老舗銭湯が工具盗難でお湯なしに…常連客のために、まさかの無料開放「水でよければ」
銭湯なのに、出るのは水だけ――。工事業者の工具が盗まれ、湯を沸かせなくなるという思わぬアクシデントに見舞われた老舗銭湯が、全浴槽に水を張って「無料開放」するという粋な計らいに出た。その背景には、常連客を思う気持ちがあった。異例の営業に踏み切った経緯や利用客の反応を、話題になった銭湯に聞いた。

釜交換は完了目前、仕上げに必要な工具が盗まれる
銭湯なのに、出るのは水だけ――。工事業者の工具が盗まれ、湯を沸かせなくなるという思わぬアクシデントに見舞われた老舗銭湯が、全浴槽に水を張って「無料開放」するという粋な計らいに出た。その背景には、常連客を思う気持ちがあった。異例の営業に踏み切った経緯や利用客の反応を、話題になった銭湯に聞いた。
「申し訳ございません。本日は、お湯がありません。全湯船が水です。代金は頂戴いたしません。水浴びでよければおこしください。サウナは問題なしです」
7月16日、こうXに投稿したのは東京都墨田区にある銭湯「松の湯」(@sentoyoitoko)の公式アカウント。60年以上にわたって地域住民に親しまれており、高い天井とタイル絵、昔ながらの薪で沸かすお湯が特徴の老舗銭湯だ。美容系入浴剤の日替わり薬湯、寝湯ジャグジー、電気風呂、無料のミストサウナなどがそろっている。
異例の「全湯船が水」という事態の発端は、湯を沸かす釜の故障だった。釜は約3年前に交換したばかりだったが、水漏れが発生。当初は補修する予定だったものの、修理では対応できない損傷だと分かり、再び入れ替えることになった。
7月14、15日の2日間休業し、工事から交換後の試しだきまで終える予定だった。松の湯は年中無休を掲げており、地元の人々の「生活銭湯」として利用されているため、2日間の休業は大きな出来事だった。
15日夕方、外出していた投稿者のもとに工事業者から「帰りを待っている」と電話が入った。釜を交換した後の稼働確認だと思って戻ると、思いも寄らない報告を受けた。店の前に止めていたトラックの荷台から、業者の工具が盗まれたのだ。
その工具がないと、釜と煙突をつなぐために鉄板を切断する最後の仕上げができない。同じ工具は当日中に確保できなかったが、16日朝に用意できれば、午後から釜に火を入れ、午後3時の開店に間に合わせられる可能性があった。
「水でよければ」常連客を思い全浴槽を無料開放
ところが、16日昼過ぎになって、工具が届くのは17日朝になることが分かった。広島からバイク便で運ばれることになった。
もう1日休業するという選択肢もあった。だが頭に浮かんだのは、銭湯を一日の楽しみにしながら、すでに2日間来られずにいる常連客のことだった。そこで、全浴槽に水を張り、入浴料を取らずに「無料開放」することを決めた。サウナは通常通り利用できた。
「入浴を楽しみにしているだろう常連さんに、『ごめん、水でよければ水浴びしていって』というのは自然な感情でした」
夏とはいえ、銭湯の湯船がすべて水という異例の営業。利用客の反応は、男女で大きく分かれたという。
「女性の常連さんは『お湯がなきゃ……』と、8割ほどが帰りました。男性は『暑いから水でもよいぞ』と、9割ほどが水浴びしていってくれました」
工具は17日朝に到着。作業中にはアクシデントが重なったというが、何とか開店時間に間に合い、同日午後3時から通常通りの営業を再開した。
松の湯は、下町にある昔ながらの銭湯の情緒を残しながら、音楽ライブなどのイベントも開催し、地域の人々が集う場にもなっている。工具の盗難で湯が沸かせないという災難に見舞われても、「水でよければ」と常連客を迎えた判断には、地域に根差した銭湯ならではの人情がにじんでいた。
あなたの“気になる”を教えてください