「ここまで伸ばしたことはない」無精ひげに挑戦 破天荒僧侶役の市原隼人の新境地

破天荒な僧侶の役柄の先に見つけたものは、「本来あるべき、人間臭さ」だった。11月1日全国公開の映画「喝風太郎!!」に主演した市原隼人(32)。端正なマスクの実力派俳優が、ぼろぼろの袈裟で伸び放題の無精ひげ姿に“変身"。悩める現代人に「喝」を入れ、人生を導く風太郎を演じた市原に、役に込めた思いや人生観、俳優としての今後について聞いた。

映画「喝風太郎!!」で主演を務めた市原隼人【写真:山口比佐夫】
映画「喝風太郎!!」で主演を務めた市原隼人【写真:山口比佐夫】

映画「喝風太郎!!」主演 寝ても覚めても般若心経、護摩行…徹底した役作り

 破天荒な僧侶の役柄の先に見つけたものは、「本来あるべき、人間臭さ」だった。11月1日全国公開の映画「喝風太郎!!」に主演した市原隼人(32)。端正なマスクの実力派俳優が、ぼろぼろの袈裟で伸び放題の無精ひげ姿に“変身”。悩める現代人に「喝」を入れ、人生を導く風太郎を演じた市原に、役に込めた思いや人生観、俳優としての今後について聞いた。

 <本宮ひろ志の人気漫画が原作の本作。長年の修行を終え、山奥の寺から町へ降り立った風太郎。破天荒で自由勝手な風太郎に、出会う人々は振り回されていく。つらい過去を背負いながらも金儲けを企てる健司(藤田富)、社畜サラリーマンの高平(近藤芳正)、ネット依存の詩織(工藤綾乃)、ホームレスの炊き出し活動を行う麻季(鶴田真由)と出会い……。重厚な人間ドラマが絡み合うストーリーだ>

――風太郎を演じてみてどのように感じましたか。

「風太郎は破天荒であり、傍から見ると自分の気持ちを押し通し、周りに押し付けているような人間なのかなと一瞬思えるのですけれども、そんなことはまったくないです。幼い頃に母親との物語があって大事なものを失いました。そこを大僧正(麿赤兒)に拾ってもらって育てられたのです。頼るものがお寺であり、仏法だった。だからこそ、何かを押し付けているのではなく、周りがアクションを起こしたことに対して自然と言葉がこぼれる。その言葉によって登場人物がいろいろなことに気付いていく。それが風太郎の名言になっています。去る者は追わず、来る者は拒まず。歩くお寺という感覚です。それに、この作品は第一線を走られている本宮さんの原作なので感謝の思いで演じさせていただきました」

――風太郎は、現代社会の問題で悩み、迷う人たちを叱って、導いてくれます。

「風太郎は様々な概念を外していき、物事の本質を見ていくというところにたどり着きます。言われたことをただ行うことがすべてではなくて、物事ひとつひとつのあるべき姿を自分でとらえようと行動に出る。その姿に、より人間臭さを感じます。風太郎というキャラクターは人間の本来あるべき姿を描いています。どこかわびさびのような、忘れかけている心をもう一度思い出させてくれる、人間臭いキャラクターだと思っています」

――様々な現代問題を取り上げるストーリーです。

「この作品は、インターネットやSNSと切っても切り離せない現代社会において、会社で働くサラリーマンをはじめ、いわば社会システムの中で日々追われる現代人に焦点を当てた社会派の映画であるとも言えます。そこに、親と子の物語も入ってきます。とはいえ、そこまで硬い話ではなく、肩の力を抜いて観ていただけると思います。本当に熊みたいなキャラクターが世に出て右往左往する。そんな様子を、純粋に楽しんでいただければと思います」

無精ひげの風太郎。市原のイメージをいい意味で覆す (C)本宮ひろ志/集英社 (C)2019 株式会社浜友商事
無精ひげの風太郎。市原のイメージをいい意味で覆す (C)本宮ひろ志/集英社 (C)2019 株式会社浜友商事

――市原さんのイメージをいい意味で覆すような風太郎の無精ひげが印象的です。

「実は、最初は迷いました。ないほうがいいかもしれないと。選択肢を考えていって、やっぱり付けたほうがいいですよね?どうしますか?と柴田啓佑監督と話し合いながら決めました。僕も監督も原作が大好きで敬意を払って向き合っていますが、映画化するにあたり、いまの時代だからこその新たな喝風太郎を描きたくて、どうしようかとかなり悩みました」

――最終的にひげ姿でいくことを決めたのは?

「監督と意見が合致して決めました。やっぱりひげですよね、と」

――付けひげを使用したと聞きしましたが、自分自身を見てどうですか。

「私生活もここまで伸ばしてみたいです(笑)。今までここまで伸ばしたことはないです。仕事ができなくなっちゃいますよね(笑)。自分で自分の姿を楽しんでいました」

――ひげで苦労した点はありますか。

「苦労したのは……食べちゃうんですよ(笑)。食事のシーンで、ひげが口の中に入ってしまって、大変でした。それに衣装についてスタイリストさんも交えて話し合いました。例えば、数珠の大きさ。袈裟についても、もう少しウォッシュをかけて汚しを増やして、ぼろぼろな感じを出そうと、相談させていただきました」

――冬の時期に浜松がロケ地。撮影中のエピソードはありますか。

「都内で撮影するよりちょっとゆとりができるような感覚で、和気あいあいとした現場でした。般若心経を覚えなければならなかったので、寝ても覚めても、移動の車内でもずっと唱えていました。護摩行のシーンでは、かなり熱く、カットの声が聞こえず続けていました。そうしたら周りにいた本物の僧侶の方が「大丈夫ですか、それは熱いですよ」と声をかけてくださいました(笑)」

劇中に登場する風太郎の名言も見どころのひとつだ。 (C)本宮ひろ志/集英社 (C)2019 株式会社浜友商事
劇中に登場する風太郎の名言も見どころのひとつだ。 (C)本宮ひろ志/集英社 (C)2019 株式会社浜友商事

「役者は仕事でありながら、いまも夢」

――僧侶という特殊な役を演じる中で難しいと感じた点はありますか。

「実際に住職の方にお話を伺い、ひとつひとつの所作、行う意味、向き合うべきところなど細かくお聞きました。こうした中で、やっぱり役者というのは追いかけることしかできないものなんだな、と改めて深く感じました。物事の核心を突く僧侶という存在の深さを感じながら、自分なりに考えたことは、常に何かを自分に問い続けることが仏法の目的なのかなと。『喝』という意味は、何か気持ちがぶれていたり、ちょっと邪念があるときに、自分の襟を正す。このような意味なのかなと考えています」

――劇中では、「あんたの人生だ。生きるのはあんただぞ」などといった名言がたくさん出てきます。見どころのひとつです。

「風太郎がいきなり言うことで、周囲はざわつきますが、誰しもが思っていることを掘り返してくれるような言葉なのです。だから押し付けではなく、『やっぱりそうだったんだ』と改めて受け止められる。自分の信じるもの、考えることを『これだ』とここまでしっかり言える。これはなかなかできることではないです。僕の思うことですが、本気で泣いて本気で笑って本気で悔しがって、物事の根源を大切にし続ける。これが、僕のいまの生きがいです。それは自分に対して問い続けるものでもあります。風太郎の発言も、全部自分自身に対してのものなんですよね。風太郎の言葉を無理に聞く必要はないですが、いま忘れかけているような、核心を突くような言葉がたくさん出てきます。映画を見終わったあとに、こういう考えになってみようかな、こういう思いをあの人に伝えてみようかな、と何か少しでも感じていただけるものがあればと思います。そこに映画独特の楽しさがあると思いますし、余韻に浸っていただけたらうれしいです」

――そんな風太郎に市原さんが相談してみたいことはありますか?

「難しいです。僕は約20年間俳優を続けてきて、役者は仕事でありながら、いまも夢なんです。でもすごく難しいはざまにいて、時代もどんどん変わっていく中で、夢のためにはいろいろな壁もたくさんあります。夢を捨てるべきなのか、仕事を捨てるべきなのかという選択を迫られた時に、夢を追い続けていいのかなという思いにもなります。役者の根源を問われれば、お金を稼ぐことではない。現場で芝居をすることだけが目的ではなく、その奥にあるもの。演技を通してお客様に何かを渡すことが一番の目的なので、僕自身がそこを忘れないでいたいです。風太郎に相談したいことは山ほどありますね(笑)」

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