なぜ中居正広を“出禁”にしなかったのか…「フジの初動に疑問」と元テレ朝法務部長

タレントの中居正広が20代女性との間で「性的トラブル」を起こし、示談金として9000万円を支払ったとする報道が、波紋を広げている。レギュラー番組が次々放送見合わせとなり、ついに今月9日、中居本人がトラブルの存在を認めるコメントを発表するに至った。なぜ、このような事態に発展したのか。中居と女性の接点は「フジテレビでの仕事」と報じられる中、フジテレビの「初動」について、元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士は疑問点を指摘した。

西脇亨輔弁護士
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西脇亨輔弁護士「守るべきは被害女性」

 タレントの中居正広が20代女性との間で「性的トラブル」を起こし、示談金として9000万円を支払ったとする報道が、波紋を広げている。レギュラー番組が次々放送見合わせとなり、ついに今月9日、中居本人がトラブルの存在を認めるコメントを発表するに至った。なぜ、このような事態に発展したのか。中居と女性の接点は「フジテレビでの仕事」と報じられる中、フジテレビの「初動」について、元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士は疑問点を指摘した。

 何ごとも「初動」は大切だ。特にトラブル対応では、最初の対応の間違いが取り返しのつかない結果を招く。その意味で私は、中居正広氏の問題を巡る「初動」にある疑問を感じた。

 なぜ、フジテレビは事件を知った時に、中居氏を「出入り禁止」にしなかったのだろうか。

 被害女性の身に何が起きたのかは今回発表された中居氏のコメントでも公表されていないが、8日発売の週刊文春は「女性は事件後すぐにフジテレビ側に性的トラブルを報告した」と伝え、フジテレビもこれを明確に否定してはいない。仮に報道が事実なら、フジテレビは事件直後には、共に働く仲間が深刻な性的トラブルにあったと把握していたことになる。だとしたら、その加害者を会社が放置したり、黙認することは許されない。会社には働く人への加害をなくし、安全な職場を作る「安全配慮義務」があるからだ。

 だが、実際はどうだったか。フジテレビは「女性から性的トラブルの訴えを受けた」と報じられている時点の後も、中居氏の起用を止めてはいなかった。事件が起きたとされるのは2023年6月。中居氏が松本人志氏と共演する『まつもtoなかい』が同年4月にレギュラー番組化してから、約2か月後のことだった。この番組は事件後も変わらず放送され続け、さらに24年1月に松本氏が性加害報道を巡る裁判で活動を休止すると『だれかtoなかい』に名前を変え、中居氏に頼る比重はさらに高まった。他にも同年のパリ五輪の特番やプロ野球特番をはじめ、事件が起きてからこれまでの約1年半、フジテレビは「事件を知って」いながら、中居氏をキャスティングし続け中居氏の人気が同社にもたらす利益は、大きかったのであろう。

 一方で被害女性にとっては、この約1年半はどんな日々だったのか。報道によると、女性はPTSD(心的外傷後ストレス障害)に悩まされて入院を余儀なくされ、フジテレビでの仕事もなくなったという。

 しかし、事件を知った時にフジテレビが守るべきだったのは、中居氏ではなく、被害女性だったのではないか。そして、この時に女性を守ることを最優先にしなかったことが女性の不信感を強め、今日の混迷の一因となったのではないか。

 私は、フジテレビは「初動」で中居氏や中居氏と親密だった会社関係者から徹底して事情聴取し、加害行為が確認されたら中居氏側に厳重に抗議し、「出入り禁止」を含む厳しい措置を、被害女性の希望も聞きながら検討すべきだったと考える。

 トラブルの加害者を「出入り禁止」にすることは、どんな会社でもある。テレビ局も例外ではなく、大物芸能人でも特定の局の番組には長年出演していなかったという例は散見される。もし、深刻な性的トラブルが中居氏と女性の間にあったのなら、会社は真っ先に「中居氏の出禁」を考えるのが自然だろう。一緒に働く仲間が酷く傷つけられたのに加害者を放ってはおけないし、加害行為は許さないというメッセージを相手に明確に伝える必要もあるからだ。女性のプライバシーに配慮して目立たないようにするなら、番組改編期などのタイミングでさりげなく中居氏との取り引きを止めることもできる。

誰も望んでいなかった現在地 「真の解決」に必要なこと

 こうした毅然とした態度は被害女性に「会社はあなたを守る」というメッセージを伝えることにもなる。逆に中居氏やその関係者と変わりなく付き合うことは「会社は大物芸能人を選び、自分は切り捨てられた」と被害女性に感じさせ、事件の真の解決を遠ざけかねない。

 しかし今回、フジテレビが被害女性を最優先にした「初動」をしたのかというと疑問が残る。報道によれば、同社は中居氏から事件の事実関係を聴取することさえしていないという。被害女性は中居氏と親密な同社幹部の責任も指摘したが、関係者の対応は鈍かったとも報じられている。もしそうなら、被害女性が「自分の訴えは聞き流された」と感じても無理はない。

 その結果、現在どうなっているか。中居氏は、9000万円ともいわれる解決金で解決したと思っていた事件が再燃し、フジテレビどころか全局のレギュラー番組休止に追い込まれている。フジテレビは、女性と向き合った対応をしていたのかどうか厳しい目を向けられている。そして、被害女性は被害の苦しみと怒りを訴え続けている。こんな現在地は、誰も望んでいなかったはずだ。

 事態は混迷を深め先は見えないが、今後、どんな展開になるにせよ、被害女性の思いに寄り添うことだけは忘れてはいけない。そして、なぜこんなことになったのか事実関係を徹底的に調べるべきだろう。その先にしか「真の解決」はないと思う。

□西脇亨輔(にしわき・きょうすけ)1970年10月5日、千葉・八千代市生まれ。東京大法学部在学中の92年に司法試験合格。司法修習を終えた後、95年4月にアナウンサーとしてテレビ朝日に入社。『ニュースステーション』『やじうま』『ワイドスクランブル』などの番組を担当した後、2007年に法務部へ異動。社内問題解決に加え社外の刑事事件も担当し、強制わいせつ罪、覚せい剤取締法違反などの事件で被告を無罪に導いた。23年3月、国際政治学者の三浦瑠麗氏を提訴した名誉毀損裁判で勝訴確定。同6月、『孤闘 三浦瑠麗裁判1345日』(幻冬舎刊)を上梓。同7月、法務部長に昇進するも「木原事件」の取材を進めることも踏まえ、同11月にテレビ朝日を自主退職。同月、西脇亨輔法律事務所を設立。昨年4月末には、YouTube『西脇亨輔チャンネル』を開設した。

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