5戦オール1Rフィニッシュ、日系ブラジル4世イゴール・タナベの戦う理由「コミュニティーのお手本に」

日系ブラジル4世の格闘家イゴール・タナベ(23=セラヴィー)は格闘技イベント「RIZIN LANDMARK 9 in KOBE」(23日、兵庫・神戸ワールド記念ホール)で元UFCファイターのストラッサー起一(42=総合格闘技道場コブラ会)とウェルター級(77キロ)で対戦する。ここまでのプロ5戦全てを1R・一本勝ちで終えている未来が楽しみな選手だ。そんなイゴールに日系ブラジル人としての思いや憧れの舞台「RIZIN」について話を聞いた。

インタビューに応じたイゴール・タナベ【写真:ENCOUNT編集部】
インタビューに応じたイゴール・タナベ【写真:ENCOUNT編集部】

サトシやクレベルはコミュニティの希望「もう憧れです」

 日系ブラジル4世の格闘家イゴール・タナベ(23=セラヴィー)は格闘技イベント「RIZIN LANDMARK 9 in KOBE」(23日、兵庫・神戸ワールド記念ホール)で元UFCファイターのストラッサー起一(42=総合格闘技道場コブラ会)とウェルター級(77キロ)で対戦する。ここまでのプロ5戦全てを1R・一本勝ちで終えている未来が楽しみな選手だ。そんなイゴールに日系ブラジル人としての思いや憧れの舞台「RIZIN」について話を聞いた。(取材・文=島田将斗)

 現在は東京都近郊の一軒家で家族と暮らしている。出身は三重県。日本にブラジルから出稼ぎに来た両親とともに3歳のときに来日した。

「日本の学校に入った時は苦労しました。言語のコミュニケーションが難しかったですよね。サッカーが大好きだったんですけど、話せないから仲間に入れてもらえなかったりしました。僕は何もできないから暴力で返したりもしちゃいました。暴力的ではなかったんですけど、それしかコミュニケーションの取りようがなかった」

 その状況も日本語を話せるようになると徐々に変わってくる。

「一気に学校が楽しくなりました。でも幼少期からずっと柔術があったから楽しかったんです。学校で嫌なことあっても帰ってくれば柔術があったので、仲間外れにされて悲しいというよりは悔しいの方でした」

 柔術を始めたのは7歳になる直前。「2007年2月です」と明確にその日を覚えている。「ボウリング場の一室を借りてやっていました。そこは休日にブラジル人が集まるようなところで。師範と僕の父が知り合いで、しかもその人は今となっては妻のお父さんなんです(笑)」と照れくさそうに笑う。

 最初は空手がやりたかった。「そのとき、子どもたちの間で空手がブームだったんです。だから空手をやりたかったんですけど、柔術はダイエットに良いって聞いて、『お母さんと行くなら』って気持ちで通い始めました」と自分の武器との出会いを振り返る。

 それでもスタートから真剣に取り組んでいた。お試しで始めた1か月で柔術にドハマり。すぐに「世界一になりたい」と思い始めたという。イゴールはそこからメキメキと頭角を現し8年連続で柔術日本一の実績や、世界大会でも優勝するほどの選手となった。

 MMAに初挑戦したのは2021年10月、「HEAT 49」での清水洸志戦。これまで5戦を経験し全て1Rで一本勝ちを収めている。柔術時代からMMAは大好きだった。

「僕、本当にMMAが大好きなんですよ。柔術を始めて、PRIDE、DREAMとか見始めました。大人になったら総合格闘技をやりたいと思うようになったんです。それでも柔術を頑張ってきたんですけど、UFC、日本だとRIZINは全て見てきましたね」

 夢の舞台「RIZIN」に立っている。「本当にファンなんですよ」と前かがみになり「他の選手はどう感じているか分からないですけど、僕はRIZINに出ることが感慨深いんです。夢がかなってる感じですよ」とうなずいた。

 日本柔術界、格闘技界で活躍するボンサイ柔術のホベルト・サトシ・ソウザやクレベル・コイケの存在は「憧れ」であり別格。他のファンとは違う目で2人を見てきた。

「出稼ぎに来ている人って一般的には工場で働いたりしている。自然とその労働者の子どもたちも同じ未来につながっちゃうんですよね。それは自分は良くないと思う。みんなそれぞれ自分の夢を持って追いかけてほしい。

 外国人というだけで難しいことっていっぱいある。コミュニティーの外国人で成功している人は少ないんですよ。だからお手本となる人がいないと、もっと成功が難しくなる。そのなかでサトシ選手、クレベル選手がいると『俺も頑張れる』『俺もいける』って思うんです。僕も僕を見て、そう思ってくれる子どもがいればすごくうれしい」

「特にサトシ」と舌を巻く。「もう憧れですね。サトシは本当に柔術でめちゃくちゃ活躍している。日本で活躍していたのは当時はサトシだけ。同じ日系ブラジル人だし、日本で練習しながら海外で活躍しているというのもあって」と思わず早口になっていた。

 サトシもクレベルも「気持ちは日本人」と日本のために戦っている。イゴールも同じ考えを持っていた。

「僕たちの格闘技を作ってくれたのは日本。僕はブラジル人と言えど、格闘技の肩書き(国籍)にブラジルだけではなくて日本もあってほしいんですよね。もし国際戦に出るなら日本にしてもらいますね。それが自分からしたら恩返しになると思うんです。

 あそこに国があるってことは国を背負って戦っているのだと自分は思っている。五輪みたいな感じ、ブラジルにもちろん感謝もある。ブラジル人であるからこその特徴もある。でも、自分は日本に住んでいなければ格闘技と出会ってなかったし、ここまで来れなかったので感謝ですよね」

会見の席が前列になり家族で喜び「そういうのが本当にうれしい」

 RIZINへは23年7月の「超RIZIN.2」から出場している。今回のストラッサー起一戦を前に会見ではMMAで戦っている理由について「お金のためにから世界一になりたい」に変わったことを明かしていた。転向の理由を改めて明かす。

「コロナ禍で柔術界が全く動いていなくて、妻が2人目を妊娠して『1人でも大変なのに』ってすごく将来を心配していたんですよ。MMAのオファーは以前からあってファイトマネーも良いって聞いていました。妻が泣いているのを見て、その場で決めました。本当にそこで覚悟を決めました」

 妻は活躍を毎回、驚きながらも「誇りに思ってくれている」と語る。会見やポスターでのイゴールの露出のされ方が少しずつ変化していることが家族内での喜びのひとつだ。

「最初の出場は会見もなかった。でも今回は前列に座らせていただいた。ポスターも大きく写真載せてくれている。今日(1月31日の会見)もメール来ました(笑)。そういうのが本当にうれしいんです」

 これまでの試合は全て1R・フィニッシュ。観る側が少しでもよそ見をしているとあっという間に試合が終わってしまう。MMAシーンのグラップリング技術が遅れているのか。それともイゴールが飛びぬけているのか。

「自分でも言うのもおかしいんですけど、寝技だけでいったらどこに行っても活躍できると思うんですよ。UFCでも世界トップとやっても全然できる自信があるんです。日本MMAはどちらかと言うと寝技が多いと思う。だから遅れているわけではないと思うんですよね」

 なぜイゴールだけが寝技で“スカ勝ち”しているのか。本人はこう分析している。

「それは僕がいままでやってきたことが違いますから。僕は世界と柔術をやってきた。世界の柔術レベルと一般の柔術レベルは全く違うんです。(自分のような)練習相手もいないと思うし対策もしづらいと思う。みんなが想定していないことをいつもやっていますから」

 それでもMMA練習となると話は別だ。壁レスがメインだとやられてしまうことも多いといい、初心に戻るきっかけになっているという。

「僕はずっと言ってるんですけど、柔術だけに頼りたくない。それだと限界があるから。果てしなくトップに行きたいので、打撃も毎日やっていますし、レスリングもやっています。本当に誰とやっても負けない準備はしているんですよね」

 今回は元UFCファイターという肩書きのあるストラッサーとの対戦だ。この試合、そしてこの先はどんな未来を描いているのか。

「とりあえずRIZINにウェルター級のベルトを作ってほしいですよね。ベルトを獲りたいです。相手は別に指定はしません。ゆくゆくはベルトを持ってRIZINを代表して海外の他団体で戦っていきたいです」

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