山下リオ、ホラー映画主演で本物の怪奇現象「幽霊がついているのも分かった」 壮絶な撮影現場を激白
俳優の山下リオがホラー映画『遺愛』(6月19日公開、酒井善三監督)に主演した。昨年、異例のロングランヒットとなった『雪子 a.k.a.』での熱演も記憶に新しい山下だが、本作のオファーを受けた当初は、脚本の意図をつかみかねたという。

難解な脚本と曖昧な演出に挑んだホラー映画『遺愛』の独特な魅力
俳優の山下リオがホラー映画『遺愛』(6月19日公開、酒井善三監督)に主演した。昨年、異例のロングランヒットとなった『雪子 a.k.a.』での熱演も記憶に新しい山下だが、本作のオファーを受けた当初は、脚本の意図をつかみかねたという。(取材・文=平辻哲也)
2025年1月、単館系の規模からスタートしながら口コミで熱狂を広げ、公開から3か月後には大手シネコンで追加上映されるなど、異例のロングランヒットを記録した映画『雪子 a.k.a.』。漠然とした不安を抱える29歳の小学校教師が、ラップを通して自分自身と向き合う姿を熱演し、同世代からの圧倒的な共感を呼び話題となった。そんな山下が次なる主演作として選択したのは、意外にもホラー映画だった。
愛すべき家族がある日を境に、忌まわしい存在へと変わっていく。本作で演じたのは、母の介護に疲れ、次第に得体の知れない“何か”に追い詰められていく主人公・藤井佳奈。観客は主人公が正気なのか、それとも、妄想にとらわれてしまったのか。どちらか分からないまま、物語に引き込まれていく……。
監督は短編映画『カウンセラー』(2021年)がSKIPシティ国際Dシネマ映画祭で、短編映画としては初となるSKIPシティアワードを受賞し、黒沢清や清水崇といった著名監督からも絶賛された新鋭だ。
「脚本を読んだ時は、正直あまり理解できなかったんです。『これは一体なんなんだろう?』という感覚で。実際、理解するまでに3、4回は読み返して、ようやく『こういうことか』と腑に落ちました。酒井監督とは今回が初めてだったのですが、脚本を読んでいるうちに『この方の脳みその中はどうなっているんだろう』とすごく興味が湧いてきて。ホラー作品への出演経験はありましたが、いわゆる分かりやすいホラーではなくて、この作品にはどこか歪さというか、不思議な魅力があったんです。その独特な世界観に強く惹かれて、『ぜひ参加させてください』とお返事しました」
撮影現場での酒井監督は、役者に対して明確な答えを提示しない演出スタイルだった。山下は監督に対して、自ら構築した演技プランを段取り(テスト)でぶつけるように挑んでいった。
「現場で酒井監督に『これってこういうことなんですか?』と聞いても、いつも曖昧な返事で、はっきりとは教えてくださらないんですよ。お客様もそうだと思うんですが、私自身消化できないものとしてすごく気になってしまう。そこで自分なりに裏読みをし、佳奈としての思考や心の道筋は明確に用意しつつも、監督が導く方に動ける曖昧さは持ったままで現場に臨んでいました」
佳奈は、認知症の母を介護する中で次第におかしくなっていくという難役だ。33歳の山下にとっては少し遠い設定のようにも思えるが、彼女自身は祖父母と過ごす時間が多く、幼い頃からかわいがってもらったこともあり、「祖父母の介護は自分がしてもいいと思っていたくらいで、他人事じゃないと思っていた」と語る。
「極限状態で佳奈が取った行動は、彼女なりの道理にかなった正義感や愛情の延長線上にあるものだと思っています。だからこそ、とても人間らしい人物だと感じながら演じていました」
作中では母親がどこか空っぽに見える一方で、佳奈自身もまた、満たされないものを抱えた人間のように映る。山下は、佳奈が母に注ごうとする愛情について「本当に母のためなのか、それとも自分自身を満たすためなのか、次第に境界が曖昧になっていく」と捉えていた。
「その愛情はだんだんと得体の知れないものへと変化していき、もはや愛なのか呪いなのか、自分でも分からなくなってしまう。理解が追いつかないからこそ、考えるより先に身体が動いてしまうような感覚があって、まるで何かに突き動かされているようでした。そういう人間の危うさや切実さが、私にはすごくリアルに感じられました」
そんな過酷な役作りに加え、山下を苦しめたのが現場を覆う目に見えない“重さ”だった。実は自認するほど霊感があるという。かつては役を引きずり苦しんでいたため、本作では意識してオンオフの切り替えを心がけていたというが、今回はそうもいかなかった。「家に帰って、勝手に物が動いたり、自分にいろんな幽霊がついているのも分かっていました」と衝撃的な体験を事もなげに明かす。

酒井監督は現実主義者「目に見えない世界は信じていない」
面白いのは、酒井監督が「目に見えない世界は信じていない」と言い切る現実主義者だということだ。真逆の性質を持つ2人だが、山下は自身にふりかかるネガティブな重さや悪の根源のような感覚を、一応は抗いながらも最終的には「映画にどんどん乗っけていった」という。
「クランクアップまでは、もう『呪うならどうぞ』と(笑)。その方が、きっと素敵な恐怖映画になるだろうとも思ったし、自分の身体を作品に預けるような諦めにも近い境地だったかもしれません」
劇中の出来事は、果たして呪いなのか、それとも限界を迎えた精神が生み出した妄想なのか。観客の現実感覚すらも揺さぶる本作の魅力について、山下は不敵な笑みを浮かべる。
「佳奈の解釈は明確にあるけれど、私自身は答えを持っていませんし、酒井監督が明確な答えを持っているのかどうかも分かりません。でも、こういう種類の恐怖を描いた映画はなかなかないと思います。映画館で見終わった後、『自分の存在を信じていいのか』『これは夢だったのではないか』と不安になるような。信じれば信じられるし、疑えば疑える。その人間の精神状態の限界点、2つの極地を体感できる映画になっていると思います」
「怖いものは何か」を尋ねてみた。すると、「霊はもう怖くないんですよ。めっちゃけんかしますから」と頼もしい答えが返ってきた。強いて言えば、と前置きして「自分の愛を注ぐ人がいなくなった時ですかね」と静かに語った。その表情には、得体の知れないものに立ち向かい、打ち勝ってきた俳優としての強さがにじみ出ていた。
■山下リオ(やました・りお)は、1992年10月10日生まれ、徳島県出身。2007年に「三井のリハウス」12代目リハウスガールに選ばれ、ファッション誌の専属モデルを経て同年より本格的に俳優デビューを果たした。2008年にはドラマ『ラブレター』や映画『魔法遣いに大切なこと』で主演を務めている。代表的な出演作にNHK連続テレビ小説『あまちゃん』(2013年)、映画『あのこは貴族』(2021年)、『寝ても覚めても』(2018年)、主演映画『雪子 a.k.a.』(2025年)など。趣味は一人旅や写真撮影、特技は手話や歌うことなど。
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