『テレ東音楽祭』衝撃企画の裏側 “伝説”やダチョウ登場…画期的な演出が生んだ「目撃体験」
今年も夏の音楽特番が各局で放送された。それぞれ趣向を凝らして視聴者を楽しませた中、6月28日に4時間半に渡って生放送されたテレビ東京系『テレ東音楽祭 2026夏』はSNSを中心に大きな反響を呼んだ。従来の音楽特番とは一線を画した個性的な企画や演出の数々は、どのように生まれたのか。テレビ東京の大森時生プロデューサーに話を聞いた。

異例の注目集めた音楽特番『テレ東音楽祭 2026夏』
今年も夏の音楽特番が各局で放送された。それぞれ趣向を凝らして視聴者を楽しませた中、6月28日に4時間半に渡って生放送されたテレビ東京系『テレ東音楽祭 2026夏』はSNSを中心に大きな反響を呼んだ。従来の音楽特番とは一線を画した個性的な企画や演出の数々は、どのように生まれたのか。テレビ東京の大森時生プロデューサーに話を聞いた。(取材・文=鍬田美穂)
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異例ともいえる注目を集めたのは、音楽特番として画期的ともいえる企画の数々だ。名作ドラマの主題歌企画では、他局ドラマをコーナー化し、出演俳優らによるパフォーマンスの“見守りシステム”を導入したほか、一部の楽曲は本人ではなくドラマ出演者がカバー歌唱。また、「いしだ壱成はトルコで植毛に成功した」「赤井英和は一度に焼き芋を100個買ったことがある」など、思わず笑ってしまう出演者の“伝説”テロップは、ネットを大きくざわつかせた。
普段は『バカリズムのちょっとバカりハカってみた!』(水曜午後8時40分)などを手掛ける大森氏は、同局の制作局が総力戦となる『テレ東音楽祭 2026夏』の現場で演出を担当。今回の企画や演出の背景について、語ってくれた。
――今までの『テレ東音楽祭』の要素もありつつ、従来の“懐かしのヒットソング”とは一線を画す番組作りが、多くの視聴者のツボにハマりました。どんな狙いやコンセプトで、今夏の企画が作られたのでしょうか?
「これまでの『テレ東音楽祭』が持っていた、今のヒット曲から往年の名曲までが同居する祝祭感や、意外な場所からの中継といった要素は残しながら、今回は音楽と人の記憶がもう一度結び付くような番組にしたいと考えていました。
僕は、今の音楽環境は、あらゆるものがフラットに並ぶ世界になっていると思います。Spotifyでは昨日発表された新曲と40年前の曲が同じ大きさのジャケットで並び、TikTokでは発売された年代も知らないまま、楽曲の一部分だけが突然広がっていく。すべてが等価な“メタデータ”として流れてくるんですよね。その状態は自由である一方で、文脈が失われた世界でもあります。なぜその曲が生まれ、誰がどこで聴き、どんな時代を生きていたのかが見えなくなってしまう。だからこそ逆に、人はノスタルジーを求めるのかもしれません。
先の見えにくい時代に、実際の過去へ戻りたいというより、過去の断片の中に、かつて未来が存在していたような感触を探している感じ。そこで、ただ過去の映像を再生するのではなく、古い曲やCM、ドラマ、当時の出演者といった記憶の断片を、現在のテレビの中で編集し直す。髙嶋政伸さんが主演した『HOTEL』の主題歌を歌い、FIELD OF VIEWさんの『突然』をCMに出演した中山エミリさんとダチョウが見守ることで、過去は資料ではなく、今ここで起きている出来事になる。メタデータになってしまった曲に、もう一度身体と文脈を与えることが、音楽番組にできるのではないかと考えました」
ダチョウまで登場させた“こだわり”
――名作ドラマの主題歌では、あえて他局ドラマをコーナー化したのが印象的です。
「視聴者の記憶には、放送局ごとの境界線は引かれていないと思うんです。『スクール☆ウォーズ』や『HOTEL』『高校教師』を見ていた時の記憶は、どの局の作品だったかということ以上に、その人自身の人生の一部として残っている。また、今はコンテンツの選択肢が非常に多いので、知らない曲をただ歌ってもらうだけでは、魅力にたどり着けない可能性があります。でも、出演した俳優がドラマの主題歌を歌う、当時の出演者が歌唱を見守るという文脈があれば、それを防げるのではないかと。ドラマは、音楽に入ってもらうための非常に強い補助線でもありました」
――カバー歌唱の人選、ドラマ出演者やCM出演者などの“見守り”キャスト、歌振りゲストは、どんな基準で決めたのですか?
「一文で説明したときに『それは見たい』と思えるかどうかです。単に有名な方を集めるのではなく、楽曲そのものの良さ、多くの人が共有する記憶、そして今その人が歌うことの違和感。この3つが重なる組み合わせを探しました。
例えば、『HOTEL』主演の髙嶋政伸さんが主題歌『LET THE RIVER RUN』を歌う。『高校教師』に出演していた赤井英和さんが『ぼくたちの失敗』を歌う。そのドラマを詳しく知らなくても、作品に深く関係した方が長い時間を経て主題歌を歌うという構図自体に、見どころがあると思いました。そして何より、僕が直感的に、『良い!』と思えるものにしました」
――アーティスト以外のキャスティングには、難しさがあったと思います。苦労した点やこだわったポイントを教えてください。
「今回のキャスティングは、1人ずつ独立して考えられるものではなかったので、そこが一番難しかったです。歌手、ドラマ出演者、CM出演者の関係がそろって初めて企画の意味が立ち上がる。誰かが難しい場合に、別の方で置き換えれば成立するというものではありませんでした。
特にFIELD OF VIEWさんの『突然』は、中山エミリさんに登場していただくだけでも十分に記憶はよみがえりますが、当時の『ポカリスエット』のCMを再現するなら、やはりダチョウまでいてほしいと思ったんです。パネルやCGではなく、本物のダチョウがスタジオにいることで、単なる再現を超えて、現在のテレビでしか起こらない“目撃体験”になると考えました」

ツボる人続出した“伝説”テロップ採用基準
――テレビ東京の選挙特番を彷彿(ほうふつ)とさせる“伝説”テロップが、ツボに入る人が続出しました。このネタ的ともいえる要素の採用基準は、どう決めたのでしょう?
「今回のテーマが『歌の伝説』だったので、歌唱中にも出演者それぞれの“伝説”を表示しようと考えました。ただ、すべてを偉業や輝かしい経歴にすると、少し堅くなってしまう。そこで、赤井英和さんの『焼き芋を100個買ったことがある』のような、一見すると音楽とは関係のない個人的なエピソードも、同じ重さで“伝説”として扱いました」
――鈴木おさむ氏がXで各企画・演出を解説して絶賛したほか、通常の音楽特番と比べて圧倒的にSNSで話題が広がりました。改めて、こうした反響をどう感じていますか?
「ここまで大きな反響をいただけるとは思っていなかったので、純粋にうれしかったです。鈴木おさむさんから『テレビ界に大きな事件が起きました』とまで言っていただいたのは、さすがに恐縮しました。ただ、視聴者の方々がダチョウや“伝説”テロップ、俳優の方による主題歌のカバーなど、それぞれ違うポイントを自分の言葉で誰かに説明してくださっていたことが、特に印象に残っています。
今回目指していたのは、番組を見た人の中で音楽と記憶が結び付き、それを誰かに話したくなる状態でした。『このCMを覚えている』『このドラマを見ていた』という声だけでなく、『曲も本人も知らなかったけれど面白かった』『初めて聴いたけれどいい曲だった』という反応があったことにも、素直にうれしかったです。
もし今回の番組が“事件”に見えたのだとすれば、それはテレビが久しぶりに、多くの人にとって同時に目撃する対象になれたからかもしれません。個人ごとに分断されたタイムラインの中では得にくくなった、“誰かと共有できる過去”が話題につながり、瞬間的なバズというより、見た後に記憶や会話が少しずつ連鎖していく、遅効性のある話題化だったのも印象的です。テレビにはまだ、知らない者同士が同じものを見て、『今のは何だったんだろう』と話し始める公共空間のような力が残っている。その可能性を、視聴者の皆さんの反応によって教えてもらえた気がします」
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