芦原妃名子さん死亡後も小学館漫画原作で新ドラマ制作の動き「まさかやるつもりだったのか」

日本テレビは22日までに、4月期放送を予定していた小学館の漫画を原作にした新ドラマについて、同期での制作を見送ることを明らかにした。1月29日には、同じく小学館漫画を原作にした昨年10月期放送『セクシー田中さん』の原作者・芦原妃名子さんが急死したばかり。その状況下、同局がまたも小学館との新ドラマ制作を進めていたことに元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士は驚き、「順番が違う」と厳しく指摘した。

西脇亨輔弁護士【写真:本人提供】
西脇亨輔弁護士【写真:本人提供】

今期の制作は中止 元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士「順番が違う」

 日本テレビは22日までに、4月期放送を予定していた小学館の漫画を原作にした新ドラマについて、同期での制作を見送ることを明らかにした。1月29日には、同じく小学館漫画を原作にした昨年10月期放送『セクシー田中さん』の原作者・芦原妃名子さんが急死したばかり。その状況下、同局がまたも小学館との新ドラマ制作を進めていたことに元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士は驚き、「順番が違う」と厳しく指摘した。

「まさか今まで、本当にやるつもりだったのか」

 それがこのニュースを聞いたときの第一印象だった。

 日本テレビが、4月から放送予定だった小学館の漫画を原作とした連続ドラマの制作を見送ると明らかにした。同じく小学館の漫画を日本テレビがドラマ化し、昨年10月期に放送した連続ドラマ『セクシー田中さん』の原作者・芦原妃名子さんが急死したのは1月29日。週刊文春の報道によれば『セクシー田中さん』と同じプロデューサーが、再びこの4月期に小学館の漫画を同局でドラマ化しようとしていたのだという。

 ドラマの制作準備は放送開始の数か月前から始まるのが普通なので、このプロデューサーは芦原さんの急死とこれを巡るさまざまな議論を横目に、次の漫画をドラマにする作業を続けていたことになる。

 しかし、それはやることの順番が違うのではないか。人の生命が失われた事件が起きたのだ。何をおいても真っ先に、「なぜこんな悲劇を起きたのか」を調査する必要がある。そして、その中心人物は、番組の全てを仕切り、原作者と脚本家の間を取り持ったはずのプロデューサーだ。

 私もテレビ局でさまざまな社内調査をしていたが、その第一歩は当事者に全ての資料と上申書を提出させ、しっかりヒアリングをすることだった。今回の事案なら、プロデューサーらから原作者や脚本家とのやり取りの記録をすべて提出させ、制作中の出来事や放送後に起きたSNSの炎上にどう対応したのかについての上申書を作らせ、それを基にヒアリングをする。一連の調査は1日や2日で終わるものではない。ドラマを作りながら片手間にできることでは、絶対にない。

問題の真相は解明されるのか…調査が甘くなる恐れ

 こうした事件が起きたら、その番組の担当者はいったん番組制作のローテーションから外し、調査協力に専念させるのが通常だと思う。悲劇が起きた番組のプロデューサーに、原因究明も済んでいないのに番組制作を続けさせることは適切とは思えない。

 しかし、日本テレビ側は調査チームの設置さえ、芦原さんの急死から2週間以上が過ぎた今月15日まで行わなかった。もともとは社内調査もせず、何事もなかったように同じスタッフに小学館の漫画をドラマ化させ続ける予定だったということなのか。これで本当にこの問題の真相は解明されるのだろうか。

 実は今、気になっているのは、設置から1週間が過ぎたのに「日本テレビの調査チームが大々的な調査をしている」という話があまり伝わってこないことだ。

 そもそも調査についての同局の発表は「外部有識者の方々にも協力を依頼した上、ドラマ制作部門から独立した社内特別調査チームを設置」するというものだった。これはかみ砕くと「いつもお願いしている会社の顧問弁護士などにチェックしてもらいながら、法務・総務部門などの社員で調査する」という意味に読める。会社とのしがらみがない第三者による調査委員会に比べると、調査が甘くなる恐れがある。

 しかし、今回の問題の背景は広く根深い。中途半端な調査では済まないはずだ。

 まずはドラマ制作サイドと原作者、脚本家の意思疎通がどうなっていたのか。芦原さん死去後の今月8日、脚本家・相沢友子氏は「芦原先生がブログに書かれていた経緯は、私にとっては初めて聞くことばかり」とSNSにコメントした。プロデューサーは関係者に何を伝えて何を伝えていなかったのか。

 また、日本テレビの現場プロデューサーはプライムタイムの連ドラを担当するのは、これが初めてだったという。チーフ・プロデューサーは『ホタルノヒカリ』『おせん』など、講談社漫画のドラマ化で知られている印象がある。プロデューサー陣と小学館側の意思疎通は円滑だったのだろうか。

 もう1つ大切なのは、以前にも指摘したが、ドラマ放送終了後の脚本家と原作者のSNS上での論争を日本テレビがなぜ放置したのかという問題だ。これは悲劇の直前に起きていたことなのだから、十分に検証しなければならない。

 そして、このSNSの問題も含めて事態の全体像を明らかにするためには、番組の全スタッフ、原作者、脚本家の関係者も含め、幅広い人々から話を聞く必要がある。

 急死の直前、芦原さんの脳裏に浮かんでいたのは何だったか。

 幅広い関係者に聞き取りして徹底して調査し、芦原さんの思いに少しでも近づかない限り、真相は見えてこないはずだ。

 しかし、「社内」の調査チームだと、ヒアリングなどの対象を少数に絞り、調べを内々に済ませようとする傾向がある。その方が情報はもれにくいし、事態を小さく見せやすいからだ。今回の調査ではそんなことは決してあってはならないし、今回のドラマ制作中止が幅広い本格調査のきっかけになることを祈っている。

 真相究明なくして、再び原作を預かる資格はない。

 そうした思いで調査を進める必要があるのではないだろうか。

□西脇亨輔(にしわき・きょうすけ)1970年10月5日、千葉・八千代市生まれ。東京大法学部在学中の92年に司法試験合格。司法修習を終えた後、95年4月にアナウンサーとしてテレビ朝日に入社。『ニュースステーション』『やじうま』『ワイドスクランブル』などの番組を担当した後、2007年に法務部へ異動。弁護士登録をし、社内問題解決などを担当。社外の刑事事件も担当し、詐欺罪、強制わいせつ罪、覚せい剤取締法違反の事件で弁護した被告を無罪に導いている。23年3月、国際政治学者の三浦瑠麗氏を提訴した名誉毀損裁判で勝訴確定。6月、『孤闘 三浦瑠麗裁判1345日』(幻冬舎刊)を上梓。7月、法務部長に昇進するも「木原事件」の取材を進めることも踏まえ、11月にテレビ朝日を自主退職。同月、西脇亨輔法律事務所を設立。

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