30歳でフリーに「失う怖さがなくなった」 山下リオ、何度もどん底を経験し手に入れた強固な軸

映画『遺愛』(公開中、酒井善三監督)で、狂気へと蝕まれていく女性を圧巻の演技で体現した俳優・山下リオ(33)。2006年のデビューから約20年。数々の映画やドラマで活躍してきたが、その道のりは決して平坦ではなかった。自身のキャリアを振り返った山下は、「もう一度新しい自分に……って言いつつ何度も。自分の中でも3回ぐらい人格が変わってる感覚があって」と語る。現在の彼女を形作ったのは、幾度もの挫折と、30歳で下した大きな決断だった。

インタビューに応じた山下リオ【写真:Jumpei Yamada】
インタビューに応じた山下リオ【写真:Jumpei Yamada】

公開中の映画『遺愛』で圧倒的な演技披露

 映画『遺愛』(公開中、酒井善三監督)で、狂気へと蝕まれていく女性を圧巻の演技で体現した俳優・山下リオ(33)。2006年のデビューから約20年。数々の映画やドラマで活躍してきたが、その道のりは決して平坦ではなかった。自身のキャリアを振り返った山下は、「もう一度新しい自分に……って言いつつ何度も。自分の中でも3回ぐらい人格が変わってる感覚があって」と語る。現在の彼女を形作ったのは、幾度もの挫折と、30歳で下した大きな決断だった。(取材・文=平辻哲也)

 キャリアの転機について尋ねると、山下は「仕事で言うと、濱口(竜介)さんの作品に出させていただいてから、映画や芝居に対する意識が変わっていった」と振り返る。

 山下が出演したのは、柴崎友香原作の映画『寝ても覚めても』(18年)。同じ顔をした2人の男性の間で揺れ動く女性を描いた作品で、山下はヒロインの友人役を演じた。

 その頃を含め、これまでの俳優人生には何度も大きな壁があったという。

「もう一度新しい自分に……って言いつつ何度も。自分の中でも3回ぐらい人格が変わってる感覚があって。どん底を経験するたびに、はい上がらないと生きていけないから、自分で変えてるんでしょうね」

 穏やかな語り口ながら、その言葉からは、何度も自分自身を壊し、再構築してきた歩みがにじむ。

 大きな転機となったのは30歳の時だった。長年所属した事務所を離れ、フリーランスとして活動を開始。今年からは新たな事務所でエージェント制で活動しており、自ら仕事をマネジメントするスタイルを続けている。

「30歳でフリーになって、圧倒的に環境や見るものが変わりました。自分がスタッフとして動いているからこそ、見えてくるものがあったりして」

 俳優としてだけでなく、作品づくり全体を見る立場になったことで、価値観にも変化が生まれた。

「見える世界が大きく変わったし、それまでどこかふわふわしていた自分の軸みたいなものが、強固になった気がします。でも、それは思考を固めることではなくて、むしろ頭でっかちな自分から自由になれた感覚があるんです。一度、死んだような気持ちを味わっているからこそ、いろいろなことに対する恐れが薄れたというか。『失うこと』への怖さがなくなったのかもしれません」

キャリアの転機についても語った【写真:Jumpei Yamada】
キャリアの転機についても語った【写真:Jumpei Yamada】

酒井善三監督との共通項「まるで蛇に睨まれたような感覚に」

 世間的には、NHK連続テレビ小説『あまちゃん』(13年)の印象が強いかもしれない。しかし本人にとっては、同時期に撮影したドラマ『リミット』も忘れがたい作品だという。受け身だった時代を経て、自らの意思で仕事に向き合うようになった今、現場で感じるものも変わったという。

「みんなでとにかく良いものを作ろうという純粋な気持ちやワクワク感を、以前にも増して実感できている感覚があります。コミュニケーションの量も圧倒的に増えましたし、失敗したり恥をかいたりすることを恐れるよりも、とにかく作品を良くするために動こうという意識が強くなりました。極端な言い方かもしれませんが、『命をかけてでもやるぞ』くらいの熱量は、今まで以上にあるのかもしれません」

 最新作『遺愛』でタッグを組んだ酒井善三監督には、濱口監督にも通じる魅力を感じたという。

「人の心を見透かすような目を持っているという点で、お二人は似ているかもしれません。普段はとても優しい方たちなんですが、ふと目が合った瞬間、まるで蛇に睨まれたような感覚になることがあるんです」

 その底知れなさこそが、作り手としての魅力かもしれないと語る。

「こちらからは何を考えているのか読み取れないようなすごみがあるんです。その感覚にゾクゾクするし、同時にワクワクもします。この人の頭の中はどうなっているんだろうと、つい知りたくなってしまう。その強烈な吸引力が、お二人には共通しているのだと思います」

 濱口監督作品への再登板について尋ねると、「また人生の転換期にお会いしたい方です。またいつかご一緒できるように、この仕事をやり続けたいし、そうなれるよう頑張り続けたいですね」と笑顔を見せた。幾度もの“どん底”を乗り越え、自ら環境を変えながら歩んできた山下リオ。その瞳には、迷いのない光が宿っていた。

□山下リオ(やました・りお)1992年10月10日、徳島県出身。2007年に「三井のリハウス」12代目リハウスガールに選ばれ、ファッション誌の専属モデルを経て同年より本格的に俳優デビューを果たした。08年にはドラマ『ラブレター』や映画『魔法遣いに大切なこと』で主演を務めている。代表的な出演作にNHK連続テレビ小説『あまちゃん』(13年)、映画『あのこは貴族』(21年)、『寝ても覚めても』(18年)、主演映画『雪子 a.k.a.』(25年)など。趣味は一人旅や写真撮影、特技は手話や歌うことなど。

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