買ったばかりのホイールを縁石でガリッ。ショックの思いをつぶやいたら、人生を変えるまさかの展開に……。愛車のハプニングをきっかけに、結婚・出産の人生ストーリーを紡ぐ夫婦がいる。しかも、婚約指輪はカー用品で、長男は2歳でもうクルマ好きに。“恋のキューピッド”を担ったのは、スズキ・スイフトスポーツだった。仰天のなれそめとは。（取材・文＝吉原知也）

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「スイスポに乗っていなかったら、今の人生はないです」

　医療関係の仕事に就く32歳の妻はこう実感を込める。夫は29歳会社員。この5月に長男は2歳を迎える。幸せいっぱい家族だ。

　妻はスイフトを3台乗り継いでいる。「大学1年の時に、おじいちゃんに買ってもらったのがスイフトでした。そこからスイフト、スイフト、スイスポ。全部赤なんです」。まさに一筋のカーライフだ。

　現在乗っているのは、2019年式で新車で手に入れたスイフトスポーツ（ZC33S）。その前に持っていたスイフトは新車1年ほどですぐに乗り換えた。「羽を付けて車高調を下げたいと思ったんです。じゃあ新しく買おうかなという考えになり、探していたら『これ欲しい』となったんです」。スポーツモデルにぐいぐいと引き込まれた。

　ちょっとした失敗から縁談に発展した。20年4月、縁石にこすってしまった。夏タイヤに履き替えたばかりで“やらかして”しまった。「ホイールを買って1週間でガリッと。メンタルも相当削られました。あーあってなって。X（ツイッター）に報告を書き込んだんです」。

　奇しくも、ある男性も同じような境遇をたどっていた。2019年式同型の白いスイフトスポーツの男性オーナーは同じ時期に、縁石でガリっとやってしまった。「僕自身、へこみました。Xで投稿を見つけて、同じ人がいるんだと思って、自分もそうですと返信欄に書き込んだんです。当時は相手が女性オーナーだとは思っていませんでした」。

　メッセージの内容は「私もやらかしました。ショック大きいです」というもの。これが将来夫になる人物からのコメント書き込みだとは、世の中の誰も予想できなかったであろう。

　当初は、“せっかく同じ車種に乗っているので、どこかで会って一緒に直しましょう”といった流れでやりとりを開始。うまく予定が合わず、個別でパテを埋めるなどして修復をしたうえで、ドライブの約束をした。約1か月後の5月のことだ。

　そして、ドライブで対面。夫は「実はこの時点でも、会うまでは女性だとは思っていなかったんですよ」。連絡先を交換、互いの雰囲気がマッチし、ほどなく交際がスタートした。

　夫がここで早くもアクセル全開で仕掛けた。「付き合って1か月でいきなりプロポーズされたんです」と妻。大胆過ぎる行動力だ。「結局、夫からのポロポーズは10回断りました（笑）。延期延期で（笑）、交際1年のタイミングで籍を入れました」。夫の情熱が実った。

　しかも、ブレーキキャリパーが「婚約指輪代わり」というから、さらにびっくり仰天だ。妻は「私はよく物をなくしてしまうので、婚約指輪は要らないよと夫に伝えました。そうしたら、『じゃあ』とキャリパーをプレゼントしてくれたんです。エンドレスというメーカーのもので、長野まで2人で行って、本社工場のショールームで選んだんですよ」。とびきりの思い出と強い絆があふれている。

　やっちゃったと落ち込む出来事から180度の展開。こんなことが起きるの？　と驚嘆の恋愛物語だ。妻は「皆さんからは『すごいね』『今時だね』とよく言われます」とはにかむ。

　ハイクオリティーのオーディオ機材を搭載し、こだわりを尽くしたカスタム。愛車をいじる喜びだけでなく、オフ会などで知り合った人の輪も広がった。妻は「結婚につながったこともそうですが、仲間がたくさんできたこともうれしく思っています。オーディオなど自分の好みの部分はやり切った感があるので、これからはいかに綺麗に維持できるか。コーティングを含めて大事に乗っていきたいです」と実感を込める。夫は「2台並ぶと、紅白カラーでおめでたく見えます。スイフトは家族の一員であり、なくてはならない存在です」と、長男を抱っこしながら笑顔を見せる。

　優しい顔立ちの長男はスイフトに乗るとハンドルやシフトを触っては楽しんでいるといい、早くもクルマ愛好家になりそうな兆しが。夫婦の願いは「自分の好きなことを、伸び伸びと、やりたいようにやってほしい」。スイフト一家の幸せドライブはどこまでも続いていく。