が推奨されている。毎年継続して受けることが大切だという。
「便潜血検査は、基本的に症状のない人が受ける検診です。すでに血便、明らかな便通の変化、原因不明の貧血、体重減少、続く腹痛や腹部膨満がある場合は、健康診断を待たずに医療機関を受診してください。症状がある人では、便潜血検査が陰性でも大腸がんを否定できず、大腸カメラが必要になることがあります」
大腸カメラは、大腸全体を直接観察できるほか、将来がんになる可能性のあるポリープを、その場で切除できる場合もある。そのため、早期発見だけでなく、「予防」という役割も担っている。また、「痛そう」「下剤がつらそう」「恥ずかしい」といった理由で検査をためらう人も少なくないが、現在では鎮静剤を使用したり、下剤の種類を選べたりするなど、負担を軽減する方法も増えているという。
最後に安江医師は、40歳を過ぎた人に改めて問いかける。「便潜血陽性を怖がるのではなく、早く見つけられる機会と考える。大腸がんは身近ながんですが、適切な検診、精密検査、ポリープ切除によって、早期発見や予防につなげられる可能性があります。40歳を過ぎた方は、まず今年の便潜血検査を受けたか確認してください。そして、便潜血陽性を放置している方や、原因不明の血便・貧血がある方は、早めに消化器内科へ相談してください。その一歩が、ご自身の命だけでなく、仕事や日常生活、ご家族との時間を守ることにつながります」と話している。
天王寺やすえ消化器内科・内視鏡クリニック https://www.tennoji-naishikyo.com/
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